魔法攻撃の天馬合戦
アラウィリアでの最終日。
領主が見ている中での天馬合戦が始まろうとしていた。
5対5で鈴はグレイザックとアブストールが持つ。
リディオノーレは腰に調合した薬をぶら下げていた。
フェルバールやバルデミアン、ムナグレークも同じように持っている。
「負けませんよ」
今回は副団長のライムグートも参加である。
面子としては団長、副団長が出るのでなかなかに強敵だ。
そして、今回の審判は領主がしてくれるらしい。
「グレイザック様には近付けさせませんので」
リディオノーレは杖を出して、好戦的ににやりと笑った。
アブストールとライムグートも目つきが変わる。
「アインズビルが持っている薬に気をつけろ!こちらは攻撃すればいいだけ!いつもの訓練のようにやれば良い!」
アブストールは今回参加する騎士に指示をすると、天馬に跨り離れていく。
「任せたぞ、リディ」
グレイザックもそう言うとにやりと笑って、離れて行った。ムナグレークもついて行く。
アインズビルは対照的に、攻撃をかわしていなして避けて守り抜けばいいだけ。
できる。
リディオノーレは杖をぐ、と握る。
(大丈夫。できる)
そして、領主の合図と共に天馬合戦が始まった。
アブストール以外の4人が一気にアインズビルに攻め込んでくる。
フェルバールとバルデミアンが迎撃体勢に入るが、リディオノーレは先に闇の魔法陣を展開する。
「オスブル!」
「ちっ!!ルミーチェ!!」
真っ暗闇になったのも束の間、1人の騎士がすぐさま光の魔法陣を展開した。
予想していたのか、武器に変えていない杖のままの騎士がいる。
リディオノーレはそれも予想していたのですぐさま叫ぶ。
「フェルバール様っ!!」
その声に応じるようにフェルバールが腰の薬の蓋を開けて、撒き散らした。
「っ!!!」
お互いがそこから距離を取る。
痺れ薬が霧散する。だが、距離を取られると効き目がない。
リディオノーレはすぐさま杖を振る。
「ヴァンビエ!!!」
風を起こし、薬の効果をアラウィリア側へ。
「くぅっ!!」
アラウィリアの騎士が1人、薬を吸い込み、天馬も動けなくなり、地面に伏せた。
「くくっ」
領主がそれを見て笑う。
離れた上空で見ていたグレイザックとムナグレークも少し笑う。
風を起こすくらいなら攻撃魔法ではない。
ギリギリを攻める所が本当にリディオノーレらしい。
「それよりあの痺れ薬、効果が妙だな」
グレイザックはそちらに興味があるらしい。
「本来の素材とちがうものを使った弊害か」
グレイザックはくく、と面白そうに笑っている。
「有害ではないのですか」
ムナグレークは心配な顔をする。
「大丈夫だろう。最悪、俺が何とかする」
グレイザックは倒れている騎士を見やり、心配なさげにさらりと述べた。
「痺れ薬だ!気をつけろ!!」
アブストールが離れた所で指示をする声が上がる。
「鈴さえ取れればいいのだ!3人の攻撃をかわせ!」
フェルバールとバルデミアンが残りのアラウィリアの騎士をグレイザックの元に行かせないよう立ち塞がる。
だが、ライムグートがフェルバールとバルデミアンを相手取る。
「私が止めている間に行け!」
ライムグートは残りの2人の騎士に命じる。
その騎士を抑えにリディオノーレは杖を振るう。
「ヴァンビエ!」
向かい風を起こし、行く手を阻む。
「オグメント!」
増幅魔法も重ねるリディオノーレ。
「やりますね」
彼女の頑張りにムナグレークが舌を巻く。
だが、2人の熟練した騎士を相手するには、その術だけでは足りない。
フェルバールとバルデミアンは焦る。
ライムグートが強いのだ。リディオノーレを助けに向かえない。
リディオノーレは腰の薬を放り投げた。
あれは、睡眠薬だ。吸い込んだら、意識が飛ぶ。
だが、騎士たちもある程度の予測はしているので、薬を投げる動作をすれば、すぐに引き下がる。
彼女は武器を使えないので、接近戦に弱い。
一定の距離は保っておかないとすぐにやられるのが分かっている。
なので距離が取れる魔法を行使する。
「ルミーチェ!!」
目眩しを放ち、その一瞬の隙を狙って、「シュテジアンテ!!!」と唱えながら杖を振る。
浮遊魔法である。
そこらじゅうの石ころや木の枝などが雑然と浮いた。
「それは攻撃だろう!!!」
と相手の騎士が叫ぶ。
「違いますよ!!浮遊魔法です!!!」
そして、「ヴァンビエ!!」と風を起こす。
「ぐっ!!!」
石や枝が2人の騎士に向かって飛んで行く。
そんな威力はないものの、数が多く、全ては躱せないし、剣で弾いてもいくらかは体に当たる。
地味に嫌な攻撃である。
「ぷっ!!!ははっ!!何だそれはっ!」
領主が高らかに笑っている。
因みにグレイザックも笑っていた。
「面白い。術を組み合わせて攻撃するとは」
「楽しいぞ!リディオノーレ!もっとやれ!」
領主が応援している。
「領主さま!どちらの味方ですか!?」
ライムグートが悲痛な声を上げた。
「1人武器を解除しろ!」
アブストールが命じて、1人の騎士が剣を杖に戻す。
その様子を見て、今まで口を出していなかったグレイザックが初めて命じた。
「グレーク、行け」と。
ムナグレークが杖を剣に変え、リディオノーレの元へ向かう。
「剣は私が相手します!リディは魔法で相手できますか?」
ムナグレークが彼女に素早く尋ねる。
「やるしかないから、やりますよ」
どこぞの勇ましい騎士か、とムナグレークは突っ込みたくなったが彼女なら大丈夫だろう。
リディオノーレは魔法陣の紙を取り出し、杖を構え直す。
「同じ魔法なら、魔力が多い方が勝つ!遠慮なくいけ!」
グレイザックが叫んだ。
その言葉に彼女は緊張していた体が落ち着くのが分かった。
たった一言で効果絶大である。
ライムグートがフェルバールとバルデミアン。
ムナグレークが剣を手にしている騎士相手に。
リディオノーレは杖で応戦してくる騎士相手に。
そして、アブストールが剣を構えたのが分かった。
グレイザックと一騎打ちをするつもりかもしれない。
ピリピリと緊張感が漂う中、リディオノーレが1番に叫んだ。
「ルミーチェ!!!」
からの「ルミーチェ!!!」
目眩しの2段活用。
視界の端にアブストールが突っ込んでくるのが見えた。
グレイザックはお決まりの大剣でアブストールの剣を受ける。
「ヴァンビエ!!!」
とリディオノーレの相手の騎士が叫んだ。
「ヴァンビエ!!!!」
風に押されながらもリディオノーレは唱える。
魔力量はリディオノーレの方が上。
それを信じて彼女は全力で風を叩きつける。
そして、まだ使っていない薬を割って撒き散らした。
ついでに増幅魔法もかけ、風の威力を増やす。
「ぐっ!っ!!!!」
彼女の相手をしていた騎士は「かはっ!」と咽せると、ごほごほと咳が止まらなくなる。
叫びたいが声も出ない。
「喉専用の痺れ薬です」
リディオノーレはにやりと笑った。
効き目があったようで安堵した。
「喉をやられちゃ、唱えられないでしょう」
リディオノーレはそのまま睡眠魔法をかけた。
彼女の相手をしていた騎士は天馬ごとそのまま地面に伏せた。
彼女はふぅ、と息をつき、上空のグレイザックを見上げた。
アブストールと互角の戦いを繰り広げている。
剣を交え、また離れ、また打ち合い、その繰り返し。
他の者を見てみると、なんと、皆が休戦していた。
ライムグートとフェルバール、バルデミアンは、上空の2人の戦いをじっと見ている。
ムナグレークとその相手も2人の行く末を見ていた。
領主や他の観客も凝視している。
何合目かで、アブストールとグレイザックが叫んだ。
「ライムグート!」
「リディっ!!!」
2人の名を呼ぶと、アブストールとグレイザックは距離を取った。
2人は剣を杖に戻す。
アブストールの元にライムグートが、グレイザックの元にリディオノーレが向かう。
「何するんですか」
リディオノーレは怪訝な顔で尋ねる。
「来い」
グレイザックが手を出した。
リディオノーレは疑問に思いながらも彼の天馬に移る。
前に座り相乗りに。
彼女が乗っていた天馬はふわりと地上に戻って降り立つ。
アブストールとライムグートは耳打ちをしている。
グレイザックも作戦会議を始めた。
「魔法攻撃をする。この前の魔獣狩りみたいに機転をきかせろ。……やれるか?」
グレイザックは前に座る小さい頭に問いかける。
「……頑張ります」
リディオノーレは杖を出した。
「頼んだ」
グレイザックはそれだけ言うと敵2人を見据える。
そんな打ち合わせでいいのだろうか、と彼女は思ったが、グレイザックがそれ以上何も言わないのだからそれでいいのだろう。
リディオノーレは補助に徹するだけ。
お互いが準備ができたのを見計らい、領主が拡声の魔法を使って口を開いた。
「これより魔法攻撃になる。各自、盾を展開するなりして自分の身は自分で守るように。できない者は儂より後ろに下がれ。最後に立っていた者が勝者だ。グレイザック!アブストール!殺すなよ!!」
領主はそれだけ言うと口を閉じた。
アブストールは頷き、グレイザックはにやりと笑う。
領主の許可が出た。
思う存分やらせてもらう。
4人が杖を構えた。
魔法陣を描いた紙も手にしている。
最初は何を出してくる?
リディオノーレは緊張でいっぱいだったが、とりあえず最初はこれだと決めていた。
「ヴァンクリンゲ!!!」
「フランヴェロギッタ!!!」
アブストールが風刃を。
グレイザックが炎の矢を放つ。
「「スクーピダウム!!!」」
リディオノーレとライムグートの声が重なった。
盾を発動させる。
おお!と下から歓声が上がった。
「フランヴェロギッタ!!」
「……オグメント!!!」
グレイザックは間髪入れず、再び炎の矢を放つ。
リディオノーレはそれに少し遅れて、増幅魔法を。
一回盾に変えた杖を戻さないといけないからだ。
「アクヴァドール!!」
アブストールは相殺させようと水魔法を発動させる。
ライムグートはそのまま盾で防ぐ。
炎の矢が水に当たると、ジュッと音を立てて蒸発する。矢に当たらず、リディオノーレ達の方に向かってくる水に彼女は杖を振るう。
「グラロ!!!」
一瞬にして、水が凍る。重力で落ちる前に次の呪文を唱える。
「「ヴァンビエ!!!!」」
彼女とグレイザックの声が重なった。彼女がやることを察したグレイザックが合わせてくれた。
氷を強風でアブストール達の元へ押し返す。
「ちぃっ!」
ライムグートは盾で防御する。風の威力が強すぎる。
「トルドゥル!!」
アブストールは上から術を行使できる雷撃を放つ。
「スクーピダウム」
グレイザックは何も焦ることなく、上からの雷撃に盾を展開する。
「殺す気ですか。アクヴァドール!」
リディオノーレは少し怒りながら、水魔法を出す。
増幅と拡大魔法を重ね掛けし、風魔法で上空に水を放つ。
「フリワッ!!!」
上にあがった水に冷却呪文をかけた。
彼女のやりたいことが分かり、グレイザックは盾を展開したまま待つ。
待つのも束の間、雨が降ってきた。
土砂降りだ。
だが、ほんの一瞬。ほんの一瞬だが、その一瞬で皆が濡れ鼠になる。
グレイザックの盾のおかげで、リディオノーレは濡れずに済んだが、アブストールとライムグートはぐっしょりと濡れた。
グレイザックはすぐさま盾を解除すると、彼女と共に呪文を唱えた。
「「トルドゥル!!!!」」
雷撃である。
「ぐぁっ!!」
「ぐぅっっ!!!」
アブストールとライムグートは通電し、気を失った。
ひゅるる、と落ちていく2人をムナグレーク達が受け止める。
すぐさま回復呪文をかける。
「………勝者、グレイザック!!!」
領主が大声を上げた。
その声で一気に気が抜けたリディオノーレ。
天馬にもたれかかる。
「よくやった」
グレイザックがそう言った。
補助を頼んだつもりだったのだが、自分が補助にまわった気がする。
補助にまわった戦いをしたことがなかったので、これはこれで新鮮だった。
そしてその2人を見ていたアインズビルの面々は末恐ろしさを感じていた。
なんて2人なんだ、と。
グレイザックの攻撃に合ったものを展開していたリディオノーレだったが、いつの間にか反対になっていた。
彼女の術にグレイザックが合わせていた。
それは恐らく彼だから出来たこと。
そして今でこれだけ術を出せるのだから、リディオノーレは有望であるに違いない。
それをアラウィリアで見せつけた。
これでまた彼女に縁談が増えるだろう。
天馬合戦の領地、アラウィリアでここまでの実力を見せたら、彼女の学院生活は合戦の申し込みで溢れるだろう。
これは間違いない。
「リディ、魔力回復薬を飲んでおけ」
天馬にもたれかかるリディオノーレにグレイザックは回復薬を渡す。
彼女は言われた通り、ぐび、と嚥下するとまたもたれかかった。
「大丈夫か」
「何とか。眠ってしまいたい所ですが、ティア様とちゃんと挨拶して帰りたいので」
「…………グレティアーナのことか?」
数拍考えたのち、グレイザックは眉間に皺を寄せて尋ねた。
「そうですよ。仲良しなんです」
リディオノーレは脱力したまま振り返って、にこりと笑った。




