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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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薬の調合



アラウィリアで過ごすのもあと少し。

思ったより長居してしまったらしい。

でもあと一戦、天馬合戦の予定が入っている。


「リディに杖もあることだし、余裕だな」

グレイザックの部屋で作戦会議中、部屋の主はにやりと笑った。


「魔法攻撃してもいいのですか?」

リディオノーレは尋ねる。

「それは無しだ。お前、加減が出来ないだろう」

グレイザックは彼女の額を弾く。

「ですよね。じゃあどうしましょう。闇や光はあっちも予習済みでしょうし」

彼女は額を押さえながら唸る。


「そこはお前の腕だな」

グレイザックはにやりと笑った。

「ま、待って下さい。何をするか教えておいて下さい」

フェルバールは焦ったように口を挟んだ。

リディオノーレは困った顔をする。

「まだあまり思いついていないのですが……」

彼女は唇を尖らせた。


「今思いつく限りのことを言っておいて下さい」

フェルバールは懇願する。

こちらもこちらで心の準備が必要なのだ。

バルデミアンもリディオノーレの方を見つめる。


「雷撃や火や氷の矢などの殺傷力がある魔法が駄目なんですよね」

リディオノーレは顎に手を当てて考え込みながら呟き始める。

「じゃあ水は?水ならどうでしょう?」

「水?ですか?でも水の弾丸は駄目ですよ?」

ムナグレークが意見する。


「………雨は?雨はどうですか?」

リディオノーレはムナグレークを見つめる。

「雨?天候を変えるということですか?………そんな簡単に天候は変えられません」

ムナグレークは首を振る。

「範囲指定なら出来ませんか?」

リディオノーレは思いついたことを述べていく。

「……難しいかと」

サムエルやフェルバールも難しい顔になる。

「そうなんですね」

リディオノーレは項垂れた。


「……雨を降らすのではなく、雨をつくるといった発想に変えてみてはどうでしょう?」

バルデミアンも皆と同じ難しい顔で意見してみた。

その意見にグレイザックが唇の端を上げた。

「面白い」

彼は言う。


「バルデミアン様、ありがとうございます。閃きました」

リディオノーレもにやりと笑った。

「水を蒸発させ、上昇させて冷やすことで雨を降らします」

彼女はそう答えた。

「え?」

さも簡単に言うのでサムエルとムナグレークとフェルバールが思わず聞き返す。


「時間がかかるかもしれませんが、試す価値はあるかと。あと、今思いつくのは幻覚魔法ですね。ちょうど調べた所ですし」

「………」

思いつく策が奇想天外だ。

ムナグレークとフェルバールは苦笑いになる。

グレイザックはとても面白がっている。


「幻覚はありだな。俺も試したことがある」

試したことがあるのか、とフェルバールは少し驚いた顔をしたが、段々驚きも減ってきた気がする。

突拍子もないことに少しずつ慣れてきた自分も怖い。


「今のところ思いつくのはこれくらいですかね。鈴の爆発はもう使えないですが、ハッタリとして使うのはできるかと思います」

「リディとグレイザック様がいれば、負ける気しませんね」

フェルバールは苦笑しながら答えた。


「今回の鈴は誰が持つ?」

グレイザックは皆を見回す。

「私の方がいいですか?」

リディオノーレは首を傾げる。

「お前はどう思う?」

グレイザックが彼女を見つめる。


ムナグレークはリディオノーレをちら、と見て考え始めた。

少人数ならフェルバールとバルデミアンが特攻しても相手を止めることができるだろう。

そして、グレイザックが後衛で指揮をし、ムナグレークと2人で鈴を持ったリディオノーレを守る。

5対5ならこちらに分がある。


「………グレイザック様が持って下さい」

リディオノーレは答えた。

「私が後衛で撹乱します。ただ、指揮が出来ないので、それは任せてもいいですか」

グレイザックは面白そうな顔をする。

「今回も逃げ切れば勝ちですか?」

「そうだ」

「では、それでいきます。グレイザック様に近付かせなければいいんですよね」

「そうだな」

「……できると、思います」

リディオノーレは頷いた。


「自信があるのか?」

「近付かせないことを念頭に置くのであれば、可能かと。………少し準備をしたいので、図書室に行ってもいいですか」

「構わん。バルデミアン、サムエル、付き添ってやれ」

グレイザックが許可を出してくれたので、3人で部屋を出る。

出る寸前にグレイザックが声をかけた。

「楽しみにしている」

その言葉にリディオノーレは少し微笑んだ。



彼女は部屋を出るとサムエルに言伝を頼む。


「グレティアーナ様に調合器具を拝借したいと伝えてくれますか?できればすぐに。図書室にいるので、ご用意ができましたら、ご連絡くださいと」

「かしこまりました」

サムエルが了承し、その場を離れて行く。


「何を調合するのですか」

図書室へと歩を進めながら、バルデミアンが尋ねる。

「色々です」

リディオノーレはにやりと笑った。


図書室への入室の許可をもらい、彼女は素材本の棚へと赴く。


「バルデミアンはこれとこれとこれの素材で調合できるものを調べてください」

彼女は紙に書いてバルデミアンに渡す。

「……分かりました」

彼は何も聞かず、了承し、探し始める。

リディオノーレも無言で調べ始める。


サムエルは少し時間が経ってから帰ってきた。


「言付けましたが、了承してもらえるか不明とのことでした」

「ありがとうございました。でも大丈夫です。最初の宴で交渉してましたから」

リディオノーレはニコッと微笑む。

アラウィリアに来た最初の宴でグレティアーナと話していたときにちゃんと交渉していたリディオノーレ。


もし、杖が壊れたら調合したいので、その時は器具を貸してください、と。


「そういえばそんなことを言っていた気もしますね」

サムエルはため息をついた。

本当に必要になるとは思っていなかったので、グレイザックに報告していなかった。


3人が調べ物をしている内に図書室に1人の女性が入ってきた。

確か、グレティアーナの側近だった気がする。


「こちらにリディオノーレ様がいると伺ったのですが」

「こちらです」

サムエルが1番に反応し、対応してくれる。

バルデミアンに目配せをし、バルデミアンはサッとリディオノーレが読んでいる本を取り上げる。


「んっ!!」

リディオノーレは思わず声を上げた。

「グレティアーナ様の側近が来ています」

バルデミアンが小声で告げる。

ハッとして、リディオノーレは勢いよく腰を上げた。


「リディオノーレ様、グレティアーナ様から許可を頂きました。ですが、グレティアーナ様がいる目の前での調合をお願い致します」

「かしこまりました。では、素材を持ってすぐにお部屋に伺います」

リディオノーレは嬉しそうに返事した。


「バルデミアン、先に行っておいて下さい。私はグレイザック様に知らせてから参ります」

サムエルはそう言ってすぐに動く。


リディオノーレとバルデミアンは素材を取りに戻ってからグレティアーナの部屋に向かった。


そこにはグレティアーナと何と領主がいた。

リディオノーレは驚いたが、すぐ低頭した。


「何やら面白いことをするらしいな。見せてみろ」

領主がにやりと笑った。

「リディオノーレ様、申し訳ありません。お父様がどうしても…と仰って…」

グレティアーナは申し訳なさそうに目を伏せる。

「いえ、大丈夫です。器具を貸していただけるだけでありがたいので」

リディオノーレはにこりと笑う。


「では、早速やってみせろ」

領主が声をかけ、リディオノーレは素早く準備する。

そして、調合を始める。

そんな時に扉をノックする音が響き、グレイザックが来たことが報告される。


入室許可を得て、グレイザックはサムエルと共に入室した。

彼は領主にすぐさま挨拶したのち、リディオノーレに近づき、額を弾く。


「突っ走りすぎだ」

グレイザックは笑みを湛えたまま注意すると調合を覗く。

覗いているだけで、何も突っ込まない。

「何も言わないのですか?」

逆に怖くなってリディオノーレは尋ねた。

「……続けろ」

グレイザックはそれだけ言って黙って後ろに下がった。


グレティアーナは調合が見える位置に陣取り、リディオノーレを凝視している。

領主はグレイザックの隣に並ぶ。


「すごい手慣れていますのね」

グレティアーナが感心したように述べた。

「杖の調合で慣れているのはありますね。でも薬をつくるのは初めてです」

リディオノーレは苦笑して述べた。

「!?」

グレティアーナと領主が軽く驚いた。


「そうなのか?グレイザック」

領主はグレイザックに尋ねる。

「ええ。見せたことはありますが、自分でやるのは初めてですね」

グレイザックも苦笑する。

ジッと彼女の手の動きを見ている。

安定した魔力の流し方。相変わらず上手い。


「バルデミアン様、その素材入れて下さい」

リディオノーレは混ぜる手を休めないためにバルデミアンに頼んだ。

「……ひとつ、出来ました」

リディオノーレはふぅ、と息を吐く。

初めてで緊張していたが、上手くいった。


「あれは何をつくったのだ」

どす黒い赤の液体を指差し、領主はグレイザックに尋ねた。何だあれは。

「………痺れ薬ですね。恐らく」

「恐らく?」

「足りない素材を別のもので埋め合わせたので、きちんと効果が発揮するか不明です」

魔獣狩りで採集していた素材だけでは足りない。似たような効果がある素材を投入していたが、それでどこまでの効果が出るかは分からない。


「なるほど。面白いな」

領主はにやりと笑う。

「あれは何だ」

次の調合に取り掛かっているリディオノーレを見て、また尋ねる。

「………飛散型の睡眠薬……ですかね」

大体の素材を見て、グレイザックは当たりをつける。

先程図書室へ行っていたのはこれらを調べるためなんだろうが、こういう物を思いつく時点で策士である。

戦にかなり向いている性格だろう。


魔獣狩りの時に見せた拡大や増幅魔法を咄嗟に思いつく所は実際感心した。

効果を高める方法を知っているのは実戦でかなり優遇される。


「そちが教えたのか」

領主がグレイザックに尋ねる。

「基本的な回復薬などの素材や調合に関しては教えています。今やっている痺れ薬や睡眠薬に関しては教えていません」

「だが、普通は思いつくものではないだろう」

領主が眉間に皺を寄せる。

「………私の弟子、ですから」

グレイザックは苦笑いで答えた。

そんな彼の表情を見ながら、領主は質問を重ねた。少し、小声になる。


「女の弟子を取ったということは、女嫌いが直ったのか?」

「………」

グレイザックは口を開きかけたが閉じた。


「女の弟子を取ったことで、お前への縁談が増えるぞ」

「ご心配くださりありがとうございます」

グレイザックは目を伏せて礼を言った。


「そちはあの娘と一体どういう関係なのだ」

領主は鋭い視線を向ける。

「師弟以外の何ものでもありませんよ」

グレイザックは答える。

「にしては親密らしいが?」

「気のせいでは?」

「ならば、あの娘をもらってもいいのか?」

領主の発言にグレイザックは少し目を見開いただけで表情は変えずに口を開いた。


「相手によります」

「ムナグレークにアラウィリアに帰ってこさせ、その嫁にどうだ」

「……痛い所ついてきますね。ですが、ムナグレークは私のものですよ」

グレイザックが反論した。

「ムナグレークが相手なら不服はないですが、囲うならアインズビルで、です」

一歩も譲らないグレイザック。


「嫁に出す気はないのか?見たところ、あれはお前と同じ犀の杖だろう?」

領主は調合しているリディオノーレの杖を見やる。

どうやら、象ではなく犀の杖に見えるらしい。

グレイザックは内心で安堵の息を吐いた。

「魔力が豊富なのは分かっている。奇策を使う所も面白い。お前が弟子に取っているというだけで、あの娘に価値があるのが分かる」

「そこまで買っていただけるとは」

グレイザックは唇の端を少し上げて続ける。


「ですが、もう少し魔力の高い者でなければ、あの娘は抑えられません。私は師匠として、魔力が釣り合う者としか許可は出せません。それにあの娘自身もどうやら結婚するのに条件があるらしいですよ」

「条件?何だ?」

領主が少し身を乗り出す。

「素材と本を豊富に所有していることが条件だそうです」

その答えに領主が眉間に皺を寄せた。


「グレイザックは魔力が釣り合う者が条件で、あの娘は素材と本?」

領主は呟きながら、眉間に更に皺が寄る。

「私が引き取ったことで常日頃から調合などを行っているため、素材の多さは大事だそうです」

「……お前のせいか」

領主が小さく舌打ちした。

「どうしても欲しいなら、その条件を満たした上で相手を連れてきて下さい」

グレイザックの挑戦的な目に領主はため息をつく。

「そんな者、アラウィリアでは儂しかおらんではないか。それか、アブストールの第二夫人にするか」

領主は少し頭を抱えた。


「アブストールは婿ですからそれは反則でしょう」

グレイザックは少し苦笑する。

グレティアーナが第二夫君を娶るなら分かるが。

「それにご領主どのはご夫人第一ですのに無理でしょう?」

グレイザックはちらりと領主を見る。

その言葉に領主はため息をついた。


「…………グレイザック、お前はどうする気なのだ」

「どうするもこうするも相手が見つかれば良し。見つからなければ、私の補佐として仕事を手伝ってもらいます」

「お前、鬼か」

領主は呆れる。

「それにお前もいつか結婚するだろう」

「そんな未来は見えませんが、もし良い縁談があれば」

「………王族から求婚されたらどうするつもりだ」

その質問にグレイザックは少し押し黙る。


「………出来るだけ抗います。ですが、利があると判断すれば私もあの娘も嫁ぎます」


その答えに領主は未来が怖くなった。






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