禁書庫
「どこにあるんでしょう」
植物の素材図鑑などを読みあさったが、メティスのことは書かれていなかった。
リディオノーレは途方に暮れる。
「………やっぱり禁書庫か」
グレイザックは舌打ちをした。
「禁書庫は領主の許可がないと無理なんですよね」
アインズビルでもそうだった。
ここの領主が素直に許可をくれるだろうか。
いや、グレイザックは恐らく秘密裏に採集しようとしてるはず。
なら許可をもらいにいくわけがない。
「どうするんですか?」
リディオノーレは彼を見つめる。
「こんなことだろうと思って、お前とバルデミアンにしたんだ」
そのグレイザックの言葉にバルデミアンが険しい顔になった。
どういう意味か察したリディオノーレも心配そうな顔でグレイザックを見る。
「大丈夫なんですか?」
バルデミアンが尋ねた。
「さあな」
「……できるんですか?」
リディオノーレが尋ねる。
その質問は絶対違う、とバルデミアンがまた険しい顔になる。
「俺を誰だと思ってる」
彼女の質問にグレイザックが唇の端を上げた。
彼は奥にある禁書庫に向かう。
そこには木の扉に魔法陣が描かれている。
アインズビルと似たような魔法陣だが、所々違う。
バルデミアンは険しい顔のままグレイザックの行動を見ている。
「止めるなら今の内だぞ」
グレイザックはバルデミアンに告げた。
バルデミアンは暫く熟考の末、ゆっくりと首を振った。
「バレない自信がおありなんですよね?」
「勿論だ」
「では、私は何も見てないことにします」
バルデミアンは禁書庫に対して、背中を向けた。
「……この魔法陣を解除するんですか?」
リディオノーレがグレイザックを見上げる。
「ああ。解除してる所をお前も見るなよ」
「!!どうしてですか」
「知らなくて良いからだ」
リディオノーレは唇を尖らせた。
「お前ならその内出来る。助言だけ与えておいてやろう」
グレイザックがにやりと笑った。
「基本的に施錠の魔法陣、通報の魔法陣、攻撃の魔法陣が敷かれている」
施錠、通報、攻撃……、と彼女は復唱する。
「施錠と通報はどこでも同じだが、攻撃に関しては術者の好きなようにしてよい。例えば火の矢が出たり、捕縛したり、水浸しにしても良いし、眠りにつかせても良い。どの魔法陣かさえ分かれば、解除は容易い」
グレイザックのその言葉に背中を向けているバルデミアンは、そんなことない、と内心呟く。
(何の魔法陣が分かったらさえ解除出来るなら誰でも出来るじゃないか。そんな簡単なものではない)
バルデミアンは苦い顔になる。
「要点は分かりました」
「なら後ろを向け」
リディオノーレも大人しく背中を向けた。
いけないことをするのはグレイザックだけでいい、という彼なりの配慮だろうが、完全に皆同罪である。
少し時間がかかったが、グレイザックは解除に成功し、扉を開けた。
扉の向こうに罠もないか確認したのち、彼は背中を向けている2人を呼ぶ。
禁書庫の中を見たリディオノーレは感動の声を上げた。
「わぁぁ」
古紙特有の匂いが充満している。
「時間がない。すぐに探せ」
グレイザックの命令でリディオノーレとバルデミアンが素早く動く。
グレイザックは探す前に魔法紙に魔法陣を描いている。
「見つかりました!」
バルデミアンが声を上げた。
リディオノーレがすぐに向かう。グレイザックは魔法陣を描き終えてから2人の元に向かった。
過去咲いた場所、時間等々の詳細が書かれていた。アラウィリアで咲く場所はいつも同じ所のようだ。時間は真夜中。咲く条件は月が真紅に変わるその日だけ。真紅の月明かりに照らされることにより、その花が咲くとのことだ。
「真紅の月って、ちょっと怖いですね…」
リディオノーレが想像して思わずそう述べる。
「お前の瞳の色だろうが」
「………」
グレイザックのその言葉にバルデミアンはそっと視線を逸らす。
この2人は恋人じゃなかろうか?と思ってしまった。
「でも真紅の月は怖くないですか?」
「怖いというより神秘的じゃないか?」
「…そうですか?……それより、この幻覚にかかるのは困りましたね」
メティスは採集されないよう、周囲に幻覚を見せるらしい。
「それについては俺が対策を講じよう」
グレイザックは必要な内容を書き写しながら喋る。
「よし。これで充分だ。すぐに出る」
グレイザックの合図で2人は本をすぐにしまい、部屋を出る。
グレイザックも出ると、事前に書いていた魔法陣を発動させる。
元々扉に施されていた魔法陣と全く同じものだ。
あの短時間で何の魔法陣かを解析し、解除し、そして同じ術をかけられるのは本当に凄いとしか言いようがない。
バルデミアンは彼のやっていることが分かっても自分は出来ないとの確信がある。
完全に規格外の知識量である。
そして知識があっても実践できるとは限らない。
(本当に恐ろしい)
バルデミアンは思った。
そんなバルデミアンとは正反対なリディオノーレは、目を輝かせてグレイザックの魔法陣を見つめている。
この魔法陣は重ね掛けではなく、施錠、通報、攻撃をひとつにまとめた魔法陣なのだ。
「ここにこれをはめて……」
リディオノーレは感心している。
「その内出来るようになる。重ね掛けが出来るのだから、コツさえ掴めばすぐに出来る」
グレイザックは扉の魔法陣を元に戻すとふぅ、と息を吐いた。
「すごいです」
「お前の研究心があれば出来る」
グレイザックはぽんと彼女の頭に手を置くと、戻るぞ、と声をかけた。
バルデミアンはもう内心驚いてばかりである。
顔にも声にも出さないが、彼はかなり驚いている。
この師弟はあまりにも親密すぎやしないだろうか?
そうしてムナグレーク達がいるところに戻るとくたくたになったサムエルとフェルバールがいた。
ムナグレークは恨みがましい目でグレイザックを見ている。
「……和解はできましたか?」
グレイザックはムナグレークの視線を無視して、領主に尋ねた。
「お前、めんどくさいから逃げただろう」
アブストールも疲れた顔でグレイザックに文句を言った。
グレティアーナも文句は言わないが、顔が思いきり疲れている。
「和解できたなら戻るぞ、グレーク」
グレイザックが笑った。
「………グレイザック様とリディのおかげで何とかなりました」
ムナグレークは眉間に皺を寄せたまま不機嫌な顔でそう答え、立ち上がった。
サムエルとフェルバールも立ち上がる。
「部屋に下がります。………父上」
ムナグレークが苦々しげにそう呟いた。
その言葉にリディオノーレが顔を綻ばす。
ムナグレークは彼女のそばに来て、頭をはたいた。
「ぁいたっ!!」
なかなかにいい音がした。
「ちょっとイラっとしました。すいませんね」
ムナグレークは悪びれもなくそう言った。
「戻りましょう」
サムエルもやれやれと言って頭を振り、皆を促した。




