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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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寄り道


アラウィリア領へ出発当日、騎士たちが笑顔で見送ってくれた。

「気をつけてください」

「帰りをお待ちしています」

騎士たちが次々と挨拶してくる。


グレイザック、リディオノーレ、ムナグレーク、サムエル、そして護衛騎士2人の計6人でアラウィリアへと向かう。


「リディ」

団長がリディオノーレに声をかける。

「くれぐれも言うことを聞くんですよ?」

その言葉に彼女は唇を尖らせる。

「そんな子どもじゃないです!」

「私たちから見たら子どもです。1人でふらふらと何処かへ行ったらダメですよ?」

団長は優しく諭すように話す。

「団長の言う通りですよ、リディ。あちらで実験やら研究も禁止ですからね。必ず誰かと行動を共にすること。単独行動は禁止です」

副団長までそんなことを言う。


リディオノーレはとても不貞腐れた顔になった。


「よく分かっているな、お前たち」

グレイザックは少し目を見張りながら団長たちに言う。

「ええ。それはもう。昨日の発言でよく分かりました。この子がどれだけ常軌を逸しているか」

団長は苦笑する。

その言葉にグレイザック他が苦笑する。


「遂に騎士たちにもリディの異常さが知れ渡りましたね」

サムエルがそんなことを言うものだから、彼女はますます不貞腐れる。


「異常ではありません」

彼女は主張するが、少ししゅんとしている。


「皆様もあまりご無理なさらないよう。早いご帰還をお待ちしております」

団長はグレイザックに向き直り告げる。

「ああ。短い間、リディの訓練に付き合ってくれて助かった。帰還後は武器の扱いについてまた世話になるがよろしく頼む」

グレイザックが他人に頼み事をするなんて……と騎士たちは内心思っている。

今までは命令だったので、頼み事をされる日がくるとは感慨深い。


「遂に武器の練習をするんですね!」

そのことを初めて聞いたのでリディオノーレは目を輝やかす。

「天馬合戦でどうせ使わないといけないからな。それと杖を手にするまで自分の身は自分で守れるようになった方がいいしな」

グレイザックは答える。

「分かりました!団長さま、帰ってきたらまたよろしくお願いします!」

リディオノーレは嬉しそうに頭を下げた。

団長はぽりぽりと頭を掻く。


「武器を教えるのはしますが、グレイザック様は執務で忙しいかと存じますので、せめてサムエル様かムナグレークを寄越して下さい。昨日みたいにグレイザック様の手を煩わすわけにはいきませんので、目付け役として1人、お願いします」

団長の言葉にグレイザックは苦笑しながら頷いた。


「分かった。すまないが頼む。あと、護衛騎士2人をつけてくれた礼も言う」

「……いえ。お気をつけて」

まっすぐ礼を言われて団長は昨日に続き驚いた。


「では、行ってくる」

グレイザックのかけ声と共にリディオノーレ達は天馬に跨って空を駆けて行った。






「本当に上達しましたね」

サムエルが隣を駆けるリディオノーレに話しかける。

「ありがとうございます!」

彼女はほくほくと嬉しそうに返事する。

そんなやり取りをしているのを背後に聞いていたグレイザックは振り向かずに口を開く。


「でも調子に乗るなよ?落ちるぞ」

「分かってますぅ!グレイザック様も褒めてくれてもいいんですよ!」

「俺くらいは注意しておかんとな」

前を駆けるグレイザックが何となくにやりとしたのが察せられ、リディオノーレは頬を膨らませた。


そんなやり取りをしつつ天馬で駆け、途中休憩をとる。


「ここで一旦休憩するぞ」

グレイザックが降り立ったのは潰れたカルムクライン領地を半分以上引き取ったウィスナビア領であった。


「単独行動じゃなければ1時間自由にしてよい」

グレイザックはそれだけ言うと座って休憩の準備をし始める。

これは、リディオノーレを想った行動だろう。

元カルムクライン領が今どうなっているのか見てまわっていいぞ、と。


「……」

彼女は目を瞬いて、グレイザックを見つめる。

「……何だ」

彼は片眉を上げ尋ねる。

「本当にいいのですか?」

「ああ」


「グレーク様、ついてきてもらってもいいですか?」

リディオノーレはムナグレークに頼んだ。

粛清時、お世話になったのはムナグレークだ。


「いいですよ」

頼まれた彼は優しく微笑む。

「護衛騎士を1人連れて行け」

グレイザックはそれだけ命じるとサムエルが準備してくれたお茶を飲みだした。

「分かりました!ありがとうございます」

彼女はお礼を言うと護衛騎士の1人に頼み、3人で町を見て回ることになった。



「本当に分かりにくい優しさですね」

ムナグレークは苦笑しながら息を吐く。

「……遠回りしているから、おかしいなと思っていたんです」

護衛騎士のフェルバールが口を開いた。

体力づくりの訓練ではリディオノーレによく付き合ってくれていた若い騎士である。まだ18歳だ。

黒い癖っ毛のある短い髪のせいでもう少し若く見える。


「グレイザック様は優しいんですよ」

リディオノーレはフェルバールに向かって話す。

「最近分かりました。今まではとても怖かったのですが」

フェルバールは苦笑しながら答えた。

「因みにどう怖かったんですか?」

「表情が読めないんですよ。嬉しかったり喜んでいる顔を見たことがありませんでした。いつも雰囲気が怖くてとても話しかけられる感じではありませんでしたね」

フェルバールは思い出しながら喋る。

彼の言葉にムナグレークも苦笑いだ。


「グレイザック様の過去を聞いたことは?」

フェルバールが尋ねる。

「いえ。詳しくは何も」

「では、私から言うことではありませんね。またいつか話してくれるでしょう。私から言えることとしては、昔と違って大分感情が読みとれるようになって人間らしくなったことですね」

酷い言い草なのだが、実際そうだったのだろう。ムナグレークが反論しない。


「あ」

空気を読めるリディオノーレは敢えて深く尋ねず、変わった町を見て声を上げた。

飲食店や市場が増えていたり、畑も今までと違う作物が植えられていたり、通りすがる人も多い。


活気に溢れていて栄えているのが一目で分かった。


「良かった」

粛清から1ヶ月は経っていた。内心どうなったのか気になっていたけどやる事がたくさんあって気が回らなかった。

中途半端に気にするより、先にグレイザックからの課題を終わらす方が急務だった。


「本当に……良かった」

リディオノーレは頬を緩め、安堵した。

「あの時は本当にありがとうございました」

リディオノーレはムナグレークに感謝する。

彼がいなかったらどうにもならなかっただろう。


「いえ。でも本当はあの時捕まってなかったら、2人で動くつもりだったでしょう?」

ムナグレークは思い出しながら苦笑いになる。


「……はい」

「ああいうときは何でも伝手を使うべきですよ。先にアブストールと知り合ったんですから、アブストールでも何でも使うべきなんです」

「でも、私は何も交渉材料を持っていなかったのでできません」

「だからこそ、私を使うんですよ。アラウィリアの領主子息だと伝えた時点で私も駒のひとつとして命じないと」

そのムナグレークの言葉にリディオノーレは眉間に皺を寄せた。


「駄目です、そんなの」

「グレイザック様の弟子なのでゆくゆくは、私共を従える立場になります。慣れていって下さいね」

「え?」

リディオノーレは目を瞬き、驚いた。


「私がグレーク様の主人になるんですか!?」

「ゆくゆくは、ですよ?」

「私の方が立場が上に?」

「ゆくゆくは」

苦笑いのムナグレーク。

彼女はすごい嫌そうな顔をした。


「そんな嫌な顔をしなくても。ゆくゆくの話ですので」

「無理です。嫌です」

リディオノーレは首を振る。


「……分かりました。この話はまたにしましょう。戻りましょうか」

ムナグレークはそこで話をやめ、グレイザック達の元に戻った。


3人が帰ってきたのを見て、グレイザックは腰を上げた。

「……どうだった」

たった一言、そう尋ねる。

「グレイザック様は優しいな、と改めて実感しました」

リディオノーレが微笑んで答えた。

予想と反した答えだったので、グレイザックは片眉を上げた。


「そんなことを聞いたわけじゃないんだが」

「知ってます」

そう言ってリディオノーレは跪く。

その行動に護衛騎士2人が驚いた。

「ありがとうございました」

頭を垂れて、感謝を表す。

彼女は顔を上げない。


わざわざ遠回りをしているのをムナグレークやフェルバールが言わなければ、彼女は気づかなかった。

グレイザックは厳しいくせにとことん優しい。

言葉足らずなのでなかなか分かりにくいが。


「顔を上げろ」

彼が許可したので、リディオノーレは彼を見上げる。

「出発するぞ。いいか」

「はい。…あ!」

「なんだ?」

「今度正式に領主さまに許可をもらって訪れたいと思います」

「そんな時間があれば好きにしろ。1人では行かせられんがな」

「分かってます。ありがとうございます」

「でもそんな時間もないくらい予習で忙しくなるからな」

グレイザックが彼女の頭をぽんと叩いて意地悪く笑った。





1時間ほどでアラウィリア領の上空に入った。

アラウィリア城が見えてくる。

規模はアインズビルとそんな変わらないだろう。


そして、敷地内にたくさんの天馬が放し飼いされている。

予想外の光景にリディオノーレは目を見張った。


「グ、グレーク様!天馬がそこらじゅうに…っ!」

隣を駆けるムナグレークに慌てて声をかける。

「アラウィリアではあれが当たり前なのです」

ムナグレークは苦笑しながら呟く。

でも彼の表情がいつもより少し固い。


リディオノーレは何も聞かずにアラウィリア城を見下ろした。

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