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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
カルムクラインの生き残り

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ムナグレークとの練習



返事を書いた翌日からは、素材の勉強と天馬の片手での手綱捌きの練習になった。

「……急に何でこんなことするんですか?」

リディオノーレは訝しがる。

「アラウィリアに行くまでに片手で乗れておいた方がいいからだ」

グレイザックが断言する。


そんな2人をムナグレークは険しい顔で見つめていた。

「……私は行かないと駄目ですかね?」

ムナグレークが眉を下げて、グレイザックに尋ねる。

天馬の練習なので、ムナグレークも付き添ってくれている。


「……たまには顔を見せてやった方がいいんじゃないか?」

グレイザックが言う。

「………そうですかね…」

ムナグレークは嫌そうな顔をする。

「俺も行くから、何を言われても気にするな」

「いやいやグレイザック様に庇ってもらうわけにはいきません」


2人の間では分かる内容らしいが、リディオノーレは全く分からないし、詳しく聞くわけにもいかないので黙っている。


「とりあえず行くまでに片手で乗れるようにしてくれ。ムナグレーク、後は頼んだ」

「かしこまりました」


それだけ言うとグレイザックは執務に戻って行った。


それから出立するまでの間、ムナグレークに手解きを受けるリディオノーレ。


片手で乗るのも大分安定してきた。落ちそうになっても、天馬が体を捻って助けてくれるので彼女は信頼して乗れるようになってきた。


「信頼関係ができてるのでもう大丈夫でしょう」

ムナグレークが言う。

「この子なら安心です」

リディオノーレは天馬から降りて、たてがみを撫でる。

見た目的には皆同じ天馬なのだが、たまに模様があったりたてがみの色が少し違ったりと、僅かだか違いがある。

彼女の愛馬は銀のたてがみの天馬だ。

ムナグレークは目の横にホクロみたいなのがある天馬が愛馬である。


「あとは片手で武器を扱えるようになれば、いつでも天馬合戦できますね」

ムナグレークが微笑む。

「その為に体力つけないといけませんね…」

リディオノーレは項垂れる。

机に向かって何かをすることが多いので、あまり体力があるとは言えない。

運動と言えば、天馬に乗ることと本館への移動で歩くくらいだ。


「思ったんですが、魔法攻撃でよくないですか?」

リディオノーレは少し不貞腐れながら話す。

「攻撃魔法は習わないんです。だから古典的な肉弾戦になるのです。攻撃魔法を習うのは学院を卒業してから騎士団等に所属する者に限られます」

「え!?」

リディオノーレは驚いた。


「え!?」

彼女はもう一回驚いた。

驚きの事実である。


「本当に言ってます!?」

「はい。例えば火をつける火の呪文や水の呪文は習っても火の弾を出したり水の矢を打ったりなどは習いません」

「ええっ!今学院に行く面白味が半減しました!」

がっくりと項垂れるリディオノーレ。

そんな彼女の様子を見て吹き出すムナグレーク。


「リディは攻撃魔法を習いたかったんですか?使うときは殆どないですよ?」

「えーー。でも、あらゆる呪文を試したいじゃないですか」

「あまり物騒な考えしてると逆賊として捕らえられたりするので気をつけてくださいね」

「そんなことで逆賊になるんですか…」

また項垂れるリディオノーレ。


「じゃ、じゃあ、グレイザック様やムナグレーク様も攻撃魔法は知らないんですか?騎士じゃないですよね?」

その質問に目を逸らすムナグレーク。

彼はこほん、と咳払いしてから口を開いた。


「……えーと、答えかねるので、グレイザック様に聞いてください」

ムナグレークは逃げた。完全に。

「分かりました。問い詰めます」

「……でもあまり教えてくれないと思いますよ?使うときないですからね。本くらいは持っていると思いますが」

その言葉に目をキラリと輝かせたリディオノーレ。

いい情報を聞いた。

その彼女の表情にムナグレークはしまった、という顔をする。

これは後でグレイザックに怒られる予感がする。


「……グレイザック様に見つからないように図書室で本を探してください。私は怒られるのは嫌ですから見つからないで下さいよ」

ムナグレークは言う。


「……それ、無理じゃないですか」

リディオノーレ眉間に皺を寄せる。

彼女の生活習慣をグレイザックは完全に把握している。


「では諦めてください。それに杖もないのに無理でしょう?」

「…………」

彼女は考えこみ、返事をしない。

「………分かりました」

「何ですか、その間は」

ムナグレークも顔をしかめる。

「いえ、何でも」

彼女は微笑む。


「何でもいいですが、迷惑はかけないで下さいよ?」

ムナグレークの念押しにリディオノーレは無言で微笑んだ。




その夜。

リディオノーレはグレイザックを伴い、図書室に入ることができた。

「今日は何調べるんだ?」

グレイザックは呆れながら椅子に座り、脚を組む。

「内緒です」

彼女は本棚を探し始める。


「内緒にした所でバレるんだから、今言えよ」

頬杖をつきながらグレイザックは述べる。


「それでも内緒です」

リディオノーレはからりと笑って、目当ての棚を見つけたらそこで立ったまま本を広げる。

ぶつぶつ言いながらその本を読み始めた。


読み始めて思ったのが、なかなかに難しそうであること。

「んー……」と考え込む。

彼女が読んでいるのは攻撃魔法である。

呪文自体はそこまでややこしくないが、攻撃魔法なのに魔法陣を描かないといけない所がめんどくさそうだ。

複雑な魔法陣ではなく、その場ですぐに描けるような簡単な陣だが、描き方の順を守らないと発動しないらしい。


「……効率悪すぎる…」

リディオノーレは眉間に皺を寄せた。

こんなの陣を描いてる間に武器に変えた杖で攻撃されたらひとたまりもない。

でも攻撃力は魔法の方が高いらしい。


「ふむ……」

これは効率良くなるよう研究してみたいな、と考え込む。

「研究したいなどと考えているだろう」

背後から声をかけられ、リディオノーレは体をびくつかせた。


腕を組み呆れた顔でグレイザックは睨んでいる。


「もう1時間経った。出るぞ」

グレイザックは彼女の読んでいた本を強制的に閉じる。


「……お前にはまだ無理だ。辞めておけ」

グレイザックは本をしまいながら話す。

「……グレイザック様はできるんですよね?」

リディオノーレはちらりと見上げる。


「………」

リディオノーレは息を吐く。


「ですよね。師匠ですもんね。…………覚えない方がいいですか?」

「いや、覚えておいて損はない。損はないが、無闇やたらに使うことはできないからな」

グレイザックは彼女を見下ろす。


目を離すと本当に危険だ。

次々と興味を持ち、自分で調べ始めてしまう。


「……俺がいる内はいいが、学院にいる間は駄目だぞ。まあ今は杖がないからどうも出来ないだろうが」

この時ばかりは精霊師で良かったとつくづく思うグレイザック。

それで無ければ、予習をするのに既に杖を渡しているところだ。

杖を渡すのは入学前のギリギリにしようと今、心に決めた。


「とりあえずは俺の見てる所でやってくれ」

グレイザックは彼女の頭をぽん、と叩くと部屋に帰るよう促した。


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