シャーリネーヴェとの仲
本館のシャイリーネの部屋に行くと、扉の外で側近の人が待っていて、開けてくれた。
「失礼致します」
中に入ると、豪奢な棚や引き出し、鏡などが目に入ってきた。
これぞ領主夫人、と言うような部屋だ。
そして、シャーリネーヴェも控えていた。
会うのは久しぶりなので緊張してしまうリディオノーレ。
嫌われていないだろうか、と心配になっていたのだ。
「お待たせして申し訳ありません」
「大丈夫よ。早くこちらにいらっしゃい。採寸をするわよ」
シャイリーネが控えていた女性たちに指示をする。
あっという間に採寸され、今度は色をあれやこれや言われる。
リディオノーレはもう黙って従っているだけ。
ここは大人しくしとくのが1番だと何となくわかる。
「髪と同じ色の衣装も素敵だと思うけれど?」
シャーリネーヴェが口を開く。
「そうかしら?」
「赤紫の衣装もあまり見ないし、全身で私はリディオノーレです、って感じがしてわたくしはいいと思いますけれど」
「そうねぇ。じゃあ髪と合わせましょうか。真っ赤は目立ちすぎるしね。瞳は真紅なんだけど」
シャイリーネが悩みながら合わせていく。
「……シャーリネーヴェ様」
リディオノーレは声をかけた。
「何かしら?」
「……私のこと嫌いになっていないのですか?あまりにも普通なので…」
「嫌いじゃないわよ。だって、あなた規格外ですもの。敵視するだけ無駄だって分かったしね」
シャーリネーヴェはにこりと微笑んだ。
「でも」
「でも?」
「グレイザック様は譲れないわよ」
その言葉にリディオノーレは目を瞬く。
グレイザック?
「え、もうそういう仲なの!?」
リディオノーレが黙っていたので、シャーリネーヴェが形相を変える。
「え?何を疑ってるんですか!私たちは師弟関係ですよ」
「にしては仲が良すぎじゃなくて?」
シャーリネーヴェの顔が怖い。
「いつでも仲は取り持つので、その時は言ってください」
リディオノーレは少し引きながら答えた。
グレイザックを婿に望むなんてなかなか勇気のある人だな、と内心尊敬している。
そしてやはり、グレイザックをそういう対象として見ていたんだなと納得した。
「こら、シャーリー。リディオノーレが困っているでしょう」
シャイリーネが咎める。
「シャーリネーヴェ様、どうしてそんなにグレイザック様が好きなのですか?」
リディオノーレは思い切って聞いてみることにした。
すると、シャーリネーヴェの顔が少し緩む。
「まず、格好いいでしょう?」
「…はい。それは確かに」
外面だけは完璧だと思う。外面だけは。
「それに魔力も膨大ですし」
「はい。それも分かります」
魔力が豊富な者同士が結婚した方が、子どもも魔力が多い可能性が高いので、地位の高い人は魔力の多さを相手に望むのは知っている。
「それに賢いですし」
「……はい」
それはもうリディオノーレは嫌というほど知っている。知識量は半端ない。研究資料だけで部屋の半分が埋め尽くされているのだから。
「……でも性格悪いですよ?」
リディオノーレは、ちら、とシャーリネーヴェを見る。
するとシャーリネーヴェはキッ!とリディオノーレを睨みつけた。
「生い立ちが特殊だからそう見えるだけよ!グレイザック様はいい人なの!」
これは恋は盲目というやつなのだろうか。
リディオノーレは呆気にとられる。
「シャーリー、リディオノーレが困ってるわ」
シャイリーネが再度注意する。
「グレイザックはね、私生児と言われて蔑まれていたのよ。でもそれでも実力を示し続けて常に首席だったあの子は凄いと思うわ」
シャイリーネは複数の衣装を注文しながらそう話す。
「……私、あまりグレイザック様のことを知らないのです。知っていることと言えば、研究オタクで魔力が高くて自分の利にならないことはしない効率重視な方という印象です」
リディオノーレは恐る恐る主観を述べた。
「そんなわけないじゃないの。自分の利にならないのに、何故あなたを引き取るのよ?おかしいじゃない」
シャーリネーヴェが反論する。
「それは私も同感です。私は命の危機にあったので交渉したにすぎません」
リディオノーレの言葉にシャーリネーヴェは思わず口を噤む。
「……まあでもあなたを引き取ってから感情が少し見えるようになった気がするし、柔らかくなったようにも思えるわ」
シャーリネーヴェはそう口を開いた。
「……そうなんですか?」
「そうねぇ。とっつきにくかったのが、少し和らいだわね」
シャーリネーヴェは同意しながら、髪飾りはどれがいいと思う?と控えている女性たちに尋ねる。
「これが良さそうね」
シャーリネーヴェはいくつもの髪飾りを合わせながら、そう頷いた。
選んだのは葉っぱの形の金色の髪飾り。
「羨ましいわ」
シャーリネーヴェはその髪飾りを見ながらそう呟いた。
「シャーリネーヴェ様の方が似合うと思いますけれど?」
リディオノーレは首を傾げる。
彼女よりシャーリネーヴェの方が確実に何でも似合うだろう。
可憐という言葉が似合う美人だ。
薄い水色の髪が綺麗である。
「何を言っているのよ。あなたの後見人の色でしょう?その金色は」
「??」
リディオノーレは訳が分からず、首を傾げる。
「そういうことは教えてもらわなかったのね…」
シャーリネーヴェがため息をつきつつも教えてくれる。
「成人するまでは保護者の色をどこかに纏うことになっているの。例えば両親の髪や瞳、杖の魔石の色。成人して婚約すれば、相手の色を纏うのよ」
「……そうなんですね」
ということは、この金色は……。
と、リディオノーレが考えた始めた所でシャーリネーヴェが口を開く。
「そうよ。グレイザック様の髪、杖の金色よ」
「へぇぇ」
リディオノーレは思わず感心してしまった。
「んもうっ。はたきたいくらいにムカつくわね!」
シャーリネーヴェが腰に手を当てながら言う。
口調は怒っているのだが、何もよく知らない子どもに言い聞かせている感じがある。
案外この子とは友達になれるかもしれない、とリディオノーレは思った。
「是非そういうのはシャーリネーヴェ様が教えてください。私は知識が偏っている所があると思いますので。あ、あとちょっと仲良くなった気がするので、ひとつお願いをしてもいいですか?」
リディオノーレは距離感が近くなったと感じたシャーリネーヴェにお願いをしてみることにした。
「なによ?」
「……シャーリーお姉様とお呼びしてもいいですか?」
「!!!」
その発言にシャイリーネとシャーリネーヴェがぴく、と眉毛を動かした。
シャイリーネは何も言わず、娘が何を言うのか見つめている。
シャーリネーヴェは視線を逸らしたまま、腰に手を当てて口を開いた。
「……良くてよ」
シャーリネーヴェは頬を少し赤く染めながらそう答えた。
シャイリーネは娘のその様子にくす、と笑う。
「仲良くなったようで良かったわ」
シャイリーネはもう一度くすりと笑うと「衣装が決まったわ。明日の昼食後から用意するからまたここにいらっしゃい」と言った。
「ありがとうございました」
「良くてよ。今日は早く寝なさいね」
「はい。シャーリーお姉様、また明日」
リディオノーレも少し照れ臭そうにしながらそう声をかけた。
「ええ。お疲れ様」
シャーリネーヴェもまだ少し照れながらそう答えてくれた。




