後日談
後日談として、リディオノーレの両親の暗殺は叔父夫婦が暗殺者を雇い、殺したそうだ。
不慮の事故に見えるように魔法で画策したらしい。
バイリムートの毒殺事件も、その本人がどんな症状が現れる毒なのか事細かく記してくれていたので、何の毒を使われたのかはこれから調べたら分かるだろうとのことだ。
リディオノーレの入牢に関しては、本人はここまで罪を重ねれば、1つ2つ増えたところで変わらないだろうとの魂胆で大人しくしていたのだが、実はバイリムートの毒殺よりも重罪らしい。
上位領地に属する者への罪なき捕縛は、謀反と捉えられるためだ。
だから、グレイザックはこれに関してはなかなかに怒っていたと後から聞いた。
というより、初対面であれだけ痩せ細っていたリディオノーレを、引き取ってから頑張って肉を付けさせたのにまた痩せさせやがって!と怒っていたらしい。
そして、横領に関しては、金がどこに流れていたのか、バイリムートが細かく記録していた。
それを参考に賄賂などを受け取った者をグレイザックは捕縛。
ライジャックスと取引していた商人たちも捕縛したが、それがどれも隣国ナックルンドの者だった。
拷問をして白状させようとしたのだが、告白すると死ぬ呪いをかけられていたらしく、悉く死んだ。
それはグレイザックの逆鱗に少し触れ、少しの間荒れていた。
その荒れたグレイザックが貸しを返すといって、アブストール達アラウィリアの騎士団たちと天馬合戦を繰り広げたのは、記憶に新しい。
いわゆる八つ当たりである。
おかげでカルムクラインの土地が更地になったところがたくさんある。
「今なら、お前がカルムクライン領主になれるぞ」と、リディオノーレはグレイザックに言われた。
「いらないですよ、そんなもの」
彼女は困った顔で答え、グレイザックはその答えに満足したのか、カルムクライン領を地図から消した。
城も跡形もなく壊した。
土地は隣に接する中領地ウィスナビア領が6割、最小領地ラルシャーク領が4割譲り受けた形になった。
血判証明に署名した者はその2領に行くか、アインズビルに来るかの3択で、殆どがアインズビルで引き取る形になった。
全ての処理が終わり、アインズビルに帰れたのは約1ヶ月後のことである。
どうやら王様からアインズビルに褒賞があったらしい。グレイザックの功績が称えられたそうだ。因みに、リディオノーレの名も知れ渡ることになる。
あのライジャックスが姪姪姪と連呼するものだから、葬儀に参列していた人たちから「カルムクラインの生き残り」として知れ渡った。
そして、「カルムクラインの救世主」とも言う人もいれば、「カルムクラインの異常児」などと呼ばれることも。
罪のない者を救ったことは称えられているが、その血判証明書がかなり非情だとも伝わっているらしい。
慈悲があるようでないような「カルムクラインの生き残り」だそうだ。
「もうここまで来れば、開き直ってカルムクラインって名乗ってもいい気がしてきました……」
カルムクラインを旅立つ前夜、リディオノーレは机に突っ伏しながらそう言った。
とりあえず表立って動くのはグレイザックとムナグレークがしてくれた。
途中サムエルも来てくれて、手続きやらの書類関係の仕事は彼とリディオノーレで請け負った。
アブストールも半月ほど一緒に居てくれて、グレイザックの八つ当たりの天馬合戦に付き合いつつも事後処理をしてくれた。後は、リディオノーレに天馬の手解きをしてくれたりもした。
案外、仲が良くなったかもしれない。
「別にカルムクラインと名乗りたいなら名乗っていいぞ。ビックリするくらい悪目立ちするがな」
グレイザックはくくく、と笑う。
明日にはアインズビルに帰る。
最後にグレイザックとサムエルとムナグレークとリディオノーレで食事をした。
そののち、グレイザックの部屋でリディオノーレは2人きりで話をしていた。
「でももう知れ渡ってませんか?」
「名前は知れ渡っていても顔までは分かってないだろ。辞めておくことをすすめる。だが、どうしてもと言うなら構わんがな」
グレイザックは笑いながら菓子をつまむ。
「意地悪言わないでくださいぃ」
リディオノーレは少し唇を尖らせる。
「でもな」
グレイザックは言葉を続ける。
「本当に、よくやった」
その一言で彼女は破顔した。
へにゃ、と崩れ落ちる。
「お役に立ちましたか?」
「ああ」
「失望してないですか?」
「ああ。期待以上だった」
彼女はうふふふふ、と喜ぶ。
「気持ち悪い笑い方をするな」
グレイザックは彼女の額を弾く。
「逆に聞こう。お前は俺に失望してないのか?」
「……どういうことですか」
リディオノーレは首を傾げる。
「俺は非情だと自分でも思う。禍根が残るなら、すべからく殺すべきだと今でも思う」
「………知ってます」
「なのに、お前は俺についてくるのか?」
その質問に彼女はまた首を傾げた。
「……その理由がグレイザック様についていかない、という理由にはなりませんよ?」
リディオノーレは小さく笑う。
「私の家族はもうグレイザック様だけなのです」
彼女は力無く微笑んだ。
椅子の向きをグレイザックに向ける。
彼もリディオノーレの方に椅子ごと向ける。
「アインズビルに戻ったら戻ったで忙しいぞ。執務が溜まってるからな。因みに俺がとびきり優しいのも今しかない」
グレイザックはそんな台詞をあさっての方向を向いて、腕を広げて言う。
視線を合わせないところが彼らしい。
リディオノーレは前のめりになってグレイザックの胸に飛び込んだ。
グレイザックは彼女の背に手を回すと優しく撫でてやる。
「……女性嫌いじゃないんですか」
「そうだ。だから、慣れてない」
グレイザックはそう言いながら、頭や背中やらを優しく、本当に優しく撫でてくれる。
「悪かったな。無茶させて。だが、期待以上だった。俺の愛弟子だ」
「……」
リディオノーレは目が潤んできた。
「泣いていいぞ。泣いていないだろう?兄が死んだんだ。思い切り泣いていいぞ。その為の時間だ」
「……喚いてもいいんですか」
ぐす、と鼻をすすりながら胸に顔を埋めたまま尋ねた。
「音量にもよるが、泣き喚いても良い」
グレイザックはとんとん、と背中を叩く。
それを皮切りにリディオノーレは声を出して、わんわん泣いた。
それはもうわんわん泣いた。
悲しくて寂しくてこの感情をどう処理したらいいか分からず、途中から八つ当たりみたいになってきた。
「あぁーーーー、しかも師匠は、厳しいしっ」
「おい、それは関係ないだろ」
撫でてくれていた手を止めるグレイザック。
「10の小娘にする仕打ちとは思えませーーん!どれだけ考えたか……」
鼻をすする。
「そのおかげで沢山の命が助かった。それはお前が救ったんだ。誇れ。お前が日頃から考えて行動し、成長できた結果だ。俺の弟子を名乗るに相応しい」
「……優しすぎて裏があるとしか思えません」
リディオノーレは鼻をすすりながら、ちらと真上の顔を見た。
「お前、この状態でそんなことを言うか?お前にどれだけ鼻水と涙で服を汚されても文句言ってないんだぞ」
グレイザックは見下ろしながらため息をついた。
「それ文句言ってるじゃないですか」
「だから言ってないだろう」
グレイザックは呆れながら、彼女の頭を自身の胸に押し付けた。
「文句でも泣き言でも何でも聞いてやる。全部吐き出してしまえ。寝落ちしても構わん」
グレイザックは頭を優しく撫でてくれる。
彼女はグレイザックの心臓の音を聞きながら、目を閉じた。




