レンとの訓練
翌朝、疲れ切ったリディオノーレはケネスとディールに叩き起こされた。
「お前、本当に緊張感ないな」
人化ケネスが呆れている。
「ケネス様、いつお帰りに?」
リディオノーレは眼鏡をかけながら、尋ねた。
「深夜に帰ってきた。今日はまたラルシャークだろう。身支度がいるだろう」
「昨日あれから説教と湯浴みの教育されて、逆に肩凝ってるんですよ……」
リディオノーレはボサボサ頭を掻く。
「自業自得だ」
ケネスはそう言って、早く起きろと急かす。
「アンを入れるぞ」
「はーい」
リディオノーレは少し欠伸をしながら返事した。
ラルシャークに向かうのはまた同じ面子である。
今日は注文していた美容液を受け取りに来たリディオノーレ。
部屋の中は女子だけになって、美容液を試したりした。
エリーがリディオノーレに合う衣装を誂えたらしく、それも持ってきており着替えたりもしたので、部屋には必然的に女子だけとなった。
女子だけとなったことにより、アンを通さずリディオノーレは口を開く。
「ナックルンド王城の使用人達とは、どんな取引をしているのかしら」
リディオノーレは尋ねる。
話し方はグレティアーナの話し方を参考にしている。
「手荒れに効く美容液や、香水とかが消臭目的で売れています」
エリーが答える。
「使用人は大変ね。直接あなたが売買しに行っているのかしら」
リディオノーレが少しずつ切り込む。
「ええ。信用第一ですから、まずは私が使っている所を見せたりと。少しずつ王城でも噂になっているようです」
「そうなのね。なら、王族とも繋がりが出来ていたりして?」
リディオノーレは尋ねる。
「それにはまだもう少し時間がかかりそうですが……。王族と接触したいということですか……?」
エリーは恐る恐る尋ねてきた。
勘がいい。
「では逆に尋ねるけれども、あなたはナックルンドの噂は聞いていなくて?」
リディオノーレは問う。
「聞いていますよ」
「怖くはないの?」
「利益を得るためには仕方ないですよね」
エリーが苦笑いで答えた。
その答えにリディオノーレは思わず唇の端を上げた。
まだ信用はできないが、なかなかに根性と勇気のある女性である。
「そう。あなたは、何処まで情報を持ってくることが出来そう?」
リディオノーレが尋ねる。
「いくらでも」
エリーは即答する。
「情報の中身によっては、それ相応の金額を支払うわ」
「それよりも伝手が欲しいです」
エリーは答える。
その答えに彼女は何処までも商人なんだなと感じたリディオノーレ。
「どういった伝手が欲しいの?」
「リディオノーレ様はアインズビルにお住まいですよね?あと、アラウィリア領とも仲が良いのも知っております」
大領地との繋がりが欲しいと告げている。
「それはあなたの働き次第ね。どこまでの情報を持って来れるかによるわ」
「かしこまりました」
「あと、男物の型録は無いのかしら?」
「ございます!」
エリーは嬉々として型録を取り出す。
「お値引きしておきますよ。こちら購入して頂けるなら、もう一点は半額にします」
「あら本当に?」
リディオノーレは微笑んで、ハンカチを男物と女物1つずつお揃いで契約した。
美容液の代金を払い、ハンカチは先に支払った。
現物は3日以内にアインズビルに送ってくれるよう約束を取り付けた。
「ありがとう。これから世話になるわ。些細な情報でもいいの。町の声でもいいし。何か分かれば教えてちょうだい」
リディオノーレはそう言ってエリーと別れた。
ラルシャークを後にしたリディオノーレ達は、アラウィリアに帰るとアンはすぐさまアブストールに報告に向かう。
リディオノーレはレンと少し手合わせすることになった。
バルデミアンも騎士団たちと訓練をするそうで、ケネスとディールがリディオノーレについてくれた。
「では、いきますね」
レンはそう言うとリディオノーレと接近戦を始めた。
アンより速く、威力も強い。
そして、上手く話しながら教えられる人なようでケネスは感心した。
「力が無いなら速度で補いましょう。それも無理なら、1発で致命傷を与えられる所を狙います」
レンはリディオノーレの攻撃を避けながら言う。
「先日の砂をかける目潰しは卑怯とよく言われますが、とても良い手段です。別に使ってはいけないことなんてありませんからね」
レンは言う。
「反応速度はすごく良いですので、初撃を避けながら攻撃に転じれる技があると良いのですが」
レンが彼女の左脇腹に右拳を打ち込もうとする。
それをリディオノーレは両手の平で受ける。
「もっと踏ん張って下さい。そして、そのまま右足を頭に向かって蹴り上げるのです」
レンは言う。
リディオノーレはレンの左側頭部を狙って足を上げるが、その足をレンに掴まれる。
「掴まれたらどうしようもありません。なので、このまま私の右拳を受けてる両手で拳の軌道をずらしながら、私の右腕に折るくらいのつもりで体重をかけると相手も怪我をするかと」
レンはそれだけ言うと両手を離し、距離を取った。
「では、行きますね」
レンは距離を一瞬で詰めると、彼女の顔面目掛けて右拳を繰り出す。
避けようと思った瞬間、人差し指と中指が伸びてきて目を狙う。
「!!!」
リディオノーレはすんでのところと避けたが、左頬に指が掠り、爪で傷がついた。
彼女はそのままレンの右腕を持ち、体を反転させると左肘を彼の腹に目掛けて打つ。
打ったが、彼の腹はかたかった。
「鍛え方が違いますからね」
レンはそう言って、左手で彼女の首を狙う。
リディオノーレはレンをそのまま背中に担いで投げようとするが、上手くいかなかった。
首を掴まれたリディオノーレは呻く。
レンは結構本気で向かってくるので、このままだと彼女の意識が飛ぶ。
リディオノーレは足払いをかけるが、それも防がれる。
「さて、どうしますか。このままだとあなたは落ちます。反撃の手段を考えて下さい」
首を絞めながらレンはそんなことを言う。
「っ」
リディオノーレは彼の手から自分の手を離し、彼の顔面目掛けて右拳を打つ。
それはいとも容易く避けられることは分かっていた為、彼女は先程彼がしたように目潰し目的で指を伸ばす。
「実践してくる所がいいですね」
レンはにやりと笑いながら目潰しの指を避ける。
リディオノーレは拳を握り直し、彼の顎を目掛けて下から拳を打つ。
「っっ!!」
レンは彼女の首から手を離し、距離を取った。
「いいですね。顎を狙うのはとても効果的です」
レンはにやりと笑いながらそう褒めた。




