アブストール夫妻からのお説教
「ケネスは後で送る。先に帰って言い訳でもしてこい」
グレイザックに言われ、リディオノーレは先にアラウィリアに転移した。
リディオノーレが完全に消えた所で、グレイザックはケネスの方を向く。
「おい、ケネス。何がどうなってる。アラウィリアに行ったばっかりで夕の鐘が鳴る前に帰ってくるとはどういうことだ」
グレイザックの眉が吊り上がる。
「グレイザック様、とりあえずはお席に着かれては?お茶をお淹れします」
サムエルが着席をすすめる。
そして、アラウィリアのお茶を淹れて2人に出す。
「まず、淑女教育は進んでいるのか」
一口飲んだグレイザックは、すぐさま質問した。
「それは間違いなく進んでいる。所作や歩き方、姿勢など短期間で叩き込まれている分、疲労がすごいだけだ」
ケネスは答える。
「商人とは上手くいったのか」
「問題なく。見ていたラルシャーク子息も、リディの変貌ぶりに驚いていた」
「で、何故接近戦の訓練が始まった?」
「リディが今やっている訓練に付き合ってくれと言ったら、手合わせをすることになった次第だ」
「何故、影の騎士団が出てくる」
矢継ぎ早に質問するグレイザック。
「アブストールの采配だ」
ケネスの答えにグレイザックは鋭い目を向ける。
「わざわざ影の騎士をつけるほどの何かがあるのか」
ケネスの一挙手一投足を見逃さないようにじろりと見るグレイザック。
「商人との立ち会いに護衛でつけてくれている」
「………何となくは分かった。かなり濃い1日を送っているというわけか。次に商人と会うのはいつだ」
「明日だ」
「ケネスもついているんだろう?」
「勿論」
「ならば良いが」
グレイザックも何だかんだで勘が良いため、影の騎士が出てきたことに違和感があるのだろう。
「影の騎士とも繋がりを持たせてくれているんだろう」
ケネスはグレイザックを納得させられるような言葉を返す。
そう言われたらグレイザックは黙るしかない。
「アブストールは将来を考えてくれているぞ」
「………それは重畳」
グレイザックはお茶を飲み干したあと、そう言った。
その頃、アラウィリアではリディオノーレとバルデミアンとアンとレンが呼び出され、アブストール夫妻にこっぴどく叱られていた。
「リディ、少し帰りすぎではなくて?」
グレティアーナの目が怖い。
「そ、そうですかね…」
リディオノーレは目を逸らす。
「バルデミアンだっけか。もう少し主を止めねばならんぞ。我慢も大事だということを教えておけ」
アブストールがバルデミアンに向かって言う。
「リディはお前の主だろう?」
「そうですが…」
バルデミアンは尻すぼみになる。
「そして、アン。お前は素人なのか」
アブストールがアンの頭をはたいた。
「……申し訳ありません」
アンは頭を下げる。
「レン、怪我をさせないようにしないといけないのではないのか」
アブストールはレンにも言う。
「申し訳ありません」
「言い訳があるなら聞くが?」
アブストールがアンとレンを睨みつける。
「お前達はリディと何をしているの」
グレティアーナもアンとレンを睨む。
「接近戦の手合わせをしています」
アンが答える。
「それで怪我をさせたのか。それは素人がやることだ。お前たちは玄人だろ」
アブストールの顔が怖い。
「それは本当に申し訳ありません。言い訳などあるはずがございません」
アンは頭を下げる。
「アンさんは悪くありません。私が弱いが為に怪我をしたのです。訓練に付き合ってもらっているだけでありがたいので、そこまで叱らないであげてください」
リディオノーレは口を挟んだ。
「怪我させられた癖に悠長ね」
グレティアーナは少し顔をしかめた。
「アンさんのおかげでかなり動けるようにはなってると思うんです。全敗なんですけどね」
リディオノーレは答える。
「リディは何故、そんなことまで訓練する必要があるの?あなたは魔法が得意なんでしょう?必要ないじゃない」
グレティアーナは言う。
「??」
リディオノーレは首を傾げてアブストールを見た。
アブストールも同じように首を傾げる。
「何だ?」
アブストールは首を傾げながら尋ねた。
「グレイザック様曰く、魔法が使えない状況のことも考えておかないといけないそうですよ?」
そんなこと、友達のアブストールなら知っているのでは?という顔のリディオノーレだった。
「………」
アブストールは頭を抱えた。
「それはどんな状況だ…」
アブストールが思わず呟く。
魔法が使えない状況など、魔力を封じられたときくらいだろう。
だが確かに、グレイザックが言いそうな台詞である。
「師弟揃って規格外なのは知っているから、何も突っ込まん。リディは怪我してもいいのか?」
アブストールは呆れながらも彼女に尋ねる。
「大丈夫です。治癒魔法もかけられるようになりましたし」
「………」
アブストールは息を吐いた。
「治癒魔法が得意な者も召し抱えているから、遠慮なく言ってくれ」
アブストールは一応言う。
治癒魔法をかけることが出来る人材というだけで、リディオノーレはかなり貴重な人物であることは間違いなかった。
治癒魔法の精度によっては国に取られるだろう。
「折れた指は治ったのか?」
アブストールが尋ねる。
怪我の程度は既に知っていたらしい。
「治りました。師匠に教えてもらいました」
リディオノーレは微笑む。
「なので、訓練はこのまま続けたいです」
「それは分かった」
アブストールは頷く。
「だが、すぐに帰りすぎではないか?」
「どうせ1週間しか居ないのだから、少しくらい我慢しなさいな」
グレティアーナも呆れている。
「………」
リディオノーレの唇が少し尖った。
「分かった分かった。それに関しては何も言わない」
アブストールはため息をついた。
「今日はこのままこっち?」
グレティアーナが彼女に尋ねる。
「はい」
「だったら、湯浴みのやり方を教えるわ」
グレティアーナは有無を言う暇を与えない素早さで、リディオノーレを連行して行った。




