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苦労少女の英雄伝  作者: 疾 弥生
学院~下級生編~

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治癒の魔法




「!」

チカチカが一気に増える。

リディオノーレは目を見張る。

自分の右手に光がたくさん寄ってくるではないか。


それに、グレイザックは精霊と約を結ぶ者と言った。

暗に今、彼は自分を精霊師だと彼女の前で公言したのだ。

そして、それにサムエルもケネスも驚いていなかった。


周囲の空気が一気に澄み渡る。

リディオノーレは目を瞬き、彼女の右耳横で唱えるグレイザックの顔をチラリと目だけで見る。


「天と地を統べる精霊よ」

グレイザックは話しかけるように唱える。


「我が手に集い寄りて力を発し、全てを癒し給え」

言い終えた瞬間、光がリディオノーレの右手を包む。


「〜〜っ!!」

指が治っていくのが分かる。

分かるが、痛い。

ぐ、と口に咥えているハンカチを噛み締め、体を震わせる。


体を押さえている3人の力が強くなった。


「………動かしてみろ」

集まっていた光が散って、グレイザックはそう言った。

サムエルが手を離し、リディオノーレは右手を動かしてみる。

折れていた指がきちんと治っていた。


「こんなに痛いなら先に言ってください…」

リディオノーレはハンカチを取ると、半泣きの目で振り返って告げた。

「仕方ない」

グレイザックはそう言う。


「次の方が痛い。覚悟しろよ」

その言葉にリディオノーレは体をびくつかせた。


「杖を出せ」

恐る恐る杖を出したリディオノーレ。

「床に描け」

リディオノーレは魔法陣を描いていく。


たまに合ってるかどうかをグレイザックを見て確認する。

何も言わないので、どうやら合っているようだ。


「流石だな」

描き終わるとグレイザックはそう呟いた。


そして、サムエルはリディオノーレの杖を持つ手を強く握り、杖の先を魔法陣に当てて動かないようにしっかりと支える。


ケネスはまだ治っていない彼女の左手を魔法陣につける。

サムエルと同じように魔法陣から離れることがないようしっかりと握る。


グレイザックは、彼女が暴れることのないよう背後から羽交締めのように抱き締める。


「一気に魔力を流せ。この程度ならすぐに治る。呪文は分かるか」

グレイザックは耳元でそう言った。


リディオノーレは頷いて、魔法陣に魔力を流す。

男3人の彼女の体を押さえる力が強くなる。


「グアテムハイン」

そう彼女が唱えた瞬間、グレイザックは自分の右手の人差し指を彼女の口に入れて先程のハンカチ代わりに咥えさせる。


「っ!!」

治癒途中の痛さに悶絶するリディオノーレが歯を食いしばると、グレイザックの指から血が垂れた。

だが、グレイザックは指を離すことなく、痛さに顔を歪めただけで、折れた指が治るまで見届けるとゆっくりと口に咥えさせていた指を離した。


歯型が思い切りついていて、血も出ている。


「っ!はぁっ!」

リディオノーレはあまりの痛さに荒い息を吐きながら、背後のグレイザックにもたれかかる。

目から涙が少し落ちた。


グレイザックは怪我してない指で涙を拭ってやると、眼鏡を彼女にかける。


「すいません、怪我させてしまって」

リディオノーレは自分が噛んでしまったグレイザックの指を見る。


「気にするな。それより、よく我慢したな。動かしてみろ」

リディオノーレは左手も動かす。

折れた指はこちらも完全に治っていた。


「指で良かったな。腕や足だともっと痛いだろう」

グレイザックはそう言って立ち上がり、歯で思い切り噛まれた指に治癒の精霊呪文をかけた。


「休んでろ。疲れただろ」

グレイザックはサムエルに目配せする。

「長椅子でいいですか」

「頼む」


サムエルは素早く動くと、リディオノーレの部屋に置いてある長椅子を持ってきてくれた。


執務室の机をどうにかこうにか移動させ、長椅子を置く場所をつくる。

「寝てろ」

「お言葉に甘えます」

リディオノーレは長椅子に寝転び、治った手を握り締める。


治る過程の痛さは、半端じゃない痛さだった。


「………何があった」

グレイザックはリディオノーレの治った手を撫でながらケネスに尋ねた。

長椅子の横に膝をついているグレイザック。


「接近戦の訓練で少し、しくじったようだ」

ケネスは答えた。

「加減が出来ない素人なのか」

グレイザックがケネスを睨む。


「いや。………リディの成長速度が速い」

ケネスは答える。

「リディはよくやってる。恐らく、あの脳筋妹より今なら強いんじゃないか」

その言葉に聞いていたリディオノーレが少し嬉しそうな顔をした。


「ほぉ」

サムエルが思わず声を漏らす。


「今度やりましょうか、リディ」

サムエルが唇の端を上げて言った。

「ま、また今度お願いします」

リディオノーレは苦笑しながら答えた。


「グレイザック様」

リディオノーレは手を撫でるグレイザックの手を逆に握った。

グレイザックは無言で先を促す。


「私に披露して良かったのですか」

リディオノーレは真剣な顔で尋ねた。

「………良い。お前は俺の弟子だからな」

グレイザックは唇の端を上げて笑って立ち上がると、彼女の頭をひと撫でした。


「休んでろ。サムエル、仕事再開するぞ」

「かしこまりました」

サムエルもグレイザックも席に着き、執務を再開し始めた。


ケネスは狼姿に戻ると、長椅子の下に蹲る。

リディオノーレはゆっくりと目を閉じた。





「リディ」

サムエルが声をかける。

リディオノーレは目をこする。


「リディ、起きろ」

グレイザックは彼女の元へ行き、額を弾く。

「充分休んだろ。ご飯はどうする?こっちで食べるか?あっちで食べるか?」

「……それ聞きますか?」

リディオノーレはずれた眼鏡を掛け直しながら、ゆっくりと起き上がった。


「一応聞くだろ。お前は今、あっちにいる体なんだから」

「……帰れ、って言ってるんですか」

彼女の唇が尖る。


「言ってないだろ」

グレイザックはもう一度額を弾くと彼女の首に手をあてる。

「体調も問題なさそうだな」

「食事を摂れば帰るといい。アラウィリアに居れる内に教育と訓練は受けておけ」

「……」

すごい寂しそうな目でグレイザックを見つめるリディオノーレ。


「すぐ帰ってくるんだから、夜もあっちでゆっくり休め。今日みたいに何かあればすぐに帰って来たらいい」

「………はい」

「俺は何処にも行かないから、お前がきちんとここに帰ってくれば大丈夫だ」

その言葉に、リディオノーレは何か言いたげな顔で彼を見つめた。




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