久しぶりの魔法研究
アインズビルで夕食を半分ほど食べ、リディオノーレは食器を置いた。
回復はかけてもらったが疲れすぎていたせいか、そこまでお腹がすいていない。
「寝ておくといい」
グレイザックは言う。
「一緒に寝たいです」
「っ。……ごほっ。ん」
一緒に食事していたムナグレークが、彼女の言葉に咽せた。
サムエルは生温かい目でムナグレークを見た。
その気持ちは分かる、と目が言っている。
そんな2人の反応はよそに、師弟2人は普通に話を続ける。
「我儘言いすぎだ」
グレイザックは彼女の額を弾く。
「飴と鞭がいるんですよ」
「俺はどちらかというと鞭だろう?」
「最近は飴です」
リディオノーレは微笑む。
「グレイザック様の顔を見たり、一緒にいるとすごい落ち着くんですよ。だから、一緒に執務してるだけでも嬉しいんです」
「…変わった奴だな」
そう言うグレイザックの顔は優しかった。
そして、そんな変わり者は金輪際現れないであろう。
「……ルーグア見るか?」
「見ますっ!」
リディオノーレは目を輝かせた。
グレイザックは食器の片付けをサムエルに頼むと、リディオノーレを連れて執務室を出た。
グレイザックは自室の隣の部屋を開けた。
リディオノーレが入るのは初めてである。
「ぅわっ」
素材や薬などの色んな臭いが充満している小さい部屋だった。
「土では発芽しなかった」
グレイザックは鉢植えを指差す。
「温めても冷やしても無理だった。この時点で3つ、無駄にした」
グレイザックは言う。
「あと2つですか」
リディオノーレは唸る。
ここからは無作為に試して、種を無駄には出来ない。
「次は何を試そうとしてるんですか」
リディオノーレは尋ねる。
「色々ありすぎてとりあえず保留になっている。泥の中に植えてみたらいいのか、とか。燃やしてみるか、とか。凍らせてみるか、とか試したいことが多すぎて残り2つでは無理だ」
グレイザックは苦い顔になる。
「じゃあどうするんですか?」
「だから、今は複製の魔法を作っている」
「………え?」
リディオノーレは目を瞬く。
「え?」
もう一度聞き返す。
「だから、複製魔法を作っている」
「………発想が規格外ですよ」
リディオノーレは苦笑いになる。
「そっちの魔法の研究に時間を費やしている。………どうだ?やるか?」
グレイザックはにやりと笑って彼女に問うた。
「是非っ!!!」
リディオノーレは勢いよく返事した。
2人で図書室に向かい、何か手掛かりになる魔法はないかと熱心に調べ始める。
「これはどうですか」
リディオノーレは言う。
「これもどう思う?」
グレイザックも尋ねる。
2人で顔を突き合わせ、唸りながら魔法陣を研究している。
その2人を見守るサムエルとムナグレークとフェルバールの3人。
「あれ、フェルバール様じゃないですか」
リディオノーレが視界にフェルバールを見つけ、声をかけた。
「やっと気付いてくれましたか」
フェルバールは苦笑いだ。
先程から師弟2人が散らかして不必要だと判断した書籍を全て片付けているのだが。
リディオノーレはそれだけ言っただけで、魔法陣の研究にまた集中する。
フェルバールは苦笑しながら書籍を片付ける。
サムエルとムナグレークは、菓子を摘みながら師弟の様子を眺めていた。
「相変わらず次元が違いますね」
ムナグレークが告げる。
「ええ。新しい魔法を考案しているのでしょう?」
サムエルが答える。
「グレイザック様が最近滞っていた魔法ですよね?」
「そうだと思われます。2人だと少し進展がありそうですね」
サムエルとムナグレークは本当に感心している。
新しい魔法を考案することは昔から何とも思っていないグレイザック。
自分の生活が良くなるならば、昔からいくらでも挑戦していた。
そして、リディオノーレも何も言わずに研究している。本当にグレイザックの弟子である。
「リディ、これはどう思う」
グレイザックが魔法陣を描き出した。
「何ですかあれは」
ムナグレークは眉間に皺を寄せながら呟いた。
「何の魔法陣なんでしょうか」
サムエルも顔をしかめる。
新しい魔法なんだから見たことがないのは当たり前なのだが、色々な記号と文字を組み込んで描いていくグレイザックは相変わらず規格外である。
だが、何かが駄目だったようで魔法陣は霧散した。
「ちっ」
グレイザックは舌打ちする。
「師匠、ここにこれは駄目ですか?」
リディオノーレは魔法陣を描き出す。
先程初めて見ただけの魔法陣をもう一度描ける彼女に感心してしまう3人。
グレイザックはさも当たり前のことのように、彼女の魔法陣を見つめる。
「成程な。……待て、それを組み込むならこれは要らんだろ」
「じゃあ、これも消さないと……んー………」
師弟はまた考え込む。
次元が違う話についていける訳もなく、傍観者3人は欠伸をしながら菓子を摘んでいた。
師弟はああでもない、こうでもないと言いながら、書籍を漁り魔法陣を描き、ひたすら試す。
消灯の鐘が鳴り響いた所で、少し舟を漕いでいた3人がハッと目を覚ました。
師弟を見てみるとまだ何やら言い合いながら魔法を試している。
殴り書きした用紙がたくさん散らばって、まあまあな惨状だった。
「フェル、片付けておけよ」
ムナグレークが命じる。
「………分かってました」
フェルバールはそう答え、1番に腰を上げる。
「グレイザック様、お時間です」
サムエルが書籍を片しながら、グレイザックに声をかけた。
グレイザックは「そんな時間か」と呟き、伸びをする。
「リディ、寝るぞ」
グレイザックは彼女が読んでいる本を奪い、サムエルに渡す。
「ぎゃっ!何するんですかっ」
リディオノーレは怒って立ち上がると、グレイザックの顎と自分の頭がぶつかった。
「いったぁぁ」
リディオノーレは頭を押さえて呻く。
「俺も痛い」
グレイザックは顔をしかめつつも、彼女の手を引っ張って立たせる。
「寝るぞ」
「ええっ。すんごい中途半端なんですけど」
リディオノーレは唇を尖らせた。
「知ってる。でも、もう寝る時間だ」
グレイザックは前傾姿勢を取ると、彼女を肩に担ぎ上げた。
「ぅわあっ!」
「後は頼んだ」
グレイザックはサムエルに向かってそう言った。
「かしこまりました」
サムエルの返事を聞き、グレイザックは彼女を担いだまま部屋に戻って行った。




