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一億円のある部屋  作者: たかしま りえ
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5. ショウコの独り立ち(1)

 住んでいた部屋を追い出されたショウコとタカオとの二人の生活が始まった。

 寝室のベッドをショウコが使いリビングに布団を敷いてタカオは寝起きした。

 ショウコの滞納分の家賃はタカオが肩代わりした。引き取った荷物は洋服も含めて大量だったため、強引に処分させた。実家への連絡は嫌がったが、そのままにしておくわけにもいかず、タカオは元妻に電話をかけた。

 ショウコの養育費としていくらかお金を渡す相談をしてみたが、意地があるのか断られた。それをショウコに伝えると、もう今の家族とは縁を切りたいと言う。とにかくこれからショウコが自立できるようサポートすることが自分の役割だとタカオは思った。


 ショウコは初めのうちは昼間の仕事を探していたようだが、なかなか見つけられないまま月日ばかりが過ぎていた。夜の仕事の方が性に合っているようで、気が付けば夜の街に出ていくことが増えている。

 ショウコの心が傷ついてもいるようだったのでタカオは何も言わずに見守ることしかできないでいた。

 ここで暫く心を癒したら立ち直れるだろうと、それほど深刻には捉えてもいなかった。


 仕事が終わり部屋に入るとその日もショウコはいなかった。クローゼットで洗濯物を片付けていると金庫が開いていることに気が付いた。ショウコには金庫の中身のことはまだ話していない。暗証番号はショウコの誕生日だ。まさかと思い覗いてみるとお金が減っている。数えると五百万円足りなかった。

 金庫を閉め暗証番号を変えた。そしてタカオは大家の部屋を訪ねた。

 大家の部屋に上がるとアキコがお茶を飲んでいた。

「あら、ちょうどよかった。サトル君とリョウ君も来るから、今からタカオさんとお嬢さんにも声を掛けようと思っていたところなの」

「ありがとうございます。でも娘は今留守でして」

「何かあったの?」

 タカオの青ざめた表情を心配して大家が聞く。

「実は、金庫のお金が減っていまして」

「いくら?」

「五百万円」

「そう、暗証番号を娘さんの誕生日にでもしていたのね」

「どうしてわかるのですか。その通りです。金庫のことは話をしていなかったのですが」

 そこへサトルとリョウが連れ立ってやってきた。それまで大家以外の人には娘と暮らしていることだけ伝えてあり、詳しい経緯は教えてはいなかった。ショウコのこれまでのことをかいつまんで話した。

「ホストクラブって嵌ると厄介だからね」

 サトルは昔の仕事でその方面には詳しい。

「お金を上手く払わせる仕組みがあって。初回は数千円で遊べるのだけれど、担当のホストが決まるとそのホストをトップにするためにシャンパンタワーを頼んだりもするから、お金なんていくらあっても足りなくなります」

「初回だけ遊んでホストクラブを転々とすればいいじゃないの」

「アキコさんだって一回行ってみたらわかりますよ。どうして同じホストクラブに通い詰めるのか」

「ホストに惚れてしまうわけか」

 リョウは半信半疑で言った。

「そう仕向けるのがホストという仕事だよ。そうしないとナンバーワンにはなれないからね」

「でも、それって本物の恋愛ではないじゃないの。なのに嵌るってどういうことなの?」

 アキコが不満そうに言う。

「本物の恋愛が怖いとか抵抗がある人だからこそ嵌るようです」

「寂しいと恋愛がしたくなるものだけれど、本物の恋愛は心が傷つきそうで怖いからホストクラブに足が向くのね」

 アキコの言葉にタカオはハッとした。

「私が全て悪いのです。ショウコに寂しい思いをさせてしまったから」

「そればかりじゃないと思います。本人の問題だから」

「そうですよ。どんな環境で育ったって、立派な人間は沢山いますからね」

 サトルとリョウの肩を大家は叩いた。

「自分だって道を外しかけたけれど、ここで救われましたから」

 サトルの言葉にリョウも頷く。

「ショウコさんのいないところで色々言っていても始まらないから、明日にでもショウコさんをここに連れてきたらどうかしら」

「だったら明日は土曜日だし、うちの店でランチなんて皆でどうでしょう?」

「賛成よ」

 アキコの声で話が決まった。

 タカオは大家とサトルの申し出を有難く受けた。


 大家の部屋に行くことは拒んでいたショウコだったが、サトルというタカオの知り合いの勤めている店でのランチには快諾してくれた。皆が集まることや、そんな集まりがあることもそれににタカオが参加していることも知らせてはいなかった。

「ところでサトルさんって誰?」

 店に向かう途中、ショウコが聞いてきた。

「言っていなかったかな。今住んでいる部屋に以前住んでいた若者だよ」

「えッ、そうなの」

 金庫の話はお互いしていなかった。夜中に戻ったショウコはまだ金庫を確認していないようで、タカオに気付かれたことを知らないはずだ。微妙な空気が流れたが、タカオは店についての話題に戻した。

「これから行く店は私も数回行っていてね。美味しい洋食屋さんだよ」

「こんな近くに商店街があったのね」

「こっちは駅の反対側になるのだけれど、案外近いだろう。ショウコは夜しか出歩かないから気が付かないのさ」

「それって嫌味?」

「いやいや・・・」


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