10 世界の均衡
「どこから話せば良いか……先祖返りは追放、という定めの事から改めてお話しましょうか」
テュールは少し考えてから口を開いた。
「頼む。同胞を追い出す法に利があるとは思えん」
「必要な策なのです。先祖返りの血を引く子は必ず魔法の力を持たないということがわかっています。片親が強力な魔法使いであっても、もう片親が先祖返りであれば、そこで魔法使いの血は途絶えるのです」
「ふむ。魔法の力がなくても俺は不便に思った事はない。そんなに魔法の力が大切なら、先祖返りと番わなければいいだけの話なのではないのか?」
彼の疑問に対し、テュールも頷いた。
「ええと、昔の王もそう考えて、先祖返りのみを集めた村を作ったそうです。でも、しばらくするとその村を中心に妖精たちが姿を消し、植物は枯れ果て、不毛の地となったと言われています。……この事から、先祖返りはこの世界の均衡を崩し、存在そのものが害となるとわかりました」
「そうか……追放された後、元の世界、とやらからは戻ってこれるのか?」
「いいえ。ドライアド様も言っていた通り、ここは、元の世界で迫害されていた者が、自らの身を守る為に創った世界。つまり、魔力を持つ者の為の世界です。先祖返りは一度ここから出てしまえば、こちらへの入り口を見つけられないでしょう」
「生まれた地には2度と帰れず、肉親の顔も見られなくなるのか。この地への影響を考えると、やむを得ぬ事なのかもしれぬが……酷なものだな」
「言い換えれば、魔力があれば自由に出入りができます。向こうの世界にも稀に魔力を持つ人が生まれるそうで、その人達がこちらに迷い込んで来る事もあるとか」
「魔力、か。自分が何の魔法の力を持っているのかは、どうやって知るのだ?」
「大抵は幼子の頃に示されます。歩く、話す、笑うと同じくらい、魔法を使うということは自然な動作だそうです……私には分かり得ない感覚ですが……」
「おい、そう肩を落とすな。何か希望があって、エルフ達の所へ行くのだろう?」
「それも……確実な見込みがあるわけではなくて……」
少しずつ声を落としていったテュールは、とうとう俯き、声を震えさせ始めてしまった。
(俺が泣かせたという事になるのだろうか)
彼はどぎまぎしたが特に気の利いたことも言えないまま、食べ頃に焼けた魚を無言で差し出した。
「あ、ありがとう……ございます……」
小さく頭を下げて魚を受け取り、小さな口を開けて噛り付いた。はふはふと熱気を逃しながら、美味しいです、とテュールは気丈に笑った。しかしその頬には涙の跡が残り、瞳はまだ潤んでいた。
彼の暮らしにおいて、沈黙は大抵心地よいものである。が、この時ばかりは違った。少しでもテュールの気を紛らわせてやりたいが、何も思いつかない。黙っていると、テュールの方がふと顔を上げた。
「そういえば、あなたのお名前をまだお聞きしていませんでしたね。お世話になりっぱなしで、今更聞くのもどこかおかしいですが」




