88話 王との謁見 冒険者養成所69日目
ハートビート城全体がシンプルで華美な装飾がなされていないのは貧乏だからではなく人材不足なのが大きく城ができて20年経っても装飾作業は今も続いている、国家として成長期には入ったが文化芸術が育つためにはそれらの価値がわかる人を増やさなければ育ってこない、貧乏国家で貴族が少なかったアンティコルムは国家規模に合う威容を誇れるようになるにはしばらく時間がかかりそうであった。
そんな城の中で自分の席に座っていないフットワークの軽い陛下が自分の好奇心を満足させる為にいちいち謁見するのは面倒くさいので政治に関わるもの以外はこうやって一度に話を聞くというのが王流のやり方であった。
王族達の出入り口は2つある、王族席の後ろとセレモニーの為の入り口がある、今回はもちろんセレモニーの為の入り口から入場してくる。
ファンファーレが鳴ると全員が緊張して起立する、そしてドアを開くと近衛兵数名が左右に分かれ陛下を守る、そして陛下の近くには魔術師と魔法医もいる、陛下はピリピリしている近衛達を気にすることもなく、舞踏会に集まった者に気軽に手を振って存在をアピールした。
ホールの中ほどまで来ると陛下の好奇心の為に集められたストア達がいる場所で立ち止まり、話を聞くのだった。
最初の相手は夜にコンサートを開いて話題になっているクロードという長身で物静かな感じのする青年だ、その横には小柄で健康的な女性がいる。
「そちはオールヒールノクターンと呼ばれているそうだな」
「陛下 私は月夜が好きでそれに似合う曲を作るようになるとそう呼ばれるようになりました」
「月はいいよな」
「はい」
「で 本当に傷を癒すのか?」
「さぁ どうでしょう 心の穴は多少埋められるかもしれませんが」
「はっはっは 踊りの休憩時間に聞かせてくれ」
「わかりました」
陛下は満足そうにうなづくと次のゲストに移動する、40歳ぐらいの冴えない中年男性で名前をパロマと言う、魔道具師でお湯と水の2つが出せる魔道具を作り富裕層に人気になっている、夫人は爆乳の美人。
「なぜ人気なのじゃ」
「ちょっとしたお茶を飲むとか朝の洗顔や風呂の上がり湯とかちょっとだけ使いたいときに便利に使っていると聞きました」
「うんうん わかるぞ わしもせっかちだから待つのは嫌だからな」
「はい 時間が短縮できて忙しい人には喜ばれているみたいです」
「馬車用に欲しいのぉ 馬車で気軽にお茶が飲めるのは最高じゃ」
「わかりました 早速作らせていただきます」
「うむ 頼んだぞ」
この時の陛下の発言で富裕層の馬車にはこの魔道具を備え付けるのが必須になったらしい。
続いてのゲストはプリンツェッシンとオーガで主役を務めた、ポールとマリーの二人だ。
「オークを倒すシーンは迫力があって余も興奮したぞ」
「はっ 嬉しゅう存じます」
「固いのぉ それとプリンツェッシン役のマリー」
「はい 陛下」
「娘の事を思うと辛かった そう思わせる演技であった」
「ありがとうございます」
「次の作品も期待しておるぞ 二人とも」
「期待に応えるために精進致します」
うなづくとストア達の前まで移動する陛下、そして話し始めた。
「リック・ハンデル ストア・ドラッグ」
「はい 陛下」と二人同時に応えた。
「皆も知っておるかもしれんが最近 このハートビート近辺で失踪や行方不明の事件が多発していたのじゃがその元凶のブラックゴブリン達を返り討ちにしてブラックゴブリンの存在を明らかにしたのがこの二人 まだ二人とも成人したての15歳じゃ」
「おー」と皆の声がどよめく。
「隠ぺいの術に優れ斬撃を飛ばすこともできる新種のゴブリンなのじゃ そのゴブリン100匹以上に囲まれたと聞く 後で冒険者ギルドの職員や兵士が確認したところ、ゴブリンの死体の山だったと聞いた」
「ほぉー」と更に皆のどよめきが大きくなる。
「そして一緒に来ていた女友達を守るためにリック・ハンデルはたった一人で足止めしたのじゃ」
「なんと」と更に更に皆のどよめきが大きくなる。
「最後に女友達を逃がして戻ってきたストア・ドラッグがリック・ハンデルの囲いを解いて最後はホブゴブリンを倒してゴブリン達を逃走させたのじゃ 間違いないか」
「はい 陛下」と二人同時に応えた。
「横にいる女性はその時の女性かな?」
「いいえ 陛下」
「カトリーヌと申します 陛下」
「私はソフィーと言います ベロニーニに住んでいます」
「そうか そういえばリックとカトリーヌのペアの踊りは素晴らしかった」
「彼女が舞踏会で踊っていたと聞き 誘いました」
「ふむ そういえば冒険者養成所に今いるようだな」
「はい 陛下」
「ハンデル家の者がどうして王立学校に行かなかったのか 不思議でのぉ」
「アンドレアス次期学長一行が世界各地への王立大学へ学長就任の挨拶と学術交流をする旅に出ると聞き、無理を言って同行を願い許されたのでアンドレアス次期学長一行と共に世界各地を巡りました 移動中の船などでは直接講義を受けることができました そしてアンドレアス次期学長が大学で学術交流している間に各地の草原や森で魔物と戦い武芸を磨きました」
「なんとも贅沢な旅じゃのぉ 最高の学問と世界旅行と武者修行も兼ねるとは流石はハンデル家じゃ」
「それを許してくれた父には感謝の言葉もありません」
「うむ これで謎が解けたの ストア・ドラッグよ」
「はい 陛下」
「そちもゴブリンと戦いよくぞ撃退した しかも街ではスリまで捕まえたと聞くぞ」
「はい 現場を見たので声を掛けたら集団に襲われたので撃退しました」
「そんなかわいい顔してとんでもないヤツじゃのぉ 一人で倒したのかのぉ」
「はい 一人で全員戦闘不能にしました」
「ストアよ どうしてそんなに強いのじゃ」
「強いかどうかはわかりませんが森に出る魔物とは8歳の時から戦いました」
「それにしても8歳とは」
「怪我をしてもポーションがあるので本当に危険になるまで助けてくれませんでした」
「あははは ドラッグ家といえばドラッグポーション 売るくらいポーションはあるからのぉ」
「はい 陛下」
「これでストア・ドラッグの強さの秘密もわかったのぉ」
一人うなづいて考えこむ陛下。
「そちらに褒美を取らしたいが願いはあるか」
リックはストアの顔を見ると首を振るストア、リックが考え込み、しばらくすると明るい顔になり、陛下に言上申し上げた。
「一度 国軍の訓練を間近で見てみたいです」
「面白い願いをするのぉ グンターに話しておくから尋ねるがよい」
「ありがとうございます」
「今日も色んな話が聞けてよかったわい」
そういうとストア達から離れ王の席まで行くと最後に陛下のお言葉があった。
「後はゆるりと楽しむがよい」と言って席に座った。
それからは一斉にそれぞれ会話が弾み舞踏会の夜は華やぐのだった。
一段落してから安堵するリックやストアやソフィーにカトリーヌが詰め寄った。
「どういうことなの?」
「えっ」と同時に声を発するリックとストア。
「聞いていた話と違うわよ」
「ええっ」と同時に声を発するリックとストア。
「私はたくさんのゴブリンに襲われて戦ったと聞いたのよ」
「そう話したけど問題があるのかい」
「ハートビート全体の問題だとは知らなかったわ」
「ああそれなら あの時は僕たちも知らなかったよ」
「それにいつの間にスリ集団をやっつけていたのよ」
「私もビックリしちゃった」
「父が行く店にことづけを頼んだ帰り道でみちゃったんだよ」
「みちゃったって」
「財布を違う人に渡していた場面を見て それを知らないで追ってる人を見たら 声を掛けずにはいられなかったんだ」
「危ない人達の集団に囲まれたらどうなっていたか わからないのよ 囲まれちゃってるけど」
「まぁ そうなんだけど」
「ほんとにもう 頭がクラクラする」
「ストア君のお父さんが強いんでしょ」とソフィー
「出会った人の中では一番強いかもしれない」とリック
「なら大丈夫よ カトリーヌ」
「そこまで強いとは私にはわからないわよ」
「その強いお父さんから1本取ったのよね ストア君?」
「二度目は通用しないと思うけど」
「それぐらいストア君は強いのよ」
「ああ もういいわ 聞かないことにする」
クスクスと笑うリックとソフィー。
「そういえば緊張して喉がカラカラだ」とストア。
「そうね そうだな」
意見が一致したのでみんなで飲食できる場所まで移動するのだった。




