42話 ハートビートの森での戦いが終わって 冒険者養成所 51日目
午後に首都守備隊の隊長と冒険者ギルドのギルドマスターが冒険者養成所に直々にやってきた。
そしてリックとストアは魔法の時間が終わり応接間に呼ばれたのだ。
昨日の話をリックに話したら、珍しく舌打ちをしてたので、多分こういうことになるだろうと予測してたんだろうなとストアは思った。
部屋の前の前まで行くとドアには護衛の兵士が立っていた。
「呼ばれたリックなんですが」
「どうぞ」と扉が開く
すると二人の人間が立って迎えてくれた。
「君がリック君かね 私は首都防衛隊隊長のグンターだ」
「初めまして 僕はリック・ハンデルです」
「こちらはギルドマスターのローラントさん」
「初めまして ローラントさん」
「リック君の横にいるのがストア君だね」
「初めましてグンターさん こんにちわ ローラントさん」
「まぁ 立っているのもなんだから座り給え」
「失礼します」とリックとストアも同時に座った。
「朝に確認してきたんだがあの場所には何人で行ったのかな?」
「4人です」
「ほぉ 全員 君達ぐらいの男性かな?」
「いえ 男女2人づつの計4人です」
「全員で戦ったのか?」
「いいえ 女性がゴブリンの攻撃を受けて負傷したので僕が足止めをして、ストアの先導で女性達を逃がしました」
「ということは君一人で戦ったのかな?」
「前にいる敵はストアが蹴散らしましたがそのあとは一人で戦いました」
「あの数を君が一人で戦ったというのかい」
「はい」
驚きの表情をする隊長とギルドマスター。
「それで全滅させるまで戦ったのかな?」
「いえ 途中でストアと交代しました」
「一緒には戦わなかったんですね」
「はい 半時近く戦って疲労が蓄積したので僕が見えなくなるとストアが逃げるという作戦でした」
「ふむふむ で そのあと ストア君はどうしたんだい」
「私は包囲網に隙ができる機会をうかがっていたのですが逃げようと思った時に大きいブラックゴブリン3匹が攻撃してきたのです」
「3匹同時かい」
「ほぼ同時でした」
「強かったのかい」
「剣のスピードもパワーもあり、斬撃の範囲が広く、一時は苦戦しました」
「斬撃を放つのか?」
「はい 苦戦したのは斬撃による攻撃です」
「それで」
「2匹目を倒した時点で普通のブラックゴブリン達は逃げ出しました」
「ほう」
「最後の大きなブラックゴブリンを倒すと周囲にはブラックゴブリンの気配は完全になくなりました」
「なるほど」
ギルドマスターと隊長が小声で話す。
「リック君 ストア君 この黒いゴブリンをどう思ったかな?」
「ストア 君の方が理解してるはずだから説明してくれ」
うなづくとストアは説明を始めた
「あのゴブリンは陰に隠れて獲物を狙うタイプの魔物だと思います ゴブリンなのに気配の消し方がうまかったんです 大量に現れるまではどこにいたのかわかりませんでした」
「なるほど で なぜ 君達を狙ったのだと思うかね?」
「若いグループで女性もいました、最初に狙われたのも女性でした」
「ふむふむ 被害者は女性一人かね? 今の状態は」
「その場でポーションで治療してリタという仲間の女性に頼んで医者に診てもらいましたが問題なしということでした」
「それはよかった それにしても君達は強いね あれだけの数に囲まれて 斬撃まで使う魔物と戦っても勝つぐらい強いのだから ほぼ孤立状態では我々でも苦労することは目に見えてる その強さはどこかで薫陶でも受けたのかな?」
「私は家で稽古して森で薬草採取の途中に出会った魔物と戦ってきました。」
「ほう 薬草採取?」
「自分達で作る薬の原料は自分達で採取するのが家のやり方なんです」
「採取しながら実践を積んできたんだね 君の家の名はドラッグ家 もしかしてドラック・ポーションのドラッグ家なのかな?」
「はい そうです」
「ポーションがよく効く訳だ リック君は武芸をどこで」
「私はA級冒険者が護衛兼師匠で剣を習いました 魔物退治も経験してます」
「なるほど どおりで」
隊長とギルドマスターがお互いの顔を見る
「最後に 黒いゴブリンの注意点を教えてほしい」
「安易に木に近づいては危険です 少しでも暗い場所があれば明かりを灯す係が必要だと思います それに穴も危険です 戦っている時に穴から手が出てきて足を掴まれました あとは斬撃です 威力はたいしたことはないですが数が多いと大量出血につながると思います ただ大きいブラックゴブリンの斬撃は骨までは切れませんが肉までは通します ただ斬撃があるので同士討ちを恐れて囲い方が緩めです」
「ありがとう 本当に参考になったよ 君達が有名な店の子息でなかったら騎士に推薦してたんだが」
「ありがとうございます」
ギルドマスターが袋を取り出して、机の上に置いた。
「いやー 君達の話を聞いても信じられん この袋の中身は討伐報酬だ 受け取ってくれ よく討伐してくれた 君達が討伐しなければ今後も対策ができず被害が拡大してたはずだ」
「ありがとうございます」と受け取るストア
「うむ では いってよろしい」
みんなが立ち、お互い握手をかわす。
「もし 君達になにかあれば首都防衛隊隊長のグンターかギルドマスターのローラント氏の所に訪ねてきてほしい 悪いようにはしないからな」
「はい ありがとうございます では 失礼します」と言って礼をしてストア達は外に出た。
兵士達がストア達を感心したような表情で眺める、ストア達はそそくさとその場を離れた。
「あーあ 肩がこった」
「そういえば久しぶりの感覚だ」
ストア達はお互いの顔を見て笑った
この後、ブラックゴブリンの捜索隊が組まれ、ブラックゴブリンを駆逐していった。
おおもぐらの穴をうまく利用して巣にして人の目から逃れていたようだ。
その巣穴から大量の頭蓋骨や武器や冒険者カードがみつかった。
ブラックゴブリンの腕力も穴を掘るために身に着いた能力だったのだろう。
何人かは不意打ちでケガをしたがそれ以後、薪拾いや新人冒険者の不審な被害はなくなっていったが今も捜索は北に移動しながら進んでいる、上位個体が生き残っていれば安全な森ではなくなるからだった。
ストア達はいつもの稽古の場所まで行くとリタとオリアンティが待っていた。
「ストア君 リック君」オリアンティは涙を浮かべている
「オリアンティ 大丈夫」「大丈夫かい」
「ええ ありがとう ここに来たのはお礼が言いたくて」
「お礼なんて 俺 謝ろうと思ってたのに」
「僕もそうさ 女性を危険にさらしてしまって申し訳がない」
首を振り否定をするオリアンティ
「ううん 私が一人で勝手な行動をしたから あんな目にあったんだし それに凄い数の魔物が出てきて 自分で逃げることもできず 私は迷惑ばかりかけて ウウウ」
「リタがいなければオリアンティを助けることはできなかったよ」とストア
「身体強化の魔法を3人が使えるから危険があっても大丈夫という判断は正しかったんだ」とリック
「私はオリアンティをおぶっただけで何にもしてない」
「そんなことはないさ いるといないを考えたらわかるよね」
押し黙るリタ。
「そうだ 昨日捕まえた獲物を焼いてみんなで食べよう」とストア
「俺がさばいてやるよ 串焼きなら簡単だ」とクリストファー
「今日は野外パーティーだ」とやっと筋肉痛から解放されたアレクシスが叫ぶ
「ヤッター」と騒ぐ仲間達
冒険者養成所の訓練で身に着けた野宿知識でてきぱきと準備を始める仲間たち。
ストアは飲み物を買ってきた、もちろん討伐で得た報酬で。
クリストファーは塩のみで最高の串焼きを食べさせてくれた。
ワイワイ騒がしくパーティーを楽しんだ。
そのあと、ストア達の戦いの話を聞き、興奮する仲間たち。
「でも クリストファーかアレクシスがいてくれたら、もっと簡単に倒せたのに」とストアに言われ
上機嫌になるクリストファーとアレクシス。
「ガッハッハ」の笑い声がこだまして、パーティーは終わったのだった。
このブラックゴブリンの武勇伝は次第にみんなの知れることになり、有名になればなるほどリック一人の手柄になっていった。
そしてリックが否定すればするほどリックの名声は上がっていったのだった。
それは冒険者養成所でも街でも同じだった。
でもそんなことは気にしてないストアはやはり天然だった。




