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大ピンチ!!絶望という名の全滅?

薫子とメイが渦のトンネルの出口から転がりでるとそこは三毛根高校のグランドの真ん中であった。


見慣れた校舎が不気味に背後に佇んでいる。


「メイ!!」


愛梨沙が抱きつく。にゃー子たちは反対側に陣取る二匹の妖怪と捕らわれている桜林を見据えていた。


先に渦に身を投じた彩萌も同じように見据えている。


「待って」


薫子がみんなに円陣を組ませる。そして、目を閉じるように促すと隣のものたちと手を握らせた。

何かの気が注がれていく感じがひしひしと皆に伝わる。


「いい?今、私が皆を一つに繋げた。何があっても私が守る。だから、絶対何があっても信じろ、この仲間たちを」


薫子は、見てしまった最悪の運命をここで吐き出すことを飲み込んだ。


信じなければ。今まで戦ってきた友を、そして自分自身を。振り払うようにウエーブのかかった髪を振り乱す。


「それと、私から…」


メイは懐から術符を取り出した。人の形と各々の名が記されていた。


「御守りです」


メイは、一人一人に手渡した。


「神宮寺これは…」


薫子は知っていた。この術符は身代りの札だ。薫子は、メイがこのあとの運命を悟っていることを知り、愕然とした。


メイは、薫子に口チャックで首を静かに横に振った。

「上杉お前がオロチだったんだな」


にゃー子は、対峙するオロチに叫ぶ。


「ヒヒヒ。お前らが全員雁首そろえるまで待ちくたびれた。しかしその間に面白いことを考えたのだよ、月千代君」


「面白いことだと?」


「これがなんだかわかるかね」


懐からオロチはディープブルーの小さい丸い水晶のようなものを指先でつまんで取り出した。

「猫目石。キャッツアイだ。君にふさわしい色だろ・・・。月千代。君をここに封じ込めて一緒に旅をしようと思うのだよ。素晴らしい旅になるだろう。過去の君の思い出が詰まった場所だ。そこに君の仲間たちをご招待しよう。そこで、君は仲間が一人ずつ無残な姿になるのをこの猫目石の中からなす術もなく鑑賞するがいい。そして、最後に残った君を私が食らう。何なら、君の育ての親二人もご招待しようか、どうせこの世は私の手で無くなるのだから・・・」


「外道が・・・。そうはさせない」


にゃー子の妖気が激しく燃え盛る。彩萌、かえで、マユもそれに続く。メイと姫子、薫子が身構える。


「はーい。みなさんそこまでよ」


「何の真似だ白峰」


白蛇の姿が保険の柏崎に戻ると、オロチの喉元に妖気を宿した刃を突きつけた。


「あいつ、白峰だったのか」


彩萌が周りの思いを代弁した。それにしてもオロチの味方のはずの白峰がなぜオロチに刃を向けるのか、一同は理解できない。


「私は七福神は弁財天の一番弟子、白峰。あなたの動向を探るためにスパイしてたの。ここまでよ、お命頂戴!!」


「無駄だ、白峰。私が知らなかったとでも思っているのか」


「!?」


白峰の体が硬直したように動かなくなる。額には滝のような汗がほとばしる。


「お前の影を抜いておいた。白峰今まで世話になった礼だ。受け取れ!!」


白峰の手から奪い取った刃でオロチは白峰を斬って捨てる。白峰は斬られると同時に雷に打たれたような衝撃と共に崩れ落ちて、動かなくなる。そして、元の白蛇の姿のまま地面に横たわった。


「そろそろ、はじめようか」


オロチは上杉の姿から徐々に元の蛇の姿に戻って行く。唸るような衝撃と共に天高く伸びていく首は校舎の背丈ほどになった。その首はもはや8つに留まらず、10に分かれている。


それを合図と皮切りに土の中から人の背丈の倍もあるヤマタノオロチが次々と姿を現していく。黒くつやのある光沢の体に毒々しい赤い斑点がまだらにその体を覆っている。


「いくぞ」


にゃー子たちはいっせいに斬りこんでいく。メイは愛梨沙に結界を張り、皆につき従う。


蛇たちも迎え撃たんと一斉に襲い掛かってくる。

「神通力、狐紫炎!!」


彩萌が右から攻めいる。かえでがそれに続く。


「鳳凰…乱舞!!」


左からマユと姫子が攻めいる。


「風を纏いし、雷の御霊よ…」


にゃー子と薫子が正面から斬り込んでいく。


次々と地面から涌き出るかのように蛇たちはにゃー子たちに襲い掛かっていく。


メイは、後方から敵の動きを素早く察知しては防御の壁を作り出しては、にゃー子たちの攻撃の邪魔にならぬよう引っ込めていく。


ーーーメイの意識が飛びそうになる。


ここ数日、皆の身代りとなる術符の作成のため、寝食を忘れて没頭していたからだ。

おまけに身代りの術符の作成にはかなりの精神力と神通力を消耗してしまう。


メイは、視界が二重になるのを耐えながら、必死で後方支援を行う。


「きゃっ!!」


メイが前ばかりに気をとられているのを見逃さず、数匹の蛇が後ろから襲い掛かったのだ。


尻尾で思いきりはたかれたメイは、勢いよく地面を転がる。


一斉にそばにいた蛇が鎌首を降りおろす。


「させるか!!」


紫の炎がメイに襲い掛かる蛇をのみ尽くす。彩萌がメイをしっかりと支える。


「神宮寺君、しっかりしろ!!」


彩萌は、メイの頬を手のひらで叩く。


「だ、大丈夫です。彩萌さんありがとうございます」


メイは、意識を取り戻し、立ち上がった。


メイと彩萌が前を見ると、かえでとにゃー子は順調に蛇を蹴散らしながら、オロチへと近づいていく。


マユもそれに続けと炎の鳳凰を纏った黒槍で波のように追いすがる蛇たちを右へ左へ払いうち後を追う。


ーーーと、討ち損じた蛇がマユの体を八つの尾で絡めとる。


「しまった」


マユがもがくと更に嘲笑うように蛇の尾がマユの手足胴首と締め上げる。


瞬く間にマユは他の蛇たちにも囲まれていく。


「神通力、スタン!!」


姫子の拳から放たれた光は氷が割れるような音をたて、マユに群がる蛇たちに激流となって襲い掛かる。


落雷にあったように蛇たちは黒焦げになると断末魔の叫び声と共に燃え上がった。


ほっとしていた姫子に今度は左から次なる蛇が食らい付いてきた。


姫子は、間一髪で避けたものの、毒液を吹き掛けられ、呻き声と共に地面へと転がる。


地面の下から、沸き上がった蛇により、空高く突き上げられる。


「姫子!!」


他の者たちの声にかえでとにゃー子も思わず反応する。


「かえで」


「にゃー子はん、姫子を助けましょう」


二人は、オロチまでもう少しという手前で姫子の元へ引き返すことにした。


突き上げられた姫子はなすすべなく、飛び掛かる蛇たちによって身体中を鋭い牙で傷つけられていく。


薫子が術符を投げ込み、蛇を食い止めようとする。


彩萌も姫子に襲い掛かる蛇を炎の神通力で撃ち落としていく。


メイが防御の壁を張ろうとした時、メイの足に激痛が走る。


「つっ!?」


メイの左足には切り落とされた蛇の首が怨念に満ちた赤い瞳で食らいついていた。


靴下の上から滲んでくる赤い液体。霞ゆく視界。体の感覚が痺れていく。


メイは長い髪をなびかせ、そのまま後ろへと倒れていった。


「メイ!!」


姫子から蛇を引き剥がすのに気をとられていた皆を尻目に側にいた愛梨沙だけが一人悲鳴に近い声をあげた。


「しまった!」


彩萌が戻ろうと振り返った瞬間、今度は薫子が集中攻撃に足を止められている。


「畜生!!あっちもこっちも…」


彩萌が周りを見回している隙に蛇の八本の首が鞭のようにしなり、空を斬る鋭い音を響かせながら彩萌の首元を捉えた。


彩萌はゴム毬のように跳ねながら、地面を転がり、愛梨沙の近くで止まった。うつ伏せのまま動かない。


「うそ!!」


愛梨沙は、仲間が倒れていく現実と何もできない自分に恐怖と心細さを感じ始めた。


愛梨沙は結界の中で座り込むと頭を抱えた。


蛇たちは今か今かと結界の周りをうろつき始める。


笑いだした膝を抑えながら、ふとメイを見ると、メイの下にはポッカリと口を開けた闇の渦が広がっていた。


闇はゆっくりとメイの体を呑み込んでいく。


「メイ!!ダメっ。目を覚ましてー。にゃー子、助けて!!」


「あーりん!!」


呼ばれたにゃー子の目にも沈んでいくメイの姿がはっきり映っていた。


「にゃろー、許さへん!」


かえでは、方向転換すると、余裕で立ち尽くすオロチの方へ駆け出した。


「待つんだ、かえで!!」


にゃー子は後ろ髪引かれながらかえでの後を追う。


「嘘…」


メイがすっかり闇の中に消えると愛梨沙の足元にある結界が次第に薄くなっていく。


「いやー助けて!!死にたくない」


愛梨沙は髪を振り乱して泣き叫んだ。かな切り声がこだまする。


にゃー子の足が止まる。その瞬間強い力がにゃー子の足を引く。


「くっ!?」


にゃー子が手刀で足に絡み付いた蛇の尾を切り落とす。


「あーりん!!」


にゃー子が倒れたまま前方を見ると、愛梨沙が蛇たちの群れに囲まれた姿が一瞬目に入る。


間に合わない…。


にゃー子の大きな瞳が凍りついたように見開いたままになる。


「うおおおぉ!!」


彩萌が怒り狂ったように立ち上がる。紫の妖気が彩萌の周りを一周すると天高く舞い上がっていく。


「神通力、熱倒弧紫炎」


彩萌の両手から放たれた紫の炎の狐は駆け抜けるように愛梨沙を覆い尽くした蛇たちを一瞬で焼き尽くす。


「いかん、姫様!!」


マユの叫びに彩萌が振り向くと姫子が闇の渦の中へ消えていった。


更に薫子も同様に消えていく。


近くにいるマユでさえ手出しできないほどの蛇が幾重にもマユを取り囲んでいく。


「僕は誰一人仲間を失わないって母さんに約束したんだー!!こんなところで負けるわけにはいかないんだ」


彩萌は一段と大きな妖気を身に纏うと、駆けながら、白い大きな狐へと姿を変えた。


「あれが、彩萌の本当の姿…」


さらりとした絹糸のような美しい毛並みに愛梨沙は、恐怖をしばし忘れ見いってしまった。


マユの周りにいた蛇たちを紫の妖気を纏った体で体当たりしながら焼き尽くしていく。


「ほう、十尾の狐…。珍しいものを見た。しかし、所詮は私の敵ではない。後衛と指揮官を欠いた城など落ちたも同然…。かって気ままに暴れて勝手に散るがよい」


オロチが目を見開くと一瞬で彩萌とマユの元へ移動した。


「神波を使える妖怪との実力の差を思い知るがいい!」


体に気合を込めるようにぐっと身を縮こませたオロチから波紋の衝撃波が発せられた。


マユと彩萌は、反発し合う磁石のように遠くへ弾き飛ばされる。


「マユ!!彩萌!!」


愛梨沙は叫ぶのと同時に視界に入ったオロチが瞬時に自分の目の前にそびえ立つ恐怖に硬直した。


「人の心配より自分が先だろう…。弱き者よ。お前を護る結界はもはや存在しない」


にゃー子は、ロザリオから黒扇丸を放った。愛梨沙を救わねば…。


しかし、もう遅かった。愛梨沙の体は一瞬のうちに闇の渦へと消えていった。


マユと彩萌も蛇たちに傷つけられながら闇の渦へ葬られていく。


にゃー子が呆然と立ち尽くしていると一匹の蛇に足元を(すく)われた。


にゃー子は、空高く舞い上がり、バランスを崩しながら落ちてくる。


蛇たちが鋭い牙で我先にと頭をもたげながらにゃー子の落下を待ちわびる。


ーーー手裏剣のような斬撃が風を斬りながら、蛇の鎌首を寸断していく。


「うちの命の恩人になにさらすんじゃ、どかんかい!!」


かえでの顔がいつの間にか赤ら顔の鼻を高くした天狗の姿になっていた。


つむじ風を纏いながら、妖刀で蛇たちを斬り倒していく。


「うちが今おるんは、にゃー子はんが母さんを助けてくれたおかげ、だから命に代えてもにゃー子はんを護るんや!!」


かえではオロチに飛びかかっていった。


「止めろー!!かえで早まるな!!」


にゃー子の叫び空しく、かえではオロチのてっぺんに一直線に妖刀を降り下ろした。


雷鳴が轟き、地響きと共に雷光が校庭を包み込む。


にゃー子は瞑ってしまった目を開く。


「かえで!!」


にゃー子の目には雷を受け、体に火傷を負い、煙をあげ、動かないかえでの姿が…。


オロチは、長く先が分かれた舌を出し入れしながら、かえでを乱暴にくわえると、汚いものでも吐き捨てるように闇の渦へ投じた。


空で善戦していた黒扇丸もボロボロになり、力なく、にゃー子の目の前にはらりと落ちてきた。


にゃー子は、黒扇丸を両手で掬い上げると、そっと傍らに置き、優しく一撫でした。


知らずに伝った涙を拭い立ち上がると、怒りとも悲鳴ともつかない雄叫びを天に向かって高らかに発した。


にゃー子の体がみるみる猫又の月千代に変わっていく。


襲い来る蛇の波を狂ったように爪や牙で平らげていく。


「いい表情だ、月千代…。お前の苦しむ姿がずっと欲しかったのだ、ヒヒヒ」


オロチはやられていく仲間を尻目に未だ余裕の態度を示していた。


とぐろを巻き、月千代の暴れる様を横目に桜林を闇の渦へ放り込んだ。尾にかけた猫目石を恍惚の笑みで眺め出す。

「数千いた我が同胞を数百までにしたお前らの力…誉めてやろう。侮っておった。しかし、ここまで。精も根も尽き果てたお前はこの猫目石に封じられるのだ」


オロチが口笛を吹くと、蛇たちは、にゃー子に毒液を一斉に吹き掛けた。

にゃー子は攻撃することだけに気を取られていて、全身に浴びてしまう。


浴びた個所は腐敗臭のようなニオイと共に煙を上げると、にゃー子は火傷のような痛みとしびれを全身に感じその場に倒れこむ。


のたうちまわるにゃー子の体に蛇たちの牙が雨あられのように降り注ぎ、にゃー子の真っ白い体は見る見るうちに赤く染まって行く。抜けた毛がはらりと粉雪のように宙を舞う。


眩暈がして遠のく意識。目の前の景色が歪みまわりだす。


「もうよかろう、まだ、殺してはならん。もっともっと苦しんでもらわねばならん。さあ、ゆこう。お前の最高の幸せを踏みにじり、絶望の淵へと追いやる旅に・・・。仲間も田助も、一緒だ。何なら、最後にお前の育ての親たちも道連れにしてやろう、どうせこの世はなくなるのだからな、ヒヒヒ」


陽一と香織・・・。にゃー子の頭をよぎる二人の笑顔。


体が・・・動かない・・・。


にゃー子の目の前にオロチが山のように立ちはだかる。尾につけたディープブルーの猫目石をにゃー子の額にあてがうと、にゃー子はしだいに猫目石の中へと吸い込まれていく。


にゃー子はこれまでと悟り目を閉じた。




「ーーー絶望とは・・・すなわち、死に至る病なのね・・・」


どこからともなく静かだが確実に響く女の声が校庭にこだまする。


「誰…だ?」


オロチは訝しげに辺りを見まわす。月千代の仲間はもう誰一人としていないはず。やがて、数体の蛇が空高く舞い上がる女の姿に気付き、首をもたげて、攻撃の態勢を取る。


うす暗闇の異空間に浮かび上がる十二単の着物。左手に太刀を携え、長い髪をなびかせ、蛇の群れの中へ降り立とうとする。


「馬鹿が、奴は予定外。食い殺して構わん、やれ!!」


オロチの命令に蛇たちは我先にと女めがけて首を伸ばしていく。幾重にも絡み合いながら昇ってくる鎌首をものともせず、ひらりと舞のごとく避けながら地面に到達するやオロチの足元に一瞬立ち、再び間合いを取るように大きく後ろにはねた。


あまりのスピードに蛇たちは翻弄され、同士討ちするものまで出た。


「貴様、何者だ!!」


オロチは得体のしれない相手に初めて脅威を感じた。



「ナヨタケのかぐや・・・。月の女神じゃ」


女はそう名乗ると、背筋を伸ばし、左手の太刀の露を払った。


「ちょうど、宝石が欲しかったところ。これは貰い受けるのね・・・」


ナヨタケの手にはディープブルーの宝石が握られ、中では窓から外を窺うように手をついて戦況を見つめる小さなにゃー子の姿があった。


「いつの間に」


「なあに、造作もないのね。ついでだから降り立つときにお前らの仲間は全部斬って捨てたのね」


「何だと!?はったりをぬかしおって、お前たちあやつを・・・」


オロチは蛇たちに命ずるために後ろを振り返り、驚愕した。すべての蛇がそのままの形で炎に包まれているのだ。


「これは、一体?」


オロチがその中の一匹に触れるとドミノのように細かい肉片になって蛇は崩れ、音もなく激しい光を放ちながら燃え盛って行く。


「そ、そんなばかな・・・。ヤマタノオロチ数百匹を一瞬でだと・・・」


オロチは恐怖で後ずさる。神の領域まで強くなった自分よりさらに強い力がこの世に存在するとは・・・。オロチはひとまず退散しようとした。



ーーーが、一足早くナヨタケが退路を塞ぐ。


「逃がさないのね・・・。私も神波を使える身・・・。心の声を消せない時点でお前は未熟者。大人しく荼毘にふすのね」


「おのれえええ」


十股に分かれたオロチの頭が四方八方からナヨタケに降り注ぐ。


「神通力 斬!!」

ナヨタケが太刀を両手で握り、目を瞑ると、ナヨタケの体から光が発せられた。地面から強い風が立ち上り、ナヨタケの髪が空へ向かって泳ぎだした。それと同時に強い光は次から次へと鋭い刃のように、降り注ぐオロチの頭を天に向かって貫いていく。


「神通力 衝!!」


ナヨタケは左手で太刀を持ち直すと、空いた右の手のひらをオロチの胴に突きだした。


オロチの体はゴムタイヤのように大きくへこみ後ろの方へ吹き飛んでいく。


「神通力 烈!!」


ナヨタケが突き出した右の手のひらを強く握りしめ、再び解放するとオロチの体は細かい肉片となり飛び散った。


ナヨタケはそこへすかさず、術符を大量に投げ込み、オロチの念を徹底的に封じ込めた。校庭のあちこちにはオロチや蛇の肉片が蒼白い炎になめられ、異様な雰囲気を醸し出していた。


ナヨタケは、太刀を地面に突き刺し、何事か念じるとにゃー子が石の中から復帰した。そして、ナヨタケは校庭の中を歩き出すと、手に一体の人形を手にしてにゃー子の近くに戻ってきた。

ナヨタケが何事か呟きながら念じると、人形は瞬く間に人の姿になり、みるみる元の大きさに戻っていく。


二メートル程の大男が現れると、大男は、ナヨタケに一礼して、立ち尽くした。


弥生時代のような白い薄衣を纏い、髭やら眉の濃い雄々しい筋肉質の男であった。


「スサノオノミコト…であるな。お前ほどの男が封じられるとはかなりの手練れであったのだな…」


「面目ない。姫と一緒とはいえ、一瞬の油断がこの有り様…。ナヨタケ殿とお見受けいたす」


二人は互いに礼を交わす。


「ーーーところで、月よ」

力なく、全身傷だらけのまま横たわるにゃー子にナヨタケは目を落とした。にゃー子は目線だけを遥か頭上のナヨタケに向ける。


「ふふふ…。ハアハッハハハ…」


禁じ得ない笑いを高らかに空に向かってナヨタケは解き放つ。


「お前の200年以上の恋とやらはこの程度の覚悟だったのね。阿呆のように踊り狂い、挙げ句引き込んだ仲間たちを犠牲にし、愛しい田助の御霊すら何処かへ葬られる…。敵のオロチには返り討ちに合い、自分だけが生き恥を晒す。こんな滑稽な茶番劇みたことないのね」

にゃー子の鼻先に意地悪なナヨタケの顔が突き出された。


今まさに目の前に繰り広げられる現実。にゃー子自身が一番辛い現実がここにある。百も承知だ。それを笑い転げるナヨタケ。にゃー子の中に全身が真っ赤に燃えるほどの殺意が芽生える。

「ほう、わらわを殺すと申すか…。オロチを葬り去ったわらわに足元にも寄れず、今しがた神通力を使い果たし、精も根も尽きたお前が勝負を挑むとな?面白い、ならばやってみよ!!」


ナヨタケは素手で棒立ちのままにゃー子を挑発する。スサノオノミコトは黙って腕組をしたまま見守る。


にゃー子は、よろめきながら立ち上がるとふらつく視界と体のまま、前のめりになりながらナヨタケの元に向かう。


鬼の形相。その中に、あの人として生きようとしてきたにゃー子の姿はない。人から裏切られ、追い続けられた田助に出会う前の鬼畜の獸、猫又の姿でしかなかったのである。


鋭い爪を目一杯伸ばす。転がりながら、ナヨタケの喉笛を狙う。


すんでのところで半歩かわされ、袖にすらふれることができず、にゃー子は顔から地面に沈む。


何度も起き上がり、詰め寄るが蜃気楼のようにナヨタケは少しずつ後ろへ退く。


「どうした?もう終いか…、月」


ナヨタケがにゃー子の前にでる。


にゃー子は、悔しくて堪らない。自分の不甲斐なさと仲間を失い、おめおめ生きていることに…。


ナヨタケの刺した太刀が目に入る。にゃー子は、転がりながらそれを手にすると、両手に持って構えた。


「ほう、今更太刀なぞ持ってわらわとやりあうつもりか、何度も言うておるがムダ…、月!!何をしておる」


にゃー子は、太刀を二つ折りにすると、柄だけになったほうを後ろに捨て去り、刃先を自分の喉元に突き立てた。


ナヨタケは、咄嗟ににゃー子の心を読み取り、刃先を蹴りあげる。


風車のように激しく空中で弧を描くと、刃先は二人から遠い地面に突き刺さった。


危ないと感じたナヨタケはにゃー子を羽交い締めにして、背に乗る。


ナヨタケが安心したのも束の間。にゃー子の口から赤いものが伝う。


「強情な…。スサノオノミコト!!」


ナヨタケの言葉にスサノオノミコトがすかさず、にゃー子の口をこじ開ける。


そして、猿轡(さるぐつわ)をにゃー子に()め、事なきを得る。


にゃー子は、血走った目でナヨタケになぜ、死なせなかったと訴えた。


体を(よじ)り、なおにゃー子は(あらが)う意思を示す。


「発破をかけるつもりであったが仇になったか…。ならば、申しておく。うろたえるでない、愚か者!!お前の仲間たちはまだ生きておる。お前にゆかりある過去に飛ばされただけじゃ。奈津が結んだであろう、お前らを。引っ張ればある場所にたどり着くことになっておる。狗神に頼んでおいたから安心せい」


生きていると聞いてにゃー子が体の力が抜けていった。抗う意思も削がれていく。


「それと、もう一つ。式神じゃ。わらわは、式神を取り返すためにお前とお前の仲間をどうしても助けねばならなくなった」


「式神?」


「ここへお前らを救いに来る途中に四使徒の一神、玄武に阻まれたのじゃ。禁制品を下界に持ち出した罪とかで…」


にゃー子は転生人GOの一件を思い出した。



「わらわは奴に借りがある…。先に話しておかねばなるまい。わらわと式神のことを…」


ナヨタケは、静かに自分の過去を語りだした。









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