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クリスマス。メインディッシュは鯛焼きとオロチにございます



季節は思いっきり流れた。オロチの陰さえ見えず、楽しい行事の数々とともに二学期も過ぎて行った。にゃー子は自力でナオトとの距離を詰めていき、薫子と柏崎はことあるごとに上杉争奪戦を繰り広げている。

 

ワタルは、転校という名目で、人間界から去り、魔界へと戻って行った。


みんな楽しいときに浮かれていた。オロチはもうやってこないのではないか、仲間があっけなくにゃー子たちに伸されたのがその理由だ。


そんな楽観的な希望的観測はすぐに覆されることになろうとはこの時サトリの薫子を除いて誰も知る由はなかった。


「今年、クリスマスどうしようか?」


愛梨沙がみんなに相談する。終了式の日、放課後。クラスにはまだ下校の準備に勤しむクラスメートが似たような会議をわさわさとあちこちでしていた。


「人数も増えたしにゃ・・・」


にゃー子が考え込む。


「公民館使おうよ」


マユが提案する。賛成多数の声の中、一人暗い顔の僕っ娘一名。


「どうしたんですか、彩萌さん?」


「ボク、今年バイトがその日入っちゃったんだ」


申し訳なそうな顔の彩萌。


「断んなさいよ、今年みんなで最後なんだし・・・」


愛梨沙がズンと前に出る。


「そーでありんす」 


姫子がその後ろから顔を出す。


「そうもいかないんだ。26日は空くんだけど」


参ったように彩萌が髪をなでる。


「じゃー26日にしようよ、あーりん、みんなOK?」

臨機応変なマユの一言に皆が一斉に賛同した。雰囲気はでないが一日多く気分が味わえるのはちょっと得した気分になる。かくして、にゃー子たちは26日にクリスマスパーティーを行うことにした。


一応、担任の薫子も誘ってみたが浮かない顔をして、用事があるからと断られてしまった。にゃー子はしきりに「上杉か?」とからかったが、どうも違うらしい。薫子の思いつめた顔がメイには何となく気がかりだった。


打ち合わせも終わり、下校した途中、メイは忘れ物に気付き一人教室に引き返した。教室を覗くと、中には教壇の前で頭を抱える薫子の姿があった。


薫子には繋がらない未来の断片が見えていた。オロチに殺られていく仲間の姿と笑って卒業式を迎える仲間の姿。


サトリの技を使ってもどうしても合点がいかない二つの未来。


今までは、笑顔の未来だけを信じてがんばってきたのだが、ここのところ夢見が悪い。


オロチに殺られ、笑顔が引き裂かれる未来ばかりの夢を見るのだ。


どうしてもそれだけは避けねばならない。


「先生?」


メイが正面きって薫子に話しかけた。きっと、悩みはオロチとにゃー子のことに違いないと踏んでいたからだ。

「ああ、神宮寺なんか用か?」


頬杖を外して、薫子が目線をあげる。メイの心の内が薫子には手に取るようにわかった。


心配させまいと嘘を言うことも可能だ。しかし、一緒に戦ってきた仲間に隠し事はしたくない。


「オロチのことですね…?」


「ふ、サトリが胸のうちを読まれているようじゃ、どうしようもないわね」


薫子は、観念したように溜め息をついた。そして、おもむろに、自分の心配の種を語り始めた。


メイは、他言しないことを薫子に告げ、術師として、メイが出来る事を考えてみると言ってその場を去っていった。


そうだ、まだ日はある。


最悪の事態を避けるための手段を講じるため、薫子は考え始めた。


クリスマスイブの前日。買い出しの相談をすべく、駅前のハンバーガ屋に行こうとしたにゃー子たちは、鯛平堂のまえでしょげかえる留吉を見かけた。


鯛平堂は、老舗のたい焼き専門店。この町でしらぬものはいないほどの有名店だ。


とぼけた鯛の置物が屋根にドーンと看板代わりに居座ったユニークな店である。


桜林ナオトは、そこの店主、留吉の孫だ。時々店の手伝いをしている、じいちゃん思いのイケメンだ。


未来の旦那様のお祖父様が元気無しとあっては見逃すわけにはいかない。


にゃー子は、きっちり挨拶がてら声をかけた。


「留吉さーん」


「おう、菜子ちゃん、いつも元気だね…」


嬉しそうに微笑みながらも留吉の体は前のめり。明らかに落ち込んでいる。


「留吉さん元気なさそう…」


「ちょっと、困ったことがあってな…」


留吉の目線の先には、山と積まれた小麦粉の紙袋。一つ25キロが塹壕の如く威張りきった存在感と共にそびえ立つ。


「うわー」


一同草が生えそうな叫び声で小麦粉の山をみあげる。


「じいちゃん、なに騒いでるんだよ、近所めいわ…、何じゃ、こりゃ!?」


そこへ中から飛び出してきたナオトが小麦粉の山に驚愕の雄叫びをあげる。


「ん!?何って、小麦粉じゃ」


開き直る留吉。


「見りゃわかるよ。量を言ってんだ、量を!」


ナオトが小麦粉の山に指を指す。


「だってさ、配送の人が大手の受注をうっかり間違って多く頼みすぎたって困っていたもんだから…」

「だからって、うちで引き受けんなよ、どうすんだよ、こんなに…。世間はクリスマスでたい焼きどころじゃないのに…」


ナオトが頭を抱える。


「腐るもんじゃ無し、ボチボチ使えば…」


「邪魔だろ、明らかに!!」

ナオトの叱責に、膝を抱えていじける留吉。


「にゃー、そんなにお祖父ちゃんを責めないで、悪気があって、やったわけじゃないし…」


にゃー子が間に入る。


ーーーと、にゃー子が何かを閃いた。猫耳がピンと立ったような顔つきになる。


「よし、ナオト!これで、クリスマスケーキ作ろう!」


「うち、たい焼き屋だし、ケーキって言われても…」


ナオトも困惑したように頭を掻く。もし、仮に作ったとしても出来が悪ければ、店の看板に泥を塗ることにもなる。


「クリスマスは、たい焼きで、ケーキに決まり…にゃ」


画して、鯛平堂は、にゃー子の一言で、たい焼きでクリスマスケーキを作ることになった。


にゃー子が善は急げと、その場で試作を試みる。

たい焼きの半身にナイフを入れ、はみ出たアンコにホイップクリーム。


抹茶のソフトクリームを中央に添えて、モミノキ感を演出。


カラフルチョコをトッピングして、モミノキの先端に赤いチェリー。


「どうにゃー、鯛平堂オリジナル、クリスマスケーキオブたい焼き、完成!」


一盛り上がりの後、写メで記念撮影。にゃー子は、その写メを元にチラシを作り始める。


もう、どうにも止まらない…。


「やれやれ、どうやらお手伝いさせられそうね…」


愛梨沙が腕捲りを始める。


「バイト代高いわよ」


マユも乗り気だ。


「そうと決まれば…」


姫子がサンタの衣装を取り出した。本当は、26日みんなで着る予定だったのだが、まさか、ここで役にたつとは…。


にゃー子たちは、ビラ配りに散っていった。

鯛平堂前、特設売り場では、にゃー子たち、ミニスカサンタが寒風の中で必死に呼び込み中。


当然、神通力で魅力を全開。客足は途絶えない。

最初は、頭を悩ましていたナオトも焼き係としてフル回転しはじめた。


留吉は、嬉しそうに目を細めながら、にゃー子とナオトの様子を眺めていた。


ーーーその横で(うずくま)る女の子が一人。


「メイ、大丈夫か?」


にゃー子たちは時折、調子を崩したメイに声をかけた。


「すいません。ここんとこ寝不足で…」


「いいにゃ、にゃんとかなるから…」


にゃー子は、メイの肩を優しく叩くとウィンクして、持ち場に戻った。


「いつも、ナオトのことを守ってくれて、みんなありがとう…。留吉は幸せじゃ」


「留吉さん?」


メイが顔を上げたときには、留吉は、店の奥に引っ込んでしまっていた。


にゃー子の幸せそうな笑顔にメイもにっこりした後、少し、うつらうつらした。


「よっしゃ!完売にゃー」

にゃー子たちは、小麦粉の山をやっつけた。RPGならここで経験値を獲得するところだが、現実はそうはいかない。


ただ、留吉さんから感謝の言葉と多大なバイト代がでたことは事実である。


にゃー子たちはとんでもないとご辞退申し上げたが、留吉も一歩も退かない。


にゃー子たちは、素直に気持ちとして受けとることにした。


と、その時、店の奥から悲鳴が聞こえた。にゃー子たちが店の奥に走り込むと白い蛇がナオトの体に巻き付き、闇の中に消えようとしていた。


にゃー子たちは、それを追って、闇の中へ消えた。


闇はそのまま小さくなり、やがて消えた。何事もないように桜林家の居間がそこには残されていた。



留吉は、呆然と頭を抱え、寝ていたメイを起こした。


「おじいさま、絶対助けるんで待っててください」


メイは、薫子に連絡を取るため携帯に手をかけ、外に走り出した。


もう一人の仲間、まだバイト中の彩萌がいる場所へ…。


そんなこととは、露知らず、薫子は、とある居酒屋に入った。


チェーン系列の焼き鳥の旨い店だ。クリスマスだというのに女の一人居酒屋。少し、寂しい。


カウンターに通された薫子は、誰かと目が合う。

「彩萌、あんたここでバイトしてたの?」


「いらっしゃいって…、薫子じゃないか、っていうかこの聖夜に一人居酒屋かいっ!」


彩萌は、そこは、ビシッと突っ込んでおいた。


「何だか、落ち着かなくてね…。あんたこそみんなと一緒じゃなかったの?」


「うん、明日一日遅れのパーティーすることにしたんだ…」


彩萌は、水の入ったコップを薫子に差し出した。


ーーーと、その薫子の隣の空席にイケメンの男性が腰掛けた。


「黛先生、奇遇だな、隣にいいですか?」


薫子が声のした方を向くと上杉だった。


彩萌は、団体客が来たので気を利かせてそっちの係にシャレこんだ。


「あら、あなたは三毛根の生徒…。緑川さんじゃない?」


「げっ、生活指導の吉川っ!!」


彩萌はお盆をひっくり返さんばかりに驚いた。吉川は神経質極まりない三毛根高校の元生活指導の教諭だ。


今は、他の学校に転任してしまい違う。それでも教諭は教諭だ。


三毛根高校の校則では夕方以降の飲食店のバイトは禁止となっている。


ヤバイやつに見つかったな。彩萌は、緊張した。


「ま、学校が違うからとやかく言うのはやめときましょう。校則はしっかり守るように」


吉川はあっさりと彩萌を許した。


「いいんかい!!」


彩萌は、突っ込みをいれたが、内心ほっとした。


「ーーーところで、緑川さん。カウンターに黛先生がいるみたいだけど、隣は誰?」


「ああ、上杉伊知郎先生、今度新任の先生です」


彩萌が説明する。


「上杉君って、あの伊知郎君?随分雰囲気が違うみたいだけど…」


「吉川先生知っているんですか?」


彩萌は意外そうに吉川に訊ねる。


「知っているも何も私の元教え子。そういえば、そんなこと言っていたわね。この間、写真を送ってきたわね、ちっとも変わらない子で…ほら」


吉川が彩萌に示した写真には真ん丸で似ても似つかぬ上杉伊知郎の姿が。


同姓同名の誰か?いや、アイツも三毛根の卒業生と授業で言っていた。


後にも先にも三毛根に伊知郎はただ一人。彩萌が神通力全開でカウンターを睨み付ける。


ーーーと、異空間が拡がり、うす暗闇のカウンターに上杉と薫子が浮かび上がる。


薫子が危険を察知し、上杉から飛び退く。上杉は間髪入れず、鋭い爪で薫子に襲いかかるも、今度は、彩萌に腕を弾かれ、顔に一撃を喰らう。


「お前、やっぱり妖怪か」

「ヒッヒヒ…。久しぶりだな狐」


「その声は、ヤマタノオロチ!!」


彩萌が叫ぶと同時に、上杉は、異空間に出来た闇の渦に身を投じる。


「逃がすか!!」


彩萌も自らその身を闇の渦に投じて、オロチの後を追う。


「緑川!!」


薫子が渦に向かい、手を伸ばす。後ろから誰かが薫子の体を羽交い締めにする。


「誰?」


薫子が鬼の形相で振り返ると、メイが必死で薫子を引き留めていた。


「罠です、きっと」


「放せ、神宮寺。緑川が」


そこに闇から手招きする白蛇が現れた。手には意識のない桜林ナオトの姿があった。


「あなたたち次第よ。どう、奪い返してみる?お仲間も全員お待ちかねよ」


メイと薫子は、互いに目配せした。黙って手をこまねいていても事態は変わらない。


「虎穴に入らずんば、虎児を得ず…」


薫子の呟きにメイは頷くと二人、闇の渦に身を投じた。





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