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まるっと拉致られる

「早くする!」


促された彩萌は、番号を控え、車がはっきりうつる写メを写した。


「薫子?酔ってたんじゃないのかい」


「あんなもんで酔っぱらうわけないでしょ。舐めた程度だわ。さ、緑川あいつらを追うわよ、わざわざあんたを残したのはそのためなんだから」


「でも、一体あの兄妹がなんだっていうんだい」


「あんた鈍いわね、気付かなかったの?あの二人…天狗よ」


「なんだって!?」


彩萌は、薫子を見開いた目で振り返った。


「問題は、何で橘が羽団扇を持っている猫又ってわかったか、それにここに来るってわかったか、ていう2点ね」


「あぁ」


「とにかく、急ぐわよ、緑川、あのタクシー拾って」



一方酒蔵へ向かう車の中では、にゃー子たちとかえでの楽しげな会話が続いていた。


「いいですね…のどかで」


窓の外の景色を見ながらメイがほぅとため息をついた。


後ろへ絶え間なく流れていく景色は、木、木、また木。


すんでの差で完全な秋色でないのが本当に残念だ。


その県道は緩やかなカーブを描いていた。空へ誘うような坂道がとても気持ちいい。


ワゴン車は、颯爽と突き進んでいく。



「ところで、日本文化の研究って何してはるんですか?」


聞かれるべくして、聞かれた質問に一同絶句した。


想定しておきながら誰も答えを用意していなかった。


「あ、その、ええと…。あれよ、ほら、今日みたいに伝統の職人技や建築なんかを見学したり、話しを聞いたり、体験させてもらったり…。」


愛梨沙が綱渡り演技でごまかした。


「えらいんですね。私なんかさっぱりですわ」


「ううん、私たちだって、旅行目当てみたいなもんだし、ねえ、みんな」


愛梨沙の問いかけにもっともらしく一同大袈裟に頷いてみせる。


そして、駄菓子のオマケ程度の愛想笑いを少々。


「仲良しさんなんやな…」


「まあ、みんな友達だし、ハハハ」


愛梨沙は、相変わらず下手な笑い顔を取り繕った。


「友達か…」


かえでは、一瞬寂しい胸の内をさらけ出すような間を空けた。


「うち、なんだかこんなにようしゃべって、よう笑ったの久し振りやわ」


かえでの顔は、大陽が張り付いたみたいにぴっかぴっかになった。


「かえでさんだって、明るいしお友達多いでしょ?」


「・・・…」


「かえでさん?」


愛梨沙が、まずいこと言ってしまったのか、今まで明るかったかえでは、真一文字に唇を噛み締め下を向いてしまった。


にゃー子は、寝たふりをしてかえでの顔を薄目で確認した。


かえでは、少し潤んだ瞳を必死で悟られまいとしている。


左手で震える右手に爪を立てて何かに堪えているようにみえた。


「いらんこと言うなや、かえで、お前も調子に乗ってはしゃぎすぎや。べらべらほんま、うるさくてかなわんな。少しは、黙っとれや」



バックミラー越しにみていた和馬は、睨み付けながら語気を荒げた。


感じの悪い一言に場は一気に白けきってしまった。


頭の上から強引に押し潰すような重い空気がただでさえ狭い車内を更に圧迫する。


メイが少しだけ窓を開けた。


その時、姫子が不安そうに口を開いた。


「あの、八塩酒造ってこんな山奥にありますのん?」

「・・・」


和馬は、無視したまま車を更に奥へと走らせる。


「パンフレットとちがいますやん、どこへつれていくつもりですのん?」


姫子の言葉が終わるや否や車の後部から飛んできたロープに一同縛りあげられてしまった。


みな、口々に和馬に詰め寄ろうとした矢先の出来事である。


「かえでさん?」


意味がわからず愛梨沙は、かえでの顔を見た。


「堪忍してや、すぐ済むさかい…」

「さあ、ついたで。こっからは、歩きや」


乱暴にワゴン車からにゃー子たちは放り出されるとついてくるよう促された。


地元の人でも歩かなそうな足場の悪い山の横道をゆっくり登っていく。


先頭を和馬、一番後ろをかえでに挟まれている。

数の上では有利だが、特殊なロープらしく、神通力(ちから)がだせないようだ。


まして、相手が何者かわからないのでは迂闊に行動できない。


とりあえず、にゃー子たちは和馬の指示に従った。


やがて、30分ほど歩くと小さな木造の小屋が目の前に現れた。


「着いたぞ、全員中へ入れ」


和馬は、乱暴ににゃー子たち一人一人を突き飛ばすように小屋の中に押し込めた。


「私たちが何したっていうのよ」


「そうです、理由をおっしゃってください」


「痛いでありんす」


姫子は、消え入りそうな声で、のたうちまわる。


怪我しているのに後ろ手に縛られており、何も考えられないほどの激痛と無言の闘いをはじめている。



「おい、そこの猫、悪いんは全部お前のせいや」


和馬がにゃー子の前に仁王立ちになる。


「私が何したっていうにゃ?」


「しらばっくれるなや、この泥棒猫!俺の大事なもんかっさらいおってからに…。わしら一家がどんだけひどい目おうた、思ってんねん」


「大事なもん?」


にゃー子がはてなと首をひねる。


「いい加減さらせよ、こら。羽団扇じゃ、天狗の大事な羽団扇じゃ」


「ああ、でも、お前の羽団扇なんて知らにゃい」


にゃー子は、とぼけたにしては堂々と答えた。


「アホぬかせ、ネタは上がっとるんじゃ、ボケ!!おとなしゅう言っとるうちださんと、偉い目みんぞ」

和馬は、傍でのたうち回る姫子の腹を思いきり蹴り飛ばした。


「止めろ、姫子は怪我人にゃ」


「そうよ、女の子に手挙げるなんて最低だわ」


「最低ですぅ」

手じゃのうて、足じゃ、ボケ!!盗人猛々しいとはお前らのこというんじゃ」


和馬は、益々いきり立つ。


「ますます、最低ですぅ」


メイのその言葉に和馬は、両目をカッと見開いて、メイを右手の甲ではたきつけた。


きゃっと短い悲鳴をあげたメイは、床に転がる

「ちょっと何すんのよ、いい加減しないとただじゃ済まないわよ」


愛梨沙が和馬を怯むことなくキッと睨みつける。


「面白いやないか、縛られたお前らに何ができるちゅうねん?威勢がいいだけじゃどうにもならんやろ」


和馬は、背を(かが)めると、愛梨沙のあごをクイッとあげ、目を合わせて馬鹿にしたように口元だけで笑った。


「兄さん!」


いたたまれず、かえでが口を挟む。


「お前は、黙っとれ」


ドスの効いた声が小屋に響くとかえでは再び下を向いて押し黙った。


「だせば、皆には手出ししないんだにゃ」


にゃー子は、確認するように和馬の顔を見た。


「ほれ、みてみい。持っとるんやないかい。早よ、ださんかい」



勝ち誇った顔で和馬は、にゃー子を見下ろした。


「このロザリオの中にゃ」


にゃー子は、首に下げるロザリオを自分のあごで指し示した。


和馬は、ゆっくり腰を下ろすとにゃー子の首筋に手を伸ばし、ロザリオを外した。


そして、宝物を手にしたかのようにロザリオを掲げ、下から恍惚の笑みで眺め回した。


「ついにやったで」


にゃー子は、上目遣いにジロッと和馬を見上げた。


「早よ、だせや」


「いでよ、黒扇丸!」


半分投げやりなにゃー子の言葉にも忠実に羽団扇は、姿を現した。


「よそ様の物にけったいな名前つけおって…」


和馬は、感触を確かめるように羽団扇を一振りした。


「約束にゃ、みんなを解放するにゃー」


「これで、お前らみんな、用済みや。俺の手で仲よう消したるさかい安心せい」


「和馬、約束が違うにゃ」


「兄さん!?」


突然のことにかえでまでが驚きの反応をした。


「誰がそんなこと約束したんや、わしは、一言も言うとらんぞ。かえで、わしらこれを盗られたせいでどんだけ辛い目おうたと思っとるんや。特にかえで。お前は・・・」


「うちはかまへん。兄さんがいつもかばってくれはったから。でも、兄さん、そんなんしはったら、あいつらと同じことしてるのと変わらん!!考え直し・・・」


「やかましい、全部お前のためや」


和馬の怒号が山に響くと鳥たちが一斉に羽ばたいた。












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