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くじ引き

くじ引き当日。


にゃー子は、お昼もそこそこに愛梨沙とメイにくじ引き会場となっている生徒会室前に引っ張ってこられた。


そこには、すでに三年生を除く全部のクラスの代表が集まっていた。


「遅かったか」


愛梨沙は、人混みの多さに思わずつぶやいた。


くじ引きは、到着順なので、にゃー子がたとえ神通力で当たりくじを引ける力があったとしても、先に誰かが当たりくじを引いてしまっては意味がない。


「橘クン、キミたち余裕じゃないか。秘策でもあるのかーい」


聞き覚えのある不快な声に愛梨沙たちは、振り返った。


緑川彩萌が、整理番号1の札を見せびらかしながら立っていた。


ただ、いつもと違うのは、横にいるのが、藤崎琴音ではなく、桜林ナオトだったという点だ。


「くじ引きなんだから、一番が有利とは限らないわ。でも、珍しい組み合わせね」


「うちのクラスは、実行委員は男女一名ずつだからね。琴音は団体でこういうことするのキライなタイプだから…。それより、いいのかい。みんな、受付済ましちゃったみたいだよー」


「あ、しまった!」


桜林とにゃー子が話しているのを制して、愛梨沙は、にゃー子に受付を済ますよう促した。


にゃー子たち、2ーDは、結局、一番最後になってしまった。


「にゃー子!他のクラスがくじ、外れるようにしなさい」


愛梨沙がにゃー子に小声で言った。


「ムリにゃ。自分が引く分には、当たりくじを引けるけど、他人が引く分までは操作できないにゃ」


にゃー子は、困ったように小声で言った。


「えー?じゃ、どうすんのよ。黙って見ているしかないっていうの?どう考えたって圧倒的不利じゃない」


「神頼みの領域ですね…」


愛梨沙もメイも途方に暮れたため息をついた。


そうこうするうちに、一番の彩萌がくじをひくため、生徒会の役員がいる前に進んでいった。


商店街やコンビニでよく見かけるスピードくじが入った四角く、上の方に穴のあいたお馴染みの箱が、彩萌の前に差し出された。


彩萌は、なんの躊躇もなく、箱の中に手を入れるとあっさり引き出した。

会場のハズレを期待した無言の視線が、一斉に彩萌に注がれる。


彩萌が生徒会の役員に引いたくじを手渡すと、その役員が中を確認した。

「アタリでーす!」


一発目からのアタリに会場が一気にどよめいた。残りのアタリが一つとなり、確率がぐっと下がってしまったからだ。


「こりゃ、だめだ」


愛梨沙は、完全に上を向いてしまった。


「悪いね、一発で引き当てちゃったよ。ボクついてるなぁ」


彩萌は、愛梨沙の近くまで来てぼそっと愛梨沙たちにだけきこえるくらいの声で囁いた。


「わざとらしいわね、どうせ神通力(ちから)つかったんでしょ?」


愛梨沙は、彩萌をキッと睨みつけた。


「なんのことだい?一発で当てられたからって変な言いがかりやめて欲しいな」


彩萌は、白々しくやれやれといった態度で首を横に数度振ってみせた。


「ムカつくわね、大体あんた…」


愛梨沙がそう言いかけて、彩萌の方へ歩み寄った時、愛梨沙の胸から下げた殺生石がピクピクと生き物のように反応を示した。


「?」


愛梨沙は、制服の中で確かに今も反応し続ける殺生石に手をやった。


ナニ キツネ ガ イルノ?


愛梨沙は、辺りを見回した。琴音の姿はない。


目の前にいるのは、緑川彩萌だ。


「へぇ、変わったペンダントだね。ちょっとボクにもみせてよ」


明らかに顔色が変わった彩萌が焦るように愛梨沙の胸元に手を伸ばしてきた。


「よく、そこからペンダントなんて見えるわね。夏服ならまだしも…。このペンダントかさばるほど厚くもないし。緑川さん、透視でもできるのかしら?」


愛梨沙は、絶対にこれだけは渡せないと身を翻した。


メイとにゃー子も彩萌に身構えた。


「やれやれ、からかったらすぐムキになっちゃって。キミたちは、ホントこわいんだから」


彩萌は、鼻でため息をつくと、後ろを向いて、教室の方へ歩きだした。


「あ、こないだのお詫びといったらなんだけど、ボクからのプレゼント受け取ってくれたまえ。じゃ」


彩萌は、振り向きもせず、アタリくじに模した紙をビラビラさせて、教室へ帰っていった。


くじ引き会場と化している生徒会前は、怒号とため息が未だになりやまない。


愛梨沙は、その喧騒の中でくじ引きのことよりも胸のペンダントと琴音の関係について考えていた。


もしも、琴音がキツネなら修学旅行の騒動で反応してたはずである。


ましてや、偽りの赤い糸をリュートとにゃー子に結んで、愛梨沙を惑わした時は、本人が仮面を被ってわざわざ登場しているのだ。


その時さえ、ペンダントは全く反応していなかった。


ということは、琴音はキツネではないということになる。


彩萌がキツネ…。


彩萌がキツネで間違いはない。ペンダントの反応がその証拠だ。


彩萌が琴音を操っているとしたら。修学旅行での行動がいまいち辻褄があわない。


愛梨沙は、頭をかきむしって、「あ」に濁点をつけた叫び声をあげた。


一斉に皆が愛梨沙を振り返った。



「あーりん、気持ちはわかりますけど、落ち着きましょ。あと一人外したらウチに確定ですから…」


「え、もぅ、そんなとこまで…」


愛梨沙はにゃー子の前にくじを引いた男子生徒をガン見した。


愛梨沙と目のあった男子生徒は、髪が山姥状態で目が血走っている愛梨沙の恐ろしい状態に後退りして固まってしまった。


ようやく、生徒会の役員が、その男子生徒の手から紙を回収し、中身を確認した。


「ハズレでーす」


にゃー子が、その声を聞いて、最後のくじを引いた。


一応確認のためである。


にゃー子がおそるおそる紙を開いた。


にゃー子が、高々と笑顔で掲げた紙にはアタリの文字が記されていた。


「よっしゃー」


にゃー子たち三人は、拳を突き上げ、喜んだ。


残って観戦していたものたちもこの瞬間に散り散りに解散していった。



愛梨沙とメイは、にゃー子に抱きついてはしゃいだ。


「彩萌のやつが、やったのかにゃ…。アイツいいやつか?」


「んなわけないでしょ!大事な修学旅行中に人の命狙うような奴よ、ナニ企んでるかわかったもんじゃないわよ。それにさっきだって、このペンダント狙ってきたし…」


「きっとこの石が邪魔なんですよ。また、狙ってきますよ。あーりんのこと心配ですぅ」


「あーりんのことは、にゃー子が守る!」


にゃー子は愛梨沙の肩を叩いた。


メイも無言で愛梨沙の肩を叩きながら、コクリと頷いた。


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