ハニートラップ?
その日から、愛梨沙は、自宅でも緊張した日々を過ごすこととなった。
トイレ、風呂、就寝一時も落ち着かない。
一応、警備員にゃー子が何かあれば駆けつけることになっているし、殺生石のペンダントもメイの術で結界を張って守っている。
拝啓、人を護るべき魔除け石様。
ナゼニ ワタシガ アナタヲマモッテイルノデショウカ?
愛梨沙は、ベッドの中で妙な気分になってしまった。
追伸、コンヤハトテモネムレソウニアリマセン
愛梨沙は、寝返りをうつと枕を抱えたまま、布団を頭からかぶった。
愛梨沙は、学校に登校すると、にゃー子の神通力でホームルームの前に少し、眠らせてもらった。
家では、落ち着かないのだ。
毎晩、枕元に狐面をつけた彩萌が現れ、愛梨沙の首もとのペンダントを盗みとろうとするからだ。
愛梨沙にとってそれが、夢なのか現実なのかはわからなかった。
しかし、愛梨沙を精神的に追い込んでいるのも事実である。
にゃー子は、机に突っ伏して爆睡する愛梨沙の背中をそっと撫でた。
ホームルーム直前、忍びなかったが、にゃー子は、神通力を解き、愛梨沙を起こした。
「ありがとう、にゃー子。だいぶ、いいわ。」
「あーりん、こう毎日じゃ気の毒にゃ。代わろうか…」
「ふふ、ありがとう、にゃー子。秘策があるから平気よ。もうじきグッスリ眠れるから…。それより、にゃー子、もしもの時は頼んだわよ」
「わかってるにゃ。でも、あーりん、秘策って?」
「必殺、ハニートラップよ」
「にゃ?」
愛梨沙は自信たっぷりの表情で前を見つめていた。
学園祭前日。にゃー子たちは、飾り付けやら食材の買い出しなどに大忙しだった。
「目指すは、MKNグランプリ金賞よ」
「にゃんだ、それ?」
愛梨沙の言葉に、にゃー子が反応した。
「そうか、にゃー子転校生だから知らないか…。」
「MKNグランプリ。つまり、三毛根高校グランプリの略ですぅ。食べ物屋さん部門と学芸部門に分けられますぅ。見事金賞に輝くと校長デザインの金の猫型トロフィーが、赤い座布団つきで授与されるんですぅ」
メイがにゃー子に説明した。
「ま、三月の終了式の日には返さなきゃならないんだけどね…」
店内の客席の配置を指示しながら、マユが付け足した。
「飾ったクラスの人は必ず幸運が訪れるってうちの高校の伝説なの」
愛梨沙は、食材を調理場に運ぶため、にゃー子と立ち上がった。
教室の前の廊下に山積みされた食材を愛梨沙が持ちあげようとしたときだった。
「ちょっと、そこのあなた」
愛梨沙が顔をあげると、学年主任で、風紀委員担当の吉川光子が、腕組みをして、厳しい顔つきで立っていた。
「学校にペンダントなんてしてきてはいけません!それは、没収します」
「これ、ただの石ですよ」
「石だろうとなんだろうとダメなものはダメです!!すぐに外してよこしなさい」
「わかりました。どうもすいませんでした!」
愛梨沙は、むくれた態度で乱暴にペンダントを外すと吉川にそれを手渡した。
吉川は、愛梨沙に更に二三小言を言うとペンダントを片手に握りしめて職員室の方へ歩いていった。
「あーりん。きっと狐の仕業にゃ、なんとか取り返し…」
にゃー子の言葉に愛梨沙は不敵な笑みを浮かべて、首を横に振った。
「ハニートラップ。発動中よ」
愛梨沙の言葉ににゃー子は、大きく左に首を傾けた。




