第十一話
「えい! (スカッ) やぁ! (スカッ)」
さっきからユウキが懸命にアンバービーに向かって剣を振っているが一回も当たってない。
「おーい、力み過ぎだユウキ。威力を出そうとして振りかぶるより、素早く振ったほうがいいぞ。取りあえず当たらないと意味がないからな」
俺はユウキの方まで蜂が行き過ぎないように、適度に数を減らしつつ観戦していた。
「う~~難しいよシンヤ君、どうして君は簡単に蜂たちに当てられるの?」
「う~ん、慣れかな・・・うちでは夏場になると俺のわきにハエ叩きが常備されるようになるしな。母さん曰く俺にはハエ叩きの才能があるそうだ」
「ハエ叩きの才能ってなんだよ・・・てかシンヤ君はハエ叩きを家事手伝いとしてやっているの」
「ああ、やると母さんが喜ぶんだよ。『ああ、この子を産んで良かった・・・』って」
「普段どんだけ役に立ってないんだよ! もっと親孝行したほうがいいよ」
二人で蜂たちの注意を引きながら戦っていると、単独行動して蜂蜜を採っていたモモが戻ってきた。
「一杯とれたよ~~、ユウね~さんの調子はどう?」
「見てのとおり、殆ど当たっていないぞ」
話している間も数匹の蜂がユウキの周りをブンブン飛び回っており、ユウキが無駄な攻撃を繰り返している。
「それじゃ~モモも手伝っちゃおうかな~」
「モモも戦えるのか?」
「全然。だけど手伝うことぐらいできるよ」
そう言い、モモは背負っている巨大なぬいぐるみ型のカバンからブーメランを取り出した。それを掛け声とともに投げるとブーメランは回転しながら蜂に向かって飛んで行った。だが、蜂は飛んでくるブーメランに気付き素早く身をひるがえし回避行動を行った。蜂が避けて、明後日の方向に飛んでいこうとしたブーメランだったが、いきなり方向が変わり蜂に向かって行き、ぶち当たった。
「おお~、何だあのブーメラン物理法則無視しているじゃねえか」
「ふっふっふ、これがモモ特製のホーミングブーメランだよ。自動追尾機能付きのブーメランだけど威力はないからあの蜂はまだ生きているよ」
モモの言うとおり、ブーメランに当たり地面に落ちた蜂だったが、再び飛び上がろうと羽を震わせていた。
「おね~さん、止めをお願い」
「えっうん、わかった」
ユウキは駆け寄って、飛び上がろうとした蜂に一撃加えて止めをさしていた。流石に地面に落ちた蜂には攻撃を当てることができるようだ。
「よ~し、モモがドンドンこのブーメランで蜂を落とすから、おね~さんは止めを刺していってね」
ユウキはモモはコンビで蜂と戦うようにしてから、先程とは違い、次々と蜂を駆逐していった。
十分な量の蜂蜜を入手した俺たちはエレウシスに帰ることにした。そして、三人で仲良く最中にそれは起こった。森の中を歩いていると森の奥から地響きが鳴り響き、巨大な何かがこっちに向かってきているようだった。
「ユウキ! モモ! 何かが来るぞ、構えろ!」
「うん、わかった!」
俺たちが素早く戦闘態勢に入ると奥から地響きの正体とそれと戦う番長たちが目に入った。
モンスターは名をエメラ・ントゥカ表示され、ゾウのような巨大な体をもち、頭にサイのような角を尻尾はワニのように太く長いものを持っていた。
戦っていたバンチョウたちは倒すよりも時間を稼ぐことを優先しているようだった。バンチョウが前衛として近接戦闘し後ろにヒーラーがバンチョウの援護をし、最後にアーチャーが牽制をする感じで攻めていた。バンチョウは俺たちに気付き話しかけてきた。
「わるいシンヤ、巻き込んだか、こいつの敵意は俺たちに向いるから、今のうちに逃げろ」
バンチョウがそんなことを言ってきたが、これほどの巨大で戦いごたえのありそうなモンスターを前にして、俺が闘争心を刺激されないわけがない。思わず口元に獰猛な笑みが浮かび上がった。
「任せろバンチョウ! おらぁ!!」
俺の斬撃はしっかりとエメラ・ントゥカの外皮を切り裂き、奴はこちらに敵意を向けてきた。バンチョウと共に体の両側から攻める俺たちに苛立っているように暴れまわり始めた。
「うおぉ、あぶねーバンチョウはこんな奴をたった三人で相手にしてたのか」
「ああ、依頼で商隊の護衛をしていた時に襲われたんだ。最初は六人だったが半分は商隊の方について行って先に逃げてもらっているんだ」
なるほど、だから時間を稼ぐような戦い方をしていたのか。確かに、これほどのモンスターを三人で倒すのは無理があるな・・・しかし、今は俺たちも混ざり、メンバーも前衛に俺とバンチョウ、後衛にヒーラーとアーチャーの人、そして特に役割のないユウキとマスコットのモモがいる。
・・・うん、即席にしては充実したメンバーだ。俺はそう思うことにして再びエメラ・ントゥカに向き直った。
俺たちはあれからしばらくエメラ・ントゥカを攻めたてているが、分厚い外皮と巨体による攻撃でうまく攻めることができず、一向に倒れる気配がなかった。
今も奴は尻尾を振りかぶりこっちに叩き付けてきた。大振りで予備動作が解かりやすく簡単に躱せるが一撃の威力が目に見えて高くちょっとしたミスで食らってしまったら死んでしまうかもしれないと思うと結構神経にガリガリくる作業だ。
「くそ、まだ倒れないのか、バンチョウ何かいい手はないっすか」
「落ち着けシンヤ、着実にダメージは溜まっているんだ、このまま続けていくぞ」
そう言いつつ、バンチョウたちはスキルを打ち込み続けた。
「《パワーアップ》」ヒーラーが前衛の力を底上げし
「《ペネトレイション》」アーチャーの矢が奴を打ち抜き
「《剛破正拳突き》」バンチョウの拳が奴の体を軋ませた
バンチョウたちに負けず、俺たちもスキルを放った。
「《サンダーボルト》」ユウキが雷の魔法を放ち
「異伝天草流《烈破・轟》」俺の全身のばねを使い打ち出した突きが衝撃波を伴い奴を穿った。
「《フレイム・クラッカー》」モモがカバンから取り出したパーティーグッズのクラッカーのようなアイテムを使うとそれから、ファイヤーボールのような火球が発射された。
この連続攻撃に耐えきれなかったのかエメラ・ントゥカは悲鳴を上げて後ずさった。
「今だ、畳み掛けるぞ」
バンチョウの号令と共に俺たちは追撃を駆けるために駆け出したが、エメラ・ントゥカの前足が持ち上がりスキルエフェクトと共に振り下ろされた。その瞬間、地面に衝撃が走りぬけた。
俺とバンチョウは地面から飛び上がり衝撃を回避し、他の三人は重心を低くし衝撃を耐えていた。しかし、ユウキは対応することができず衝撃をもろに受け派手に転んでしまっていた。
「ユウキ!」
転んだユウキに気付いたエメラ・ントゥカはユウキに目がけて突進してきた。
態勢を立て直せていないユウキを救うために、俺も刀を収めユウキに向かって駆け出した。当然、素の速さはエメラ・ントゥカの方が速いが奴がスキルを使ったようにこっちも丁度いいスキルがあった。
「《縮地》」
スキルを使った瞬間、俺の体は弾丸のように加速し一気にエメラ・ントゥカを抜き去り、ユウキを拾い上げ奴の攻撃を回避した。
「うっし、間に合った。大丈夫かユウキ」
「ありがとう、シンヤ君・・・あの、もう大丈夫だから下ろして」
「わぁぁ、ユウね~さんいいなぁ~~。ヒューヒュー」
そう、頬を赤らめて恥ずかしそうにユウキは言った。それもそのはず、俺はユウキをお姫様抱っこをしていた。その姿を見たモモたちは、冷やかすように口笛を吹いたりして戦闘中とは思えない空気になっていた。
もっとも、エメラ・ントゥカにはそんな空気は関係なく、方向転換すると再び俺たちに向かって突進してきた。
「ちょっと、シンヤ君来てる来てる、早く下ろして」
腕の中でユウキが暴れるが、俺は気にせずに、タイミングを見計らってユウキにこう言った。
「飛ぶぞ、ユウキ《翔翼》」
スキルの力で通常ではいけない高さまで跳躍した俺は空中でユウキに「雷の魔法を使え」と言い、さらに上に放り投げた。「ひゃぁぁぁ」っとユウキの叫びが響く中、刀を抜き深くエメラ・ントゥカの体に突き刺し、再び跳躍した。
ユウキもこちらの意思を汲んでくれたのか、《サンダーボルト》のルーンを刻んでいた。俺も封魔の指輪を起動し、封印していた《サンダーボルト》を解放した。
二つの雷撃が刀に命中し、そこから体内に直接電気が流れ込み、これまでの蓄積したダメージもあり、ついにエメラ・ントゥカを倒すことに成功した。
「はい、お帰り」
放り投げたユウキを再び抱きかかえると、ユウキは不満気な顔をこちらに向けてきた。まさしく、自分は怒ってますという顔だ。
「ひどいよシンヤ君、いきなり放り投げるなんて、物凄く怖かったんだからね」
「わるいわるい、まぁ上手くいったんだからいいじゃねえか」
二人で言い合っていると、バンチョウがやってきてニヤニヤしながらこう言った。
「おーい、お二人さん痴話げんかもいいが、取りあえずこいつの剥ぎ取りをして街に戻らないか。今回手伝ったお礼もしたいしな」
「えっ、別に痴話げんかじゃないですよ」
ユウキは顔を赤くして必死に言いつくろっているが、バンチョウたちは面白そうに茶化して、作業をすすめていった。




