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タイムマシンに乗って

 妖怪が見える少年、レンと願いを叶えると噂のオバケウサギ。彼らがつむぐ、少し不思議なお話。今回の主人公は、大人の男性。

『タイムマシンに乗って』


 会社で普通に働いて普通に結婚して普通に幸せな生活をするんだろうなって、これからの人生を考えてた。何も無い、不変の毎日。そんなある時、こんな噂を耳にした。

 願いを叶えてくれるウサギがいるらしい、と。

 ウサギが願いを叶えてくれる? そんなバカな話があるわけがない。……そう思ってた。



     ♪



「こんにちはぁ」

 普通の会社で働いて帰ろうとした駐車場で聞きなれない声がした。少し間延びしたようで、少女のように高い声。けれど、そこにいたのは少年だった。年の程は分からない。大人っぽい顔立ちなのに、声だけが声変わりする前の少年だからだ。

「こんばんは、かな?」

 少年は小首をかしげてみせる。辺りはもう真っ暗なのに、少年の髪がさらりと流れて黒光りした。吸い込まれそうな漆黒だ。

「こんばんは。俺に何か?」

「えー?」

 その紅い瞳を細めながら少年がくすくす笑う。

「ここにタイムマシンがあります」

「……はぁ?」

「って言ったら?」

 またくすくす笑う少年。バカにしてるのか? そもそも子供がこんな時間にこんな場所に居るのがおかしいんだ。

「あのなぁー。大人をあんまりからかうもんじゃないぞ?」

 そういうことを教えられてこなかったのだろう。俺は少し強めに言った。すると少年はまた小首を傾げた。

「大人? 大人っているのかな?」

「いるだろ」

「誰のこと?」

「誰って……例えば、俺とか」

「おじさんは大人なの? でも、おじさんにはお父さんとお母さんがいるよね? その人たちの子供じゃないの?」

 ……何を言い出すんだ? 親がいるなんて当然のことじゃないか。

 そうか、こいつは幽霊か何かの類なんだろう。関わるべきではなかったな。

「人間はみんな子供だよ。みんなみんなカミサマの子供。カミサマが暇つぶしに造ったおのだよ」

 俺は車のドアを開けると乗り込んでエンジンをかけた。もうあの少年と関わるべきではないのだ。

「帰るの?」

「あぁ、そうだ。……ってなんで乗ってくるんだよ? 俺を誘拐犯にしたいのか?」

「えー?」

 後部座席でからからと笑う少年。何がおかしいんだ。

「それもいいかもね。この状況はおじさんにとっても良いんじゃない?」

「はぁ?」

 帰れなんだから、さっさと降りてくれよと後部座席でにまにましている少年を睨んでみる。逆に少年に微笑み返されたが……。

「だって僕を襲いたい放題だよ?」

「っ! いや、俺……男だから! そういうのは女子が言うもんだ」

 まったく何を言い出すのやら。こいつにこれ以上つきあえない。

 俺は後部座席に回り込む。

「え? 本気にした?」

「お前なぁー」

 ひょいっと少年を担ぐと外に放り出した。意外というか思った通りというか、少年は軽かった。

「ねぇおじさんは、あの噂を信じてる?」

 ドアを閉める間際に少年が声をかける。凛とした少女のような声で……。かっと頬が熱くなったのが自分でも分かった。いや、奴は男だ。……たぶん。そして俺も男だぞ? 何を考えてるんだ……。

 あの噂……俺がまだ小学生くらいの時に聞いた噂のことか? ウサギが願いを叶えてくれるっていう……。あの時はバカらしいと思った。今もそう思っている。今更どうしてそんな昔の噂を思い出したんだろう……。



     ♪



 普通に家に帰って、飯を食って、風呂に入って寝て……また会社に行く。同じ毎日の繰り返し。だったら……

「こんばんは」

 昨日の少年がまた駐車場にいた。にまにまと笑いながら車の側に座っている。

「……またお前か」

「お前じゃないよ。レンっていうんだ」

「今日は何の用だ? とういか何が目的なんだ?」

 二日も続けて遭遇したなら、もうそれは運命だろう。こいつ……レンにつきあってやるしかない。

「えっと……それじゃ単刀直入に、おじさんの願いは何?」

「俺の願い?」

「そう。僕はおじさんの願いを叶えに来たんだよ」

「でも、噂通りなら願いを叶えるのはウサギだろ?」

 だから昨日、俺に噂を信じるかって聞いたんだろ……。

「僕はそのウサギの代弁者、とでも言っておくよ」

 俺の……願い? 俺は普通の生活に満足している、普通に会社に勤めて、普通に結婚した。これ以上、何を求めるんだ? 普通に……幸せじゃないか。

 レンは頭の上の名にもないところを撫でた、まるでそこにウサギがいるかのような仕草だ。

「お前は俺の願いを叶えたら消えるんだな」

「うーん……。そういうことなんだけどね……。そもそも僕は願いがない人間の前には現れないんだ」

「それじゃ、とんだお門違いだな。俺に叶えてほしい願いなんてないな」

 そうだ。だから、早くこんな変なやつとは縁を切りたい。

「そんなことないと思うけど……」

 レンは困ったように笑うと顔を伏せてしまった。

「分かった分かった。そうだな……それじゃお前ともう関わりがなくなること。これが俺の願いだ」

 早く帰りたい。

「それは僕と出会う前なら発生しない願いだから違うよ。もっと別の願いは?」

「……タイムマシンなんてあるのか?」

 こいつは昨日の夜、ここにタイムマシンがあるみたいなことを言っていた。

 レンが本当に何でも願いを叶えられるなんて思わない。早く願いを聞いてもらって、おさらばしたいくらいだ。

「あるよ」

 口の端をつり上げて不敵にレンは笑う。

「それが欲しい」

 もし、真実なら。

「タイムマシンはあげられない。でも好きな時間にとばしてあげるよ」

「お前自身がタイムマシンみたいなことか?」

「そういうこと」

 なら、なら……。

「それなら、俺を過去にとばして欲しい」

 にっこりレンは笑顔のお手本のように笑った。素直に可愛いと思った。

「いいよ」



     ♪



 ウサギが願いを叶えてくれる?

 そんなバカな話、あるわけがない。



     ♪



「これでおじさんは本当の不変を手に入れたんだね」

 僕は小学生になったおじさんを眺めた。

「過去に戻ったとしても、何も出来ない。過去を変えることなんてできないんだ。おじさんは小学生に戻った。そして成長して会社に入って、また僕に言うんだ。『過去にとばして欲しい』ってね。そうして永遠に回り続ける時間の中で生き続ける。ある意味、不老不死だね」

 去っていくおじさん。僕は立ち上がって、その腕にオバケウサギを抱えた、オバケウサギは不思議そうにこちらを見て、何かを言った。

「僕はただ、おじさんの時間をつなげただけだよ」

 オバケウサギの問いに答える。僕が頭を撫でてやると気持ちよさそうに、僕と同じ紅い瞳を細めた。

「さぁ次に行こうか」



タイムマシンに乗って

おしまい


 こんにちは。無月華旅です。毎月二十日、更新予定、だった小説です。なんという事でしょう……。昨日まではちゃんと覚えてたんですけどね……。普通に大学があると、曜日感覚がなくなっていくんですねー。

 今回の話はいかがだったでしょうか? ちょっとレン君がふざけてる所がありますが……。彼の意外な一面が見れる回だったんじゃないかなぁーと思います。

 最後になりましたが、ここまで読んでくださってありがとうございます!ではでは、願わくば、また次回お会いできますことを。

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