表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/63

E6-7:遭遇アフタースクール

「へーえ。瑞葉さんがアドバイスくれたの」

「ほーう。つまり僕が提案した鳥よりも彼女が提案した魚の方が相性がよかったということですか」


 ……無事、魚の式神を綺麗に作れたというのに何なんだろうこの刺々しい空気は。


「久城君が式神を作れるようになったことは喜ばしいことなんだけど、私の力不足が浮き彫りになった感じねえ。先生自信をなくしそうだわー……」

「同感です。僕も貴方を見守る立場として適切な指導をできなかった自分が不甲斐ない」

 さめざめと、落ち込むフリをする大人と小鳥。

 その動作があまりにもシンクロしていてわざとらしさが際立った。

「あーもう! せっかくうまくいったのにからかってないで普通に喜んでくださいよ!」

 ふくれっ面で抗議すると、木村先生は苦笑う。

「からかいも含んでるけど多少は落ち込んでるのよ?」

「やっぱからかってんじゃないすか」

「分かってないですねえ少年。多少は落ち込んでいると言っているじゃないですか」

 セキの溜め息混じりの言葉に俺は首を傾げる。

「なんで2人が落ち込むんだよ?」

 するとまたしてもセキが深い溜め息をついた。

「女心ってものが本当にわからない人ですね貴方は。どうせ結果しか見てないんですよ」

「ほんと。そんなんじゃ将来沢山の女の子を泣かせちゃうわよ? 大事なのは過程よ過程。女の子はそっちを気にするんだから」

 先生までそんな……。

「ってかなんでこんな話に!? 今日の授業は!?」

「あらいけない、もうこんな時間」

 そう言って、先生はポケットから1枚の紙切れを取り出した。

「はいこれ」

 手渡されたその紙には、なんだかよく分からない紋様が描かれていた。

「この学校のどこかにそれと同じマークを置いてきたから、式神を使ってそれを探しだすのが今日の課題よ」

 ……ということは今日はまだそこまで肉体的な課題じゃないってことだな!

 学校のどこにあるかってのが見当つけにくいのはしんどいけど。

「あ、でも多少のトラップは仕掛けてあるからそこのところはよろしくね」

 ……やっぱそうなるんすか。

 まあ、トラップにしろ捜し物にしろセキがいればちょっとは楽に……

「今日はこの鳥さんは置いていってね。久城君だけの力で探し出すのよ?」

 …………。

「……先生、さっきのくだりの件、もしかしてまだ怒ってます?」

「やだなあ、そんな大人げないことしないわよ」

 それに――と先生は付け加えた。

「ちゃんと見つけられたら、ご褒美をあげる」

「?」


 ……ご褒美。ご褒美かあ。

 なんか、いい響きだな。


「少年。顔がゆるんでます。不埒なことを考えていないでしょうね」

「へ? 全然! そんなこと」

 なくもないけど。

「いっちょやってきます!」

 拳を振り上げ、俺は意気揚々と保健室を出た。




 ――さて、これだけ広い校内だ。

 セキがいない以上、式神を何体か同時に使役しないと、マークを探し出すのは難しいだろう。

「けどなあ。複数を同時に使役するのって疲れるって先生言ってたしなあ」

 つまるところ、俺は自分の限界がどのへんなのかいまいちまだ分かっていないのだ。

 使うのは小さな式神だし、負担も微々たるものだと思うけど、でも倒れてからじゃ遅いし……。

「まずは2体くらいにしとくか」


 ついさきほども試した手順に沿って、式神を作る。

 最後に気合いを入れて、2枚の紙に力を流した。


「お……」

 上出来だ。

 赤と青の、対のような魚が俺の意志通り別々の方向に泳ぎだす。

「はは。俺ってやればできる……」


 ……ってあれ。

 なんか頭がちょっとくらっと。

 いや、足下がぐらっと?

 あれ。

 あれ!?


「っ」

 どしゃりとその場に膝をついてしまった。


 少し鼓動が速い。

 ……なんか、寿命が縮みそう。


 たった2体の使役でこんなになっちまうのかよ俺!

 どんだけひ弱!?


「……!」

 己の力のなさに愕然としていると、暗い廊下の向こうから、こつりこつりと足音が聞こえてくる。

 聞き覚えのあるこの足音は……


「人体模型!?」

 先生との初日の訓練で苦い思い出をつくってしまったあのキモ人形。

 もう奴に押し倒されるのはごめんだ!


「っ」

 がくがくしている足を奮い立たせて、必死に逃げる。

 すると奴も容赦なく追いかけてきた。


 足だけじゃ逃げきれない。

 このままじゃ前の二の舞だ。

 だったらここで使うしかないだろう。


「来い!」

 俺が叫ぶと、探索に回していた式神2体がすぐ側に現れた。

 柄こそ小さいが、魚っていうのは意外と瞬発力がある。

 だったら……

「悪い! 特攻してくれ!」

 それ以外考えられない。

 だってこいつらに破壊光線が吐けるわけでもないのだ。俺がそんな風にイメージして作っていないから。


 俺の言葉通り、2体の式神は惜しげもないスピードで人体模型にぶち当たった。

 結果、人体模型はガラガラと内蔵をぶちまけ倒れ、動かなくなった。

 同時に、式神2体も紙切れに戻ってしまった。


「……はあ」

 がくりとその場に膝をつく。

 開始してまだ5分も経ってないのに、もうこんな有様だ。

 もう1度式神を作れればいいのだろうが、ぶっちゃけ次を作ると俺が歩けなくなりそうだ。

「……どうすっかなあ……」

 ふと、無惨に倒れている人体模型を見る。

 そいつの頭には、木村先生が貼ったのであろう命令符がついていた。

「そういやこれも式神の応用って言ってたっけ」

 式神は術者がイメージして一から作るが、あれは元からある物体に簡単な命令を下すものらしい。

 あくまでもその物体の限界は越えられないため、式神よりもさらに行動の繊細さを欠くらしいが、使役に使う力は最小限で済むのだとかなんとか……。

「……あ、そうか」



 結局俺は、キモ人形改め人体模型の人体くんを護衛にして、自力でマークを探す作戦に出た。

 先生が仕掛けていたトラップは初日に見たとおり、式神の鳥の群れが追ってくるだとかドラム缶が転がってくるだとか、そういう類のものだったので、人体くんを楯にしていればとりあえずは自分へのダメージは免れた。

 隣を歩いている人体くんはすでにかなりぼろぼろで、もしこれに意思があるなら俺はすでに呪われている頃だろう。

「悪いな」

 ほんと、ここまでぼろぼろにしてしまったのは申し訳ないと思っているんだが、こいつのおかげで随分と心強い。

 昨日の敵は今日の友ってこういう感じなのか、なんてしみじみ思ってしまった。


 ……しかし。

「なんか……」


 夜の学校のこの静寂。

 月明かりだけが差し込む廊下。

 ひやりとした空気。

 そして、隣に誰かがいるという安心感。


 妙に、デジャヴを感じる。


 ……おかしいな。

 俺、前にもこんな風にここを歩いてたのかな。

 ……誰と?

 いや、考えるまでもないか。

 多分あいつと歩いてたんだろう。

 俺の記憶が欠損してるのって、大抵あいつがらみのことだし。


「なあ聞いてくれよ人体くん」

 静寂が少し退屈で、俺は人体くんに話しかけた。

 もちろん声帯を持っていない彼が返事をすることはない。

「さっき気づいたっていうか、前から気づいてたんだけどさ。俺ってば4月のアタマあたりの記憶が超曖昧なんだよ。なんでだろうな」

 もちろん人体くんは答えない。

「まあ、今更なんでって言っても仕方ないんだけどさ。なんか大事なこと忘れてるみたいで胃がむかむかするんだよな」

 いや、胸がもやもやか? まあいい。

「あ」

 そういや、この前ハナコさんが意味深なこと言ってたよな。


『茨乃も引っ掛けてんじゃなかったの、お前。夜に学校で仲良さそーに歩いてたじゃん』


「なんだよ、それじゃん」

 思わず頭をかく。

 あの時もっと詳しく聞いとけばよかった。

 まだ隣町のトイレ巡りから戻ってきてねえのかな、あの2人。

 あ、いや隣町のトイレ巡りってのは俺の勝手な想像だっけ。

 つかトイレ巡りってなんだよトイレ巡りって。

 男女でトイレとか入ったらまずいだろヤバイだろアヤしいだろアホか俺!


「……いかん。最近忙しくて足りてないっつーか有り余ってるっつーか、いろいろ駄目だ……」

 お供が無口な人体くんなせいで青春トークだだ漏れだよちくしょう。誰にも聞かれてないだろうな。これで後で先生に「全部聞こえてたわよ〜」なんて言われた時には爆死できるぞマジで。


 ――ガラッ。


「!?」

 突然の物音に思わず身体が強張る。

 無意識のうちに防衛本能が働いたのか、人体くんが勇ましく俺の前に立ってくれた。

 すると


「〜〜〜〜!?」

 どさっ、と。

 声になっていないか細い悲鳴と、明らかに人が倒れる音がした。


「……え?」


 慌てて人体君をどけて前を見る。

 すると、そこには見知らぬ女子が気絶していた。


「え、うわ、ちょ」

 予想外の出来事に頭が真っ白になる。

「お、おーい!? 大丈夫かー!?」

 声をかけてみても全く起きる気配はない。

 何となく反射的に明かりを探すと、ちょうどいいところに廊下のスイッチがあった。

 基本、訓練中は外から悟られるとマズイということで学校の電気はオフの約束だったのだが、これは非常事態だろう。

 ぱっと明かりがつくと、眩しいくらいに辺りが白く照らされた。


 倒れている女子は……上級生だろうか?

 あまりうちの階じゃ見かけない顔だ。

 というより、

「えらく古風な……」

 まったくスカート丈をいじっていない上におさげスタイルとは珍しい。

 しかも、傍らにはこの人がかけていたのであろう、ものすごい分厚そうなレンズの眼鏡が転がっていた。

 けど地味なイメージで固めに固めている割には、顔立ちはとてもはっきりしている。化粧なんてしたらかなり化けるだろう。

「……?」

 なんかこんな奴をどこかで見たことがあったような……しかも結構最近……

「ってまじまじ見てる場合じゃねえ。とりあえず先生に報告だっ」


 俺は慌てて緊急用にと教えてもらっていた木村先生の番号にコールした。


すみません遅くなりました。

次話こそはもうちょい早く!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ