第34話 今日という日をハッピーエンドに
時刻は午後五時。七月の空は明るく快晴で、とても綺麗な青空が広がっている。俺は今、駅前広場である人と待ち合わせをしている最中だ。
周りには家族連れやカップル、男だけのグループ、女性だけのグループ、あるいは男女複数人のグループと、実に大勢の人が行き交う。まさに老若男女といった感じ。
そして何より特徴的なのは、浴衣姿の人が多いということ。きっと地元の人じゃなくても、その光景を見て今日は何の日か分かることだろう。
万が一にも遅刻するわけにはいかないため、混雑を予想してかなり早めに出発した。確かに混雑はしていたが、電車が混雑してるからって到着時刻は変わらない。
「階堂くん、遅れてごめん!」
「大丈夫。俺が早く着きすぎただけで、余裕で間に合ってるから遅刻じゃないよ」
待ち合わせの相手は朝陽奈さんだ。俺が誘った次の日には一緒に行こうと返事をもらった。
ということは江並からの誘いは断ったということだ。
それはつまり俺を選んでくれたということでもあり、あとは朝陽奈さんにどれだけ楽しんでもらえるかにかかっている。
(全ては俺次第だ……!)
朝陽奈さんは浴衣姿だ。淡い水色を基調として、さらに同じような色で花の柄が描かれている。白い帯と合わさるとなんとも涼しげで、黒い髪と白い肌に本当によく似合っていて可愛い。
髪型も違っており、いつものロングヘアではなく後ろでまとめている。
それによって普段は見えないうなじを見ることができるので、ちょっとした特別感があった。
「浴衣、似合ってる」
「ありがとう……! 階堂くんに喜んでもらえたらいいなって思ってたんだよ」
「うん、めちゃくちゃ嬉しい」
俺がそう伝えると、朝陽奈さんはスッと横に並んだ。肩が触れそうなほどに近い。人は多いけど身動きできない程ではないのに。
真夏の夕方は明るい。メインイベントである花火会場までの道にはたくさんの屋台が並んでいるが、たくさんの人も並んでいる。
「朝陽奈さん、まだ時間あるから何か買おうか」
「うん、そうしようー。何にしようかな? 焼きそばとかどうかな?」
「いいね!」
「あ、でもりんご飴も食べたいな」
「いいね!」
「かき氷も気になるなぁ」
「それもいいね!」
俺がいいねボタンでも代用できそうな返事をしていると、チョコバナナの屋台を見つけた。これならサッと食べられるので、ちょうどいいだろう。
朝陽奈さんに提案すると「美味しそうー!」と乗り気だったため、それに決めた。
だけどすでに行列ができている。花火まではまだ時間があるので、俺達は並ぶことにした。
それはそれとして、返事が「いいね!」だけというのはよくない。よくないぞ……!
なんだか事務的で、それこそ俺である必要はあるのかということになってしまうから。
待っている間の会話はどうしよう? 何の話をするべきか。花火のこと、朝陽奈さんのこと、夏休みのこと。きっとどれを選んでも楽しく話せそうだ。
それは相手が朝陽奈さんだからこそ。俺はそのことに気がついている。だけど彼女はどうだろう? 果たして『俺がいい』って思ってくれているだろうか。
「あのね、階堂くん」
先に言葉を発したのは朝陽奈さんだった。
「私、蓮二からのお誘い断っちゃったの。せっかく誘ってくれたのに……」
「そこは俺のわがままだから気にしないで。二人だけがいいって言ったんだから。だから朝陽奈さんが後ろめたく思うことはないよ」
「もし階堂くんが声をかけてくれてなかったら、蓮二と来てたと思う。でもそれだと私が楽しめなくて、きっと蓮二に嫌な思いをさせていたと思うの」
それはきっと相手の気持ちを考えることができる彼女の優しさだ。
だからこそ今回の決断を下すまでに、相当悩んでくれたんだろうなと思わずにはいられない。
「でも断っちゃったから結局は同じことだよね……」
「そんなことないと俺は思うな。断るほうだってきっとツラいはずなんだ。だってそれはその人を選ばないってことだから」
そしてどちらも少なからず傷付く。でもそれは現実を生きるうえで誰にでも起こり得ること。ゲームのように全てが特定の人にとって都合のいい方向に向かうなんてことはないんだ。
「それに少なくとも、ここに来てくれてすごく嬉しいと思ってる俺がいる。だから、ありがとう」
「階堂くん……! ううん、私のほうこそ誘ってくれてありがとう。すごく嬉しかったよ」
それからチョコバナナを買い、お互いの顔を見ながら食べる。すると二人とも自然と笑顔になっていた。
そして俺は今日という日をハッピーエンドにしようと決めているんだ。




