第31話 堕ちていきませんか……?
早期ハッピーエンド。俺は別に絶対に原作に合わせようと思ってたわけじゃない。
でも卒業までとなれば、まだ一年半もあるためモタモタしてる時間はない。
とはいえ急ぎすぎたあまりいろんな段階をすっ飛ばしてしまうと、江並のようになってしまう。
だからある程度ゆっくりと朝陽奈さんと仲良くなっていこうと考えていた。
しかしその考えは甘いのかもしれない。もしかすると江並以外にも朝陽奈さんを狙う男が現れるかもしれないからだ。
原作では各ヒロインに他の男の影は全くなく、主人公である江並の行動に全て委ねられていた。それはいわばゲームの強制力なるものが働いていたと言える。
だが現実としてそんなことはありえない。朝陽奈さんだって俺と江並以外の男と話すことだってあるだろう。
つまり江並だけを警戒すればいいわけじゃなかったということだ。もっと早く気づけばよかった。
(次のイベントといえば……あれか?)
原作でも一際重要なイベントがある。それは夏祭りだ。やっぱりラブコメやギャルゲーにおいて外せないイベントだろう。
結局のところ朝陽奈さんとデートできたのは一回だけ。ことあるごとに下着がチラ見えして困った、あの一回。
あれからも声をかけてみたけど、予定があるとのことで二回目は実現していない。俺のスケジュールは真っ白だというのに。
毎日というわけじゃないが、それでも時々は一緒に帰ったりしてる。
だからもう告白してもいいんじゃないかって思ってるんだ。
「——さん? 階堂さん、どうしました? なんだかボーっとしてますけど」
そう声をかけられハッとした。俺は今、文月さんと話してるんだ。それなのに他の女の子のことを考えるだなんて、よくないな。
「ごめん、せっかく二人で話してるのに」
「大丈夫ですよ、分かってますから。朝陽奈先輩のあられもない姿を想像していたんですよね?」
「そんな単語が日常会話の中に出てくるのが驚きだな」
「それよりも、分からないのは昨夜のことです。階堂さん全然返信してくれなかったじゃないですか。いったい何してたんですか?」
唐突に聞かれた。てっきりスルーしたものと思ってたが、どうやら逃してくれそうにない。
「今朝も伝えたけど、寝てた。でも送ってくれた内容はちゃんと見たから」
「それなら返信の一つくらいくれてもいいじゃないですかー」
「それは深夜だったし、今日会って直接伝えようと思ったから。電話だったら出てたかも」
「確かにそれも考えました。でもメッセージでやり取りしてる相手からいきなり電話がかかってきたらビックリしますよね。だからそれはやめておこうと思ったんです。そもそも深夜に電話って基本的には迷惑ですよね」
そこはマトモな感性なのに、なぜメッセージの連投ならいいと思ったのか。
「せっかく私が頑張って階堂さんが好きそうな本を選んだのに……。せっかく! 私が! 頑張って! 手が伸びちゃいそうなのを我慢して! 結局それは無理でしたが! 選んだのに!」
「声でかいって!」
「そして結局選んだのは朝陽奈先輩だし……!」
「だから朝陽奈さんじゃなくて、あくまで作品の中の同級生の話だから」
「その作品なら私も試し読みしましたとも。それはそれはもう激エロでしたね……! でも私だってきっと負けてないですよ……? きっと沼らせて差し上げます。フフッ、どうです? 私と一緒に堕ちていきませんか……?」
「いかない」
とりあえずこの場はこれで終わったが、文月さんの様子はまるで初めて会った時のようだった。
そして七月になり、夏祭りが近づいてきている。原作のビッグイベントだ。
今日は朝陽奈さんと一緒に帰ることになっており、靴箱まで二人で行き、それから肩を並べて歩き出した。
やがていつもの別れ道にさしかかると、俺は朝陽奈さんに言う。
「今度の夏祭り、朝陽奈さんと二人で行きたいんだ。どうだろう?」
てっきり朝陽奈さんが喜んでくれるものと思っていたが、なぜか俯いてしまった。
「あのね階堂くん、実は蓮二からも誘われてて……」




