第2話 いったい俺は何を聞かれているんだ
「そうじゃない、そうじゃないでしょ」。思わずそんな言葉が出てきてしまいそうなほどの衝撃。いや、落胆か?
俺自身はR-18ゲームに対しての嫌悪感は持ってない。ストーリーの中にそういうシーンがあっても何も変じゃないはずだ。
なんならこのギャルゲーが本当にR-18になったとしても買ったと思う。
でもこれはダメでしょ。ヒロイン自身をR-18にしてどうすんの。もうこれだけでメインヒロインがおかしな子に様変わりだ。
このゲームの主人公である江並 蓮二の席に座ったまま俺を見上げる朝陽奈さん。そして俺は立ったままその瞳を見る。
お互いが見つめ合う形になっているため、恥ずかしさからつい顔を背けてしまいそうになるが、朝陽奈さんのスカートはめくれたまま。なので絶対に目線を落とすわけにはいかないのだ。
「はじめまして、かな。えーっと、階堂くんだよね?」
「うん。よろしく朝陽奈さん」
クラス全員が自己紹介していたものの、無難なことしか言ってない俺を覚えていてくれただけで、朝陽奈さんへの好感度が爆上がりした。推しヒロインを目の前にすると俺はチョロくなるのだ。ところで……。
(そろそろスカートを元に戻してくれー)
そう指摘するわけにもいかず、俺は自分の席からカバンを掴み足早に立ち去ろうとした。
「あっ、待って階堂くん」
「何?」
「私ね、蓮二とは幼馴染なんだ」
「そうなんだ」
もちろん知っている。江並と朝陽奈さんは幼馴染なので関連イベントの数が他のヒロインよりも多い。幼馴染だからって鉄壁ではなく、むしろエンディングに一番たどり着きやすいルートだ。
ということは、すでに江並は朝陽奈さんルートに向かっている可能性が高いと考えられる。もしかするともう恋人同士なのかも?
原作ゲームだと告白は卒業間近というタイミングだが、もしこれがR-18バージョンだとしたら一年生で恋人同士になって、高校生のうちにそういうことになるという追加シナリオだってあるかもしれない。
俺が相槌を打つと朝陽奈さんが立ち上がり、ようやくスカートの乱れを直した後で俺に向けて口を開く。
「階堂くん、時間あるかな? せっかくだからちょっとお話しない?」
「うん、分かった」
ここで断るのも申し訳ないので、クラスメイトとしてのコミュニケーションの一環として同意することに。
推しと直接話せるなんてまるで夢のようだ。彼女の雰囲気や言葉づかいは原作ゲームの時のままだが、やはりただ一つ、さっきのことが気になる。かといって「何をしてたの?」なんて聞けるわけないし。
俺は自分の席に座り、朝陽奈さんは江並のイスを俺のほうへ向けて対面する形になった。
「階堂くん、蓮二って気さくだよね」
「そうだね。とりあえず席が前後ってことで話しかけてくれたんだと思うけど、話しやすかったなと思うよ」
「やっぱりそういう印象だよね。蓮二は子供の頃からそうなんだよ。男女問わず、ね」
「俺からしてみれば凄いと思うけどね」
「うん、私もそう思う。だからこそ心配になるの」
「心配?」
「そのうち疎遠になったりしちゃうのかなって。いつか彼女ができたりしてね」
「俺には幼馴染がいないけど、やっぱり過ごした時間が長いから特別なんじゃないかな」
話の内容から考える限り、さすがにまだエンディングまでは遠いようだ。
「あ……、ごめんね。階堂くんを引きとめておきながら他の人の話をしてしまって」
「いや、気にしなくていいよ。それよりもどうして俺にその話をしようと思ったの?」
「えっと、階堂くんに聞きたいことがあって。やっぱり男の子も好きな子のことで頭の中がいっぱいになることがあったりするのかな?」
凄いことを聞いてくるなと思いつつも、朝陽奈さんの表情は真剣なものだった。だから俺も正直に答えよう。
「そうだね、少なくとも俺はあるかな」
「そうなんだ。……それならその子のことを考えながら一人ですることって、ある?」
「え……?」
さすがにこれは答えに困る。することって、さっき朝陽奈さんがしようとしてたこと……でいいよな?
原作だと朝陽奈さんは素直な子だったが、R-18でも根本的な性格は変わってない印象だ。
だからおそらく性に対しても真面目に考えてるということなのだろう。よかった、なんだか安心した。だったら俺も真剣に答えないとダメだ。
「好きな子を思ってというのは無いけど、俺だっていろいろ想像したことはあるよ」
「そうなんだね。私はね、いつも好きな人のことで頭がいっぱいなの」
(ん……?)
「もちろん家にいる時でも。そして気がついたらつい手が伸びてた……なんてこともあったりしてね」
(んん……?)
「だからね、階堂くん。どうすれば男の子が喜んでくれるか教えてくれないかな?」
いったい俺は何をお願いされているのだろう。どうすれば喜ぶかって、まさかそっち方面のことじゃないとは思うが、ここはR-18の世界だ、油断はできない。
(まずはヒロイン達の癖を知ることから始めよう)
なんだかそんなことを思い浮かべた。




