第19話 NTRを聞かれても困る
「どこが普通の質問なんだ」
「えぇー、そうですか? 好きか嫌いかという、とってもシンプルなことですよ?」
「そうじゃなくて内容だよ。いきなり何を聞いてんだってこと。しかも男に」
「だってこんなこと相談できるの階堂さんしかいないんですよ。前にも言いましたよね?」
「もう自分で『こんなこと』って言っちゃってるじゃないか」
「もう、ホントに細かいですねぇー」
「俺以外には男友達いないの?」
「いませんね。だから私の秘密を知ってるのは階堂さんだけなんですよ?」
「それは光栄だけど俺には心当たりが無い」
「またまたぁ。私の本の中身を見たじゃないですか。もういい加減に認めちゃいましょうよ、きっと楽になれますよ……?」
まぁここまで来たら別にいつまでも隠すようなことでもないし、いいか。
「実は少しだけ見た。嘘をついてたのはごめん。他人に知られたくないだろうなと思ったから」
「ようやく堕ちましたね! 私の思い通りになるってやっぱり昂りますねぇ……!」
文月さんはニヤリと不敵に笑う。
「いやいや、堕ちてはないから。それで聞きたいのは寝取られが好きかってことだったな。なんでまたそんなことを?」
「今読んでる本にそういう描写があるからですよ。なんとなくは分かりますけど、男の人の意見を聞きたいなって」
「質問で返して悪いけど文月さんはどう考えてる?」
「うーん、略奪でしょうか。でもそれの何がいいのか分かりません」
「俺も別に好きというわけじゃないんだよ。でも嫌悪感があるわけでもない」
「そうなんですか?」
「俺の場合は『うわー、大変そうだなー』って他人事のように見てる。傍観者として純粋に物語を楽しんでるって感じ。こう言っちゃなんだけど物語なんだからそれでいいじゃんと思ってる」
「でもそれが人気ジャンルなんですよね?」
「人気かどうかは分からないけど、それこそ個人の好みってとこじゃないかな。ざまぁ展開とセットになってたりもするし。でも嫌いな人もいるだろうな」
「さすがですね階堂さん」
「絶妙に嬉しくないなぁ」
「それならもう一つ質問していいですか?」
「まともなやつで頼む」
「BSSってなんですか?」
「また変なことを……」
「いいじゃないですかぁー。頼りにしてるんですから」
「……仕方ないな。でも俺だって詳しいわけじゃないからそれでもいい?」
「もちろんです。階堂さんの口から聞くというのがいいんじゃないですか……!」
文月さんが今求めてる答えってのは、ラノベとかにおけるBSSのことだろう。もし違ってたら超絶に恥ずかしい。また「は?」って言われそうだ。
「BSSってのは『僕が先に好きだったのに』の略で、前から好きだった相手に何もアプローチをせずにいたら、相手に恋人ができたと知ってそこで初めて焦ったり後悔したりすること。で基本的には合ってるはず。そしてそれも嫌う人がいると思う。一応言うと俺は好きでも嫌いでもない」
「なるほど、そして恋に敗れたキャラクターの様子を見て嘲笑って楽しむんですね」
「それはさすがにそのキャラクターがかわいそうすぎる。応援してあげようよ」
「えー、だって何もアプローチしなかったわけですよね? それで後から文句を言ってももう遅いですよ」
(もう遅いって、なんだかそのキャラがざまぁされたみたいだな……)
そう感じながらも俺にとっても他人事じゃないなと思った。
俺もそろそろ朝陽奈さんに対して、もう少し踏み込んだアプローチをしてもいいんじゃないだろうか。
NTRはまぁ別としても、BSSは現実に起こりうることかもしれない。朝陽奈さんの気持ちが今の時点で俺に向いている保証なんてどこにも無いのだから。
昼休みが終わるまでまだ時間はある。おそらく文月さんはギリギリまで居るだろう。だからもう少しこの話に付き合うとするか。
そう決めたがふと教室の入り口を見ると、朝陽奈さんが一人で戻って来ていた。そして目が合ったかと思うとこっちに向かって来る。
どうやらつい手が伸びちゃうという同じ癖をもつ女の子同士の初顔合わせになりそうだ。




