第18話 安心してください、普通の質問ですから
もしかすると俺は邪な考えをしているのかもしれない。朝陽奈さんが部屋の中で一人、手を伸ばしてるんじゃないかと想像してしまった。
でも朝陽奈さんは無条件でそうするわけじゃない。『好きな人のことを思うと』という条件がある。
そういえば、「いつも好きな人のことで頭がいっぱい」だとも言ってたっけ。
だから俺はそんな朝陽奈さんの癖を、エロいものじゃなく好きな人への純粋な想いとしてとらえている。
江並の家でテスト勉強をした週明けの月曜日。いつもはただ靴を履き替えて足早に立ち去るだけの靴箱だが、今日は少しばかり違っていた。偶然にも朝陽奈さんとばったり会ったんだ。
「朝陽奈さん、おはよう」
「えっ……! えっと、階堂くん!?」
朝陽奈さんから見える位置であいさつをしただけなのに、なぜか驚いた様子だ。
「ごめん、驚かせたみたいで」
「ううん、違うよ! 私がちょっと気を抜いてただけだから」
なんだか慌てた様子の朝陽奈さんは、足の付け根辺りで右手でスカートつかみ、さらにその右手首を左手でつかんでいる。
まるで右手が動くことのないように押さえ込もうとしているかのようだ。
強めにつかんでいるからなのか、夏らしい青いチェックのひざ丈プリーツスカートが少しめくられており、右のひざだけが完全に露出している。
「朝陽奈さんどうしたの?」
「えっ!? な、なんでもないよー。ここは学校だなーって思って。さあ一緒に教室行こっか」
朝陽奈さんはそう言うと手足を真っ直ぐ伸ばして、まるで行進かのごとく大げさに歩いて行く。しかも「プスー」と鳴らない口笛を吹きながら。
教室に着くとすでに江並が自分の席に座っていた。別に険悪になったわけじゃないから普通にあいさつをしようか。
「おはよう江並」
「おう」
男同士のあいさつなんてまぁこんなもんだ。これがいたって普通。
俺が席に座ると江並がこっちを振り向いて話しかけてきた。
「あのあと陽香とはどこまで行ったんだ?」
どこまでいったなんて聞かれると、まるで恋人としての進展具合のようにも思えるが、そんなわけない。
「朝陽奈さんの家まで送った。そうしてほしいって頼まれたから」
「そうか。なんか最近お前ら二人仲いいよな」
「朝陽奈さんがいろいろと話しかけてきてくれるからだよ。俺は前に出るタイプじゃないから。だから二年になった初日に江並が話しかけてくれたのだって感謝してるんだ。俺みたいな奴からすると助かってるんだよ。まぁ自分から話しかけろって話ではあるんだが」
「お前がたまたま後ろの席だったからって理由でもか?」
「ああ、それでもだ。そして今もこうして話してくれてるじゃないか」
「まあな。陽香がお前を気に入ってるみたいだからな」
それだとまるで朝陽奈さんのついでで仕方なく俺とも話してるだけのように聞こえてしまうが、いくらなんでも気にしすぎか?
「気に入ってくれてるといいんだけどな」
「どうだろうな。陽香はあれで結構飽きっぽいところがあるからな。一度興味を持ってもそれが長続きしない」
まただ。どうして朝陽奈さんのことを悪く言うのか。俺が朝陽奈さんに悪い印象を抱くように仕向けてるようにも思えるな。
だがそれは俺が決めることだ。何を言われようとも俺はしっかりと朝陽奈さんという一人の女の子を見ていこう。
そして昼休みになり、俺はいつものように自分の机の上にコンビニで買ったパンを並べた。
クラスメイトの多くは学食に行く。江並と朝陽奈さんもそれに含まれる。
一応俺にも江並以外に話すクラスメイトがいるが、昼食をともにするほどではない。やはり俺は基本的には一人が落ち着くんだろうな。
食べ終えた頃、教室の入り口から俺のところまで無駄のない動きで近づいてくる女子生徒が視界に入った。
そして、さも当たり前のように江並の席のイスをくるっと回して、俺と対面した。
「階堂さん、もしかしてお一人でぼっち飯ですか?」
「お一人とぼっちは意味かぶってるぞ」
「まったく、細かいですねぇー。私が一緒に屋上で食べてあげましょうかー?」
文月さんはまるでヤレヤレとでも言いたげで少し呆れ気味だ。
「それで俺に何の用?」
「実は階堂さんに質問がありまして」
「まさか変なことじゃないだろうな?」
「安心してください、普通の質問ですから。では言いますね。階堂さん、寝取られはお好きですか?」
「それを普通の質問とは言わねえよ……」




