第14話 もちろんナシですよ、そんなの
「アプローチかけられてるって凄いじゃないか」
「そうですね、確かに男の人の気持ちが私に向いていると思うとゾクゾクします。もっと沼にはまらせてみたくなりますよねぇ……!」
文月さんはそう言って不敵な笑みを浮かべる。
「ただですね、気になることがあるんですよ」
「どんなこと?」
「その人、私の胸ばかり見てくるんですよね」
確かに女性って男からのそういう視線が分かるっていうからなぁ。
だから今俺は目線が下を向かないように、文月さんの目をジッと見て話してるわけで。
「それで今この人は私の胸に釘付けなんだと思うと、つい反応しそうになるじゃないですか」
「反応とは?」
「階堂さん、それを私の口から言わせるつもりですか? なかなかいい趣味をしてますよねぇ……? まぁさすがに着けてる限りそう簡単に気づかれないとは思いますが、私にも羞恥心というものはありますから」
さっきからこの子は俺に想像しろとでも言いたいのだろうか? そもそも羞恥心があればこんなとこで俺とこんな話はしてないと思うんだけど。
「そういえば階堂さん、さっきから私の目をジッと見て話してくれてますよね。一度も私の胸に目線を落としていないように思えます」
だってそれはそうなるように意識してるから。そりゃあ俺だってその制服の向こう側を見てみたいって気持ちはある。
だがそこまで。本当に見ようとするのなら文月さんと恋人同士になる必要があるわけで、だからってそんな理由だけで付き合おうとするのは江並とあまり変わらないんじゃないか?
「まったく、仕方ないですねぇ。さっき選んでくれた小説のイラストに描いてあるギャルみたいに、よく見えるように制服を着崩してみましょうか? それとも谷間をご所望ですか?」
「そう言って俺の動揺を誘ったんだろうが、その手には乗らないからな。それに本気でしようとしてるわけじゃないだろ?」
「いい……! いい反応ですよ、階堂さん……! でもそれだと私の胸に魅力が無いみたいに思えるので、なんだか意地でもガン見させてみたくなりましたねぇ。これでも一応自信がある部位なんですよ」
「魅力が無いなんてことはないだろう。胸のこともそうだけど、こうやって教室でするにはヤバい話を堂々とできることだって魅力の一つだと思うけどな。つまり正直な話をしてくれるから話しやすいってことだ」
俺がそう言うとまたもや文月さんの口角が上がり、少しだけ微笑んだように見えた。
「それでそのアプローチしてきてる男子、文月さん的にどう思ってる?」
「もちろんナシですよ、そんなの。きっと私じゃなくて私の胸が気になるのでしょう。それにどうやら相手は私が控えめな性格だと思ってるようなので、その夢を壊さないようになるべくそのような振る舞いをするよう意識しました」
(それが優しさなのかどうかは微妙だなぁ)
でもこの感じなら江並と文月さんの間に間違いは起こらないだろう。
それからも高校生活は続き、原作にもあったイベントが近づいてきている。
テストを前にして一緒にテスト勉強をするという、よくあるシーンだ。
場所やメンバーにもよるが、意外と仲が進展したりして外せないイベントなんじゃないかな。学生ならではのイベントだし、ラブコメ作品に出てくるとワクワクする。
原作では江並がヒロインを誘うことにより実現するが、どうやら素のあいつはアクティブみたいなので、おそらく同じことをしてるんじゃないかと予想している。
果たしてあいつは誰を誘っているのか。むしろ俺が先に江並に声をかけてみるか?
そんなことを考えている放課後。朝陽奈さんがこっちに来ている。何か話したいことがあるのだろう。
そして彼女が座ってる俺の前に立つと、口を開いた。
「階堂くん、どうしようー。蓮二からまた誘われちゃった。一緒にテスト勉強しようって」
あいつ、朝陽奈さんに声をかけてたか。
「でもやっぱりちょっと不安だから、階堂くんも一緒に来てくれないかな?」
気になってはいたんだ。江並と朝陽奈さん、二人の空気感や距離感が。
そこへ俺が加わると、いったいあいつはどんな反応をするのか。
「いいよ。俺でよければいつでも」




