第12話 なぜ伸びちゃうのか
「全クラス順番にって、それだとここが一番最後ってことになるけど」
「そうですね、それはもう大変でしたよ。教室の外から無言で中を見回していたらただの不審者ですから。だからその辺にいる人に聞きましたとも」
実はこれは原作にもあるシーンだ。昼休みに文月さんが主人公である江並の教室をたずねて来るけど、控えめで真面目な彼女は上級生の教室に入る勇気がなかなか出ない。
そんな中、彼女が心の中で迷う様子がモノローグとして描かれる。それがまた可愛くてプレイヤーの心を揺さぶってくる。
それで彼女の目的っていうのが、おすすめの小説を主人公に貸すためだ。それまでの雑談の中でそういう流れになり、勇気を出して昼休みに来てくれたってわけだ。
でも全クラス回ったとか、「どうして俺のクラスが分かったの?」と聞いて返って来た返事が「は?」とか、もはや別イベントだろ、こんなの。
「そうか、わざわざありがとう。それで俺に何の用事?」
「こんなこと相談できるのは階堂さんしかいないんです」
「俺しかって、初めて会った日からまだ全然経ってないし、そこまで話もしてないと思うんだけど」
「それはですね、私が今も普通の学校生活をおくれているからです」
「ごめん、意味が分からない」
「ほら、私が落とした本を拾ってくれましたよね。つまりですね、私が学校であんな本を読んでるなんて周りにバレたら変な目で見られるじゃないですか。でもそうなってないということは、階堂さんが誰にも話してないからですよね?」
「俺、あの時『見てない』って答えたはず」
(それは嘘で本当は見たんだけど……。そこはまぁ嘘も方便だ)
「それならそれでもいいんですよ。認めさせる楽しさというのもあるでしょうから」
……その発言はスルーで。
「役に立てるか分からないけど、とりあえず話を聞かせてもらおうか。前の席に座って」
そう言うと文月さんは素直に従い、江並の席のイスをくるっと俺の方に向けて座り、机を挟んで対面する形になった。
「それでどんな相談?」
「ちょっとこれ見てもらえますか?」
文月さんがそう言って見せてきたのはスマホの画面。どうやら本の販売画面のようだ。
いろんなイラストの表紙が一覧で表示されており、女の子が表紙を飾っているものがほとんど。
「これはラノベの販売画面?」
「正解だけど不正解ですね。もっとよく見てみてください」
そう促されよく見て分かった。……はい、エロいやつでした。しかも男向け。
「ここ学校だぞ」
「いいじゃないですかー。ね、階堂さんはどれが気になりますか?」
「知らん」
「またまたぁ。恥ずかしがることなんてないですよ。私たちは高校生ですよ? ちょうどいいお年頃じゃないですか。むしろ健全だと思います」
「自分が気になるものを買えばいいじゃないか。というか年齢的に買えなくない?」
「お姉ちゃんに買ってもらうので問題ありません」
なんだその裏設定……。原作にもない情報をぶっ込んでくるんじゃない。
「なんで男向け? 女性向けのもあるんじゃないの?」
「それだと勉強にならないからですよ。だって男の人が好きなものを知らないと。何をしてもらうと嬉しいのか、どんな癖があるのか、どう攻めるべきか。興味はつきませんね」
「俺にしか相談できないことって、これ?」
「そうですよ?」
「なんで?」
「知ってるでしょ?」
「それを知ってどうするつもり?」
「そんなの決まってるじゃないですか。一人でするためですよ」
「え……?」
「だって想像するだけでゾクゾクしませんか!? 私の思い通りに男の人が喜ぶんですよ? 私の思い通りに……! まるで支配してるみたいじゃないですか。それを想像するとつい手が伸びちゃうってものですよ……!」
(この子もかぁ……)




