第11話 はいてる
「朝陽奈さん、それは江並の家に行かなくて正解だったと思うよ」
「だよね? うん、階堂くんがそう言うなら安心かな」
「俺、いつの間に朝陽奈さんの信頼を得たんだろう?」
「うーん、一緒に下着を選んでくれたから?」
「いやいや、俺に聞かれても。それに念のため言っておくと俺は別に自分から言ったわけじゃないからね」
「あ、ちなみに今、はいてるのはあの時選んでくれたものだよ」
「そ、そう……」
どうしてこの子はサラッとそういうことを教えてくるのか。しかも『はいてる』って。その言い方だと下のほうのイメージが強くなる。『着けてる』でいいのでは?
そういう微妙に遠回しな言い方のほうが想像をかき立てられて、逆にいやらしく感じてしまうことを分かってなさそうだ。
例えば今ここで朝陽奈さんがスカートを全めくりしたとする。でも俺はきっと全力ですぐにやめさせようとするだろう。完全にバッチリ見えてるはずなのに。
そんな状況でじっくりと眺められるほど俺の神経は図太くないのだ。
そんなことを考えてる途中で、俺はハッとして教室の中を見回した。こんな会話、他の人には聞かせられない。
だがどうやらいつの間にか二人きりになっていたようだ。
(よし……、せっかくの機会だから)
今なら自然に言えるだろうか? 「一緒に帰らない?」と。
今の状況なら下駄箱まで一緒に行くのは自然なことだろう。ただその先となると、難易度が跳ね上がる。
帰る方向が同じだということは、これまでの日々の中で話題になったからお互い知っている。
ただ前世でギャルゲーについてなんとなくネットを見ていたら、下校イベントについて何とも恐ろしいセリフがあることを知った。
確か『一緒に帰って噂とかされると恥ずかしい』みたいなセリフだったような気がする。
好感度バッチリだと思い満を持して誘ったのに、そんなことを言われたら「何故だ!」となるのは必至。
ゲームですら想像するだけでショックなのに、もし実際にそんなことを言われたら三日は学校に行けない。
でもここで諦めてしまっては前世の二の舞だ。せっかくやり直すチャンスなんだから、同じ後悔ならやるだけやって後悔したほうがスッキリする。
「朝陽奈さん、一緒に帰らない?」
「うん、いいよー」
まったく。俺はいったい何を迷っていたのだろう。ほんの一言を伝えるだけなのに。
それから一緒に下駄箱まで行き、二人ともが靴を履こうとする。
俺のほうはすぐに履くことができたが、朝陽奈さんは少しもたついているようだ。だから待つ。でもそんな時間も全く苦にならない。
少しフラつきながらも「階堂くん、ごめんね」と口に出し、慌てた様子ではにかむ朝陽奈さん。
そんな彼女を見ていると、不意に胸が高鳴った。
もしかすると彼女はゲームの中の存在に過ぎないのかもしれない。
でも俺が今見ている彼女は間違いなく意思を持っており、そこには確かに『生きている』一人の女の子がいる。
だからゲームのように単純に、最良の選択肢を選ぶだけでハッピーエンドを迎えるなんてことはありえない。
相手のことを心から想い、好きになってもらえるようにできることはして、自分の気持ちをハッキリと伝える。
もう前世のようなことにはしない。きっと今度こそは。
それからこの日は途中まで朝陽奈さんと一緒に帰った。本当になんでもないような話をしながら。
これからはそんな時間が少しでも長くなるように、少しずつでも前に進んでいこう。
そして翌日の昼休み。俺は基本的にはコンビニで買ったパンや弁当を教室で食べて過ごしている。クラスメイトの多くは学食で過ごすため、今残ってる人数は少ない。
俺がちょうど食事を終えた頃にふと入り口を見ると、一人の女子生徒がなんだかこっちに来ているのが分かった。
(え……? 文月さん……?)
銀髪のショートボブで童顔の美少女。原作では文学少女で控えめな性格。……のはずなんだが。
「階堂さん、見つけましたよ」
マジで俺に会いに来てた。
「俺がこのクラスだって文月さんに教えてないはずなんだけど。なんで分かったの?」
「は? そんなの全クラス順番に回ったからに決まってるじゃないですか」




