05話 黒幕と暗躍
モチモチが誰かと魔器を通して誰かと話していた。
相手は野太い声で、名前はシヴァク・ゾイと言っている。
「——ですからシヴァク様、これは何かの手違いでございます!」
「それは手違いのせいで、失敗したという言い訳か?」
「そっ…それは……」
モチモチは何も言えなかった。それは紛れも無い事実だったから。
見下すかのように大声で笑う。
——が、その笑いはピタリと止まった。
「聞くに堪えんな」
「おお待ちください!どうか、もう一度チャンスを!」
間髪入れずにそう言ったモチモチの額は汗ばんでいた。
「チャンスが欲しいか。よかろう、これで最後だと思え」
モチモチは挽回する許しを得ることができた。
「ありがとうございます、それでは早速、次の手を打ってまいります」
「わかった、報告を忘れるなよ」
モチモチはすぐさま、通信を切った。
「誰が好き好んで、あやつのいうことを聞かねばならんのだ!!——」
モチモチはあの男の愚痴をドチャクソ言った。
——話は少し前に戻る。
俺は冒険者になることになった。
冒険者っていえばやっぱり、冒険者ギルドだよな。
冒険者ギルドまでの道のりの間、サフィルに冒険者とは何か、説明を聞いた。
冒険者は、四柱とは別にあるダンジョンで探索したり、ギルドに掲示される依頼を受けたりすることが基本の仕事となっている。
まず、冒険者になるには二つの方法がある。
一つ目は、冒険者ギルドで能力が鑑定され、Eランクから冒険者をする。
二つ目は、冒険者ギルドの教官と闘い、どのランクで始めるか、変わる。
ランクはD〜Aランクまでとされており、さらにそのうえ、Sランクが存在する。
Sランクは、基本一国に一人と定められており、その強さは勇者にも匹敵すると言われている。
Sランクかー、よく見るけどなんかかっこいいな。俺もなってみたいもんだ。
なんだかんだ歩いていると、俺たちは冒険者ギルドに到着。
早速ギルドの中に入ると、中央には受付の窓口、左奥に見えるのは、依頼が貼られている掲示板が見えた。
「ほら渉、さっさと登録してこい!」
「わかったよ」
立ち止まってた俺はサフィルに思い切り背中を叩かれ、受付の方へせっせと歩いて行く。
痛って〜結構強くない?絶対赤くなってる。て言うか初めて女子に背中叩かれた。
初めてがこんなに痛いなんて思ってなかった……深い意味はない。
少しだけ涙目になった俺は受付に辿り着き、受付嬢に言った。
「あのー冒険者登録ってここでできますよね?」
「冒険者登録ですね。では基本か飛び級と選べるのですが、どうなさいますか?」
「飛び級って、教官と戦うやつのことですか?」
「そうですよ!」
よく知ってるねと言わんばかりと顔を向けられた俺は基本を選ぶことにした。
「なら、基本でお願いします」
つい昨日まで武術を少しもかじったことのない一般的な高校生として生きてたのに、すぐさま魔法はともかく、剣とか体術とかできるわけない。
などと考えていると、受付嬢さんは一瞬がっかりしたような顔をしていたのは気のせいだろうか。
「……鑑定具を持ってくるので、少々お待ちくださいね」
それにしても綺麗な受付嬢だった。年齢イコール彼女なしの俺は少し動揺していた。
スラッとしたストレートの銀髪、鋭くもそれでいて大きな瞳、スタイルは言わずもがなボンキュボン……
さっきからどうしても視界の端でチラつく。
俺は煩悩に屈しはしないと心に誓うと、奥の方から鑑定具を持った受付嬢が来た。
「それではこれに手を乗せてくだいさい」
「はい」
言われるがまま俺は鑑定具に手を乗せると、ホログラムのようなものが手の上に映し出された。
名前:一条 渉
レベル:
種族:
職業:
スキル:魔素吸収
あれ?俺のステータスって名前だけじゃなかったか?
そうして自分のステータスをじっくり見ていると、受付嬢さんの顔が凍りついたように固まっていた。
「これってどうなるんですか?」
俺は自分のステータス画面がおかしいのはわかってる。
だからこそ、とっさにそう聞くしかなかった。
「レベル・種族・職業が空欄……もしかしてあなた様って魔人ですか?」
「魔人?なんですかそれ」
「違うならいいんです。えーっと、冒険者登録なら心配ありませんよ。スキルがあるので問題ありません!」
「よかった……」
魔人……この世界で初めて聞いたな。魔人ならステータスの種族に表示されるものじゃないのか?
俺はとりあえず後でサフィルにでも聞いてみることにした。
「それでは、手続きが終わりましたので、こちらがギルドカードになります。紛失なされた場合は再発行の際、金がいるので気をつけてくださいね」
「ちなみにどれくらいかかるんですか?」
「銀貨11枚です」
11か、11なんだな。確か銀貨1枚で日本円に換算すると、一万円だから11万円ってことか。彼女のその言葉を聞いた俺は、今後無くしはしまいと心に誓った。
「では、はじめのクエストは何になさいますか?こちらなんておすすめですよ」
おすすめと言って見せてくれたその紙には、スライムと名前が書かれてあった。
「これ意外に強かったり?」
「そんなことありませんよ!サフィル様ご一緒に行かれるんですよね?でしたら問題ないかと」
紙に描いてあったスライム、ドロドロすぎない?俺の思ってたスライムと違う。あと、サフィルがいるから大丈夫と言ってたけど、俺一人だと危ないかもと言っているようなものだ。
しかし、そんなことを考える暇すらないまま、俺は訛った口調で返事をした。
「さいですか……」
「はい、では受注しますね!」
受付嬢の口の広角が少し上がったのか、表情がさきほどにくらべ明るくなっている。
「受注が完了したので、今回は討伐の証を持って来てもらえれば、クエスト達成となります」
「うん」
「期限が二日以内のクエストなので、しっかりと守ってくださいね」
「そりゃあもちろんですよ、それに丁寧に教えてくれて助かりました」
「それが当然の勤めですので。一条渉様の冒険者登録を務めました、シルべと申します。今後のご活躍期待してます」
長いとも短いともいえない時間を過ごし、最後の最後で受付嬢の名前を知ることができた。しかし、受付嬢の胸ポケットに挟んであるプレートにその名前があった。
決して胸ばかり見てたからとかで、気づかなかったわけじゃない。ほんとだよ?
俺はそう思いながらも、胸に視線が吸い寄せられていた。
「シルベさん、これからもよろしく」
そう言った俺は、シルべから受け取ったクエストの紙とギルドカードを持って、冒険者ギルド内にある酒場にいるサフィルを見つけ、冒険者ギルドを出た。
「サフィル、これからなにする?」
「渉って何かと戦ったことある?」
「何って、魔獣とか?そりゃないね」
もちろんない。
あるとすれば中三の夏休みのある日、俺はコンビニ帰りに二人のチンピラにからまれてる女子高生らしき人を見かけ、漫画で見るシチュエーションだからか、チンピラに
「あの、その子困ってるじゃないですか?」
とつい声をかけてしまったことくらいだ。
その後のオチは言うまでもなく、腹にワンパンKO。
そしてチンピラたちはその場を去っていった。
助けた?女子からは『調子のんな』の一言。
昔の厨二心が前に出過ぎただけで、普段の俺はやらない。でももうちょっとオブラートに言って欲しかった。
俺は過去のことを振り返り、心の傷を掘り返して、少し涙目になった。
「なくてもいいよ。私が戦い方と魔法を教えてあげるから」
「それは頼もしいね」
そう言ってくれたサフィルはとても強いのだろう。
シルベさんもサフィルのことを信頼しているみたいだし。
情けない声で返事をした俺は、ちゃくちゃくと城壁に向かっているサフィルの隣をていく。
なんだかんだで城壁を出て、少し歩いた先にある草原にスライムがいるらしいので、そのついでに訓練することになった。
「じゃあまず、魔力を感じて」
「感じてって言われてもな」
「なら後ろ向いて目を瞑って」
「う、うん」
言われるがまま、俺はサフィルに背を向けると、サフィルは俺の肩に両手を置いた。
「あとなにすれば——」
「しーー」
小学校で散々場を静かにしようとする時に聞く言葉を、俺の両に手を置くサフィルが言った。
集中しろということなのか。
そして、少しすると肩から何やら暖かいものを感じた。
これが魔力——?
すると、サフィルの手が俺の肩から離れた。
「うん。上出来ね」
「今感じたやつが魔力なの?」
「うん、それがあなたに流れてる魔力」
魔力というのはこの異世界で生きる者すべてに流れる物で、血管には血が通っているが、また別の管が存在し、そこに魔力が通っている。
「ていうか今まで黙ってたんだけど、渉って異世界から来たんでしょ?」
突然、思っていた斜め上の質問に俺はどう答えたらいいか迷った。
サフィルが城外でこの話を切り出したということは、いつでも殺せるようにとここに誘い込んだのか。または本当にただ知りたいだけなのか。
今日会ったばかりの人を信じていいのだろうか。そんな考えも浮かんだが、味方と思う方が都合が良かったし、今までサフィルにはお世話になりっぱなしなのもあり、素直に認めることにした。
「……そうだね」
俺がそう答えると、少しの沈黙のあとサフィルが喋った。
「やっぱり!だってこの年で魔力感知できない人いないし、そもそも城から出てきた時点で気づくよ」
「そうだったんだ……」
思いの外あっさりと過ぎ、それから魔法について教えてもらった。
俺が最初に教わる魔法になったのは、土の初級魔法『ロックバレット』だった。
「それじゃあ渉、さっき感じた魔力を片手に集めてみて」
「———」
俺は右手に力をこめてみると、次第に暖かく感じてきた。
『魔力循環が発動しました』
魔力循環?って最初にもらったステータス画面にあった気がするけど、この世界でも使えたのか。ていうか神の声的なものがあるのか……さすが異世界ファンタジー。
「すごいよ渉!初めて早々できるものじゃないのに」
「よっしゃ……ていうかここから魔法使うにはどうすんの?」
「もうあとは楽勝よ。イメージして、魔法名を唱えるだけ」
詠唱とかはないらしい。けどイメージか。石をイメージしたらいいのだろうか。
目を瞑って、俺の思う石を想像して俺は魔法名を言った。
「ロックバレット!!」
俺の手から石が現れ、手の向きが自分の顔正面に向かっていた。
「よし成功だ!!」
「危ない——」
次の瞬間、石は俺の顔めがけて飛んでくると、避けきれずにおでこに当たった。
「痛ってー」
俺はおでこを押さえて、下を向いて屈んだ。
「ちょっと大丈夫?今治癒魔法使うから」
駆け寄って来たサフィルは手を俺のおでこに向けた。
痛みが消えた?ていうか何も言わずに、無詠唱魔法か?!さすが異世界。
「どう?」
「すごい、一瞬で傷が治ってる」
「すごいでしょ」
サフィルはドヤ顔でえっへんと言わんばかりの態度でいた。
「すごいです」
俺は素直に褒めると、サフィルは言った。
「でしょでしょ。ていうか、さっき打つつもりで発動したから自分の魔法でも当たるんだよ」
「最初に言ってくれよ」
「それはそうだね」
あっさりとサフィルは答えたことに俺は目を見開いた。
事実、俺が自分の顔面目掛けて魔法を打つとは誰が思うだろうか。
そんな未来を予測できるわけない。だからこそ、サフィルは悪くないし、傷も治してくれた。
「そうは言っても過ぎた話だし、俺も自分の顔面目掛けて打ったのが悪いわけだから……」
「うんうん……君が悪い。だって自分の顔面目掛けて打つなんて思うわけないじゃん。でもさ、君が『ロックバレット』を使えるようになったことを喜ばなきゃね」
サフィルは場の空気を変えようと、俺が曲がりなりにも『ロックバレット』を使えたことを話した。
「これってもう魔物に通用するのか?」
「スライムの弱点は土魔法よ」
「スライム単体かよ」
スライムには強いという意味だろう。もっと強い魔法を使うとなると相当訓練しないとダメだろうな。
その場しのぎの技でも使えるもんは使っていこうと決めた。
「さて、渉も魔法が使えるようになったことだしさっさと依頼を片しちゃおー」
なんだかんだで俺はサフィルに乗せられすこし歩くと、バスケットボールくらいの大きさのスライムに遭遇した。
スライムってもしかしたら強いのでは?と俺は考えた。最初に覚えた初級魔法を使ったがスライムに避けられ、体当たりをくらった。くらった箇所の服が溶け、あのチンピラのワンパンを喰らった痛み。
とっさに俺は体をそらしたが、間に合わず、右腕に攻撃をくらった。
「ちょ、俺の服!」
「よそ見しない!」
サフィルは俺から数歩先のところに立ち、アドバイスしてくれているが、何かあれば助けてくれるだろうか。
痛みを我慢し俺の目線は再びスライムに戻る。
俺はスライムに手を向けて初級魔法を打った。
「今度こそ!」
スライムは俺の方に向かって体当たりをするつもりだったが、それより先に魔法がスライムの急所である核にあたり、ドロドロの液状になった。
これでどうすればいいかとサフィルに尋ねると、俺はビンを渡された。
「はいこれ」
「ガラスビン?」
多分これ、回収しろってことだよな……ローションみたい。流石に素手じゃないよな?
「素手なの?」
「もちろん。ていうか早く採らないと手ですくえなくなっちゃう」
時間制限あるのかよ。と俺は目を見開くが、とっととやることにした。
花畑にいる時のフローラルな香りに似ていた。
唯一の救いは匂いだ。こんなドロドロした物で、さらに臭いとか触りたくない。ていうか何に使うんだよ……
ビンに蓋をし、そのドロドロの物をしまい終わる。
「よっし、おわったー!」
「おつかれさま」
「これどう?」
俺はそう言ってスライム入りビンを渡した。
「まぁまぁかな」
サフィルはそう言うが、俺は不服だった。
まだ、スライムをビンに入れるのはよかった。
スライムとの戦闘で服がやぶれた。ていうか肌けた。ダメージジーンズならぬ、ダメージシャツはさすがに格好がつかない。幸いにも着ていた服は異世界の物だったので不都合はなかった。
「服ならまた買えばいいって」
「まぁそうなんだけどさ……」
「落ち込んでも仕方ないでしょ?」
「そうだな」
サフィルの言った言葉がその通りだと思った俺はそう返した。
「次は剣で戦ってみようよ」
「まだ教わってないんだけど」
「その腰に下げてる剣は飾りなの?」
サフィルの軽い挑発に俺は乗ってしまった。
「やってみるよ……」
そう言って、スライムがいる場所まで向かった。
木陰からひっそりと見られていたことに、俺は気づいてはなかった。




