11話 異世界無双したい
パチッと目が覚めると、視界のすぐ横に見慣れない銀色があった。
——朝起きたら、俺の横で寝ているサフィルがいた。
「うわっ——!?」
思わずベッドの上で跳びのく。俺の情けない声に反応して、サフィルがうっすらと目を覚ました。
「ふぁー……。あ、ワタル、おはよー」
小さな手を口元に当ててあくびをしながら、サフィルは平然と微笑む。
「おはよー、じゃない。なんでお前がここで寝てるんだよ」
「そりゃ昨日、夜に行くねって言ったでしょ?」
「……あ、言ってたな、そういえば」
記憶を引っ張り出す俺を置いて、サフィルはベッドの上でゴロゴロと寝返りを打った。
「部屋に入ったんだけどさ、ワタルがめちゃくちゃ気持ちよさそうに寝てたから。私もなんだかつられて眠くなっちゃったんだよねえ」
悪びれもせずにえへへと笑うサフィル。俺は彼女の無防備さに呆れた。……まあ、こいつの常人離れした強さを考えたら、無防備に見えて実は全然無防備じゃないんだろうけど。
とにかく心臓に悪いので、俺は気にせず先にシャワーを浴びに行くことにした。
温かい湯を浴びてさっぱりし、シャワーから上がると、サフィルがベッドの上から身を乗り出して提案してきた。
「ねえワタル、まだこの国のこと全然知らないでしょ? だから今日は私が街を案内してあげるよ」
「ロジルはどうするの?」
「気にしなくていいでしょ」
「なら特にこれといった予定もないしね。お願いしちゃおうかな」
「よし、まかせて!」
そんなわけで、今日は街をサフィルに案内してもらうことにした。
行きの道で串焼きを買い食いし、服屋や市場を冷やかしたと思ったら、今度は甘味の露店に突撃。……って、俺たち食べてばっかだな。
そんなサフィルに街を案内されてるうちに、俺はこれが完全な『デート』になっていることに気づいた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、気付けば空は茜色に染まっていた。
夕暮れ時、俺とサフィルは街を見下ろす高台に来た。
とても美しい眺めだった。
「綺麗だな……」
「うん。ずっと見ていたいね」
茜色に染まる街を見下ろしながら、俺はふと、どうしようもないことを思った。
俺のいた世界にも、綺麗な場所はたくさんある。いつかサフィルと一緒に、日本の景色も見れたらな。
その『願い』が、無意識のうちにスキルの発動に繋がったのか。
自分の意志で制御できるはずのスキル『異世界転移』が、不意に発動してしまった。
『異世界転移を発動します』
「えっ? 」
魔法陣が俺の足元に現れる。
「なにそれ?」
「なんか元いた世界に戻る魔法みたいな?」
俺はサフィルとお別れをした。
するとサフィルは言ってくれた。
「いつかそうなるとは思ったけど、今なのね」
「そうみたい」
「……今しかないから言うね。私、好きなの!」
「——へ?」
「一目惚れだったわ、あなたの魔力に」
サフィルはそう思い切って言ってくれた。
え?俺が好きじゃないの?
「実は私、魔眼持ちで人の持ってる魔力の質と量が見れるの」
「そ、そうなんだ……」
自意識過剰な俺が憎い。っていうか最終話なんだから、これ以上要素増やさないでよ!?
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「……」
次の瞬間、俺は自分のベッドに横たわっていた。
魔力切れか、それとも往復の反動か、意識がなくなっていき、眠りに落ちてしまった。
起きると記憶が薄れていて、夢だったか現実だったかの見分けがつかなかった。
一階に降りると、そこには誰もいなく、時間は夕方の8時だった。
「なんだ、誰も居ないのか……なんだ、これ?」
何か見つけたのかリビングのテーブルに近づいた。
テーブルには母からの書き置きがあった。
『急な仕事が入ったので、留守番おねがいね。
追伸、言ったことはちゃんと守りなさい。→』
その矢印はキッチンの方に向いており、食器洗いのことを伝えるメッセージだろう。
「あはは。やっべ」
怒った母は怖い。
俺はキッチンに向かい、食器洗いを片付ける。
時計の刻む秒針の音が聞こえ、やけに胸がざわつく。
何か忘れてるんじゃないか。とそう思わずにはいられなかった。
食器を洗い終えた俺は手をよく拭き、自分の部屋に戻った。
ドアを開けた瞬間、やけに印象的な声が聞こえた。
「あ、ワタル……」
その銀髪は少ない時間でも頭に刻み込まれていた。




