その8
侮っていた結果がこの有り様では偉そうにできない。
素直に彼女を讃えようとする。
「想定以上の収穫で僕の三倍の働きだよ。 さすがだなトルカ」
「へへん。 私に任せれば千人力よ」
「頼もしい。 気になったんだけど巨大岩どうやって運んだんだ?」
天狗になるトルカは置いといて傾いた岩の塔を持ち運んだ方法が謎で気になる。
破壊の拳は一瞬しか使えない一度きりの技な筈だが。
「能力言ってなかったけサクマに? これ持続して出せるから重い荷物でも楽々に持てるよ」
「初耳だぞこの野郎」
「ごめんごめん。 今日サクマが話してくれたし、私も話すからお互い様ってことで許してよ」
「……わかったよ」
半分悪い部分があるので許す。 もう半分は謝りに免じて許そう。
あの笑顔は憎めないしな。
能力も包み隠さず明かしてくれたしお相子ってことで良しとする。
「名称は刻鉄の蒼。 ファインを手首に集中させることで強力な握力を得る。 肉体労働なら持ってこいの能力よ」
「見知らぬ単語が出てきたんだが………ファインってなんだ?」
「え……逆になんで知らないのよ。 サクマもファイン使ってるから物質のブロック化にできるでしょ? もう、ほんと世間知らずなのね」
世間知らずはまぎれもない事実なので反論ができない。
真実をカミングアウトしたとこで「なにほざいてんだコイツ」と蔑まされた表情で嫌な思いをするだろう。
なので大人しく苦笑いで彼女の悪口は聞き流す。
「暮らしていくなかで不便になるから教えてあげる」
「有りがたきお言葉」
「うん、そう。 ファインてのは現実では起こせない事象を起こすことができる力の総称よ。 例えば拳で岩石を砕いたりとかね」
なるほど。 科学的にありえない事象を発現させる力をファインと言うのか。
分かりやすく一言で魔力だ。 魔法を発動する燃料のことを魔力とレクシリアでは呼ぶらしい。
魔法と思ってしまえば理解がしやすい。
「つまり不可思議な現象をなんでも可能ってことだな。 火とか氷も手から出したりとかだろ?」
「そうね合ってるわ。 でもよく分かったね。 あれだけの説明で?」
「育った経緯が中二病発症しまくってたから……」
「チュウニ……?」
「なんでもないからささっと撤退しようなー」
過去にして最大の黒歴史を知られるとこだった。
中学時代はとても痛い痛い格好に独特な喋りをしていたので同級生には引かれていた。
家族からも害虫扱いされ、妹には「現実を直視しろよクズ兄貴」と直球を浴びせられた苦い過去がある。
多少中二病が抜けてない点がちょいちょい表に出るが、彼女は中二病の用語を知らないので白い目で見ないけど………時々、痛い視線は送ってくる。
「サクマってよく意味不明な言語使うね。 どこの民族なのかな……」
「岩石の山は左にと、鉄の宝は右にと」
「話を聞いてよ」
「さあ、拠点に戻るぞ」
「無視しないでよっ!」
膨れっ面でギャーギャー騒いでいるが構ってあげない。
明日も早いので就寝に着きたい。 話してると帰れないのもある。
それとトルカに意地悪するのは楽しいが一番の要因だ。
「これで準備は終わりと。 それにしてもあの揺れは何だったんだろうな。 三回も続けて」
「それ私だよ」
「……己かあああっ! ――たく、負傷したんだぞトルカ」
「ふふっ。 ごめんなさい。 どうしても壊さないと持ってこれそうにないから殴っちゃったのよ」
「はあ、三回も刻鉄の蒼使ったら地形が変動しそうだ」
「私、二回しか殴ってないよ?」
地震の元凶が三回ともトルカだと思ってたが違うらしい。 たまたま三回目の地震が偶然発生したのか?
確かに揺れのない地震だった。 ……なんだか胸騒ぎする。 村に異変がなければいいが……心配だ。
「トルカ。 早く切り上げるぞ。 不吉な予感がする」
「うん、私もだよ」
意見が珍しく一致する。 素材の回収も終えているので来た道を戻るだけだ。
駆け足で平坦な草木を避けて森林を走る。
段差を降りては足元を気を配る。
最悪の事態がないことを祈りながら黙々と駆ける。
――妄想であってほしいと考えながら。
「サクマ。 ファイトファイト」
「ふぅ、はぁ……体力なくて申し訳ない」
息切れどころか一汗もかいてないトルカは化け物かと思う。
走るといえど八割の力で走るので体力がもたない。
やっと、半分まで道を戻ってきた。 休憩したいが我慢だ。
「まだまだ行け…………る」
「無理だよサクマ。 足が震えてるじゃない。 歩きながら足を休めないと」
強い目力で脅された。 無理して走ろうとするのを理解してる。
無理する性格を知っててか労ってくれる。 今回ばかりはトルカに感謝しなくてはいけない。
「すまない。 足を引っ張って」
「皆の心配もわかるけど自分の身体も大切にしないとだめだよ」