その2
「……もう魔法は使えませんわ」
「無理させてすまないな」
「いえ、サクマためですもの」
俺のため……か。
好意はなくともそう言われると照れるなやっぱり。
さて……後継者に託した石碑は何語で書いてあるのやら。
読めるといいのだが。
「……なっ!」
「……サクマもですか。 どこの言語かは分からない顔付きですわ」
「い、いや……こんなことって」
前任者が人間なのはリーネとの会話で知ってはいた。
だが、どこの人間かまでは知るよしもない……いや考えてもいなかった。
何故ならレクシリアには人間が元からいる。
わざわざ異世界から呼び出して人間を増やす輩なんていないと思っていた。
勇者召喚ではあるまいしかつ俺の居た異世界の住人を引っ張り込むのはまずあり得ない。
……あり得ない筈なんだが間違いようがない俺がよく知っている文字が石碑に記されている。
そう、日本語が書かれているのだ。
偶然なのか、必然なのかレクシリア最強の人類ってのは俺の世界の住人だってことが衝撃だ。
たく、神様のイタズラかよ。
「読めるのサクマ?」
「ああ、自国特有の言語だからな。 リーネの解答は不正解ってとこだ」
「ぐぅ、ムカつきますわ。 身体が動けばビンタでもしたいですわ」
日本人だとは理解したものの何のために前任者をレクシリアに召喚したのかミステリーだ。
俺が呼ばれたのは前任者の器となる身体なので召喚されたが彼女はどうだ?
そうそう気軽に召喚なんて不可能なのに呼び出す理由が見当たらない。
答えは一生でないので思考を巡らすのを止めておく。
「ねぇねぇなんて書いてある?」
「……前略、俺の後継者となる者に全てを託す。 シルアを全力で止めてくれ。 恐らくシルアは人間を憎み世界中の人間を殺しつくしに旅をしているであろう。 お前にしかシルアの殺人を止めれるものはいない。 死人が頼みごとするなんて馬鹿らしいが後は任せた。 それと、カルラとリーネをよろしく頼むぞ……て、書いてあるな」
シルア……それが漆黒の剣士の名か。
言われなくても全力でシルアって奴は止めにいくさ。
任せろ前任者さんよ。 成し遂げてやるよ。
「なーんだ期待してたより普通じゃない」
「解読は完了したし……トルカ、話したいことがあるがいいか?」
「ええ、いいわよ」
期待してたより普通とトルカは発言したがまさにその通りだ……表向きはな。
石碑に記された真実の内容はトルカにしか話せない代物だ。
正確にはカルラとリーネには話してはいけない。
彼女が託した遺産にもそう記載されている。
集中治療室から距離はだいぶ離れたことだし、ここでなら真実を言ってもいいだろう。
「事前に注意しておくが大きな声を出すなよ」
「オッケー」
「あの石碑に記された本当の内容を言うぞ。 ――漆黒の剣士ことシルアと単機決戦をする」
「……ひとっ!」
「大きな声を出すなって事前に言ったろ!」
注意しても無駄だったようだ。
あらかじめ口を塞ぐ動作準備をしていて良かったぞ。
トルカなら我慢出来ずに大声を出すと算段していたからだ。
「むぐぐ? ももぐぅぐぅ?」
「こら、口を抑えているとこで喋るな。 唾液で汚れるだろうが……離してやるから小声で頼むぞ」
「ぷはー。 ……一対一で戦うってどうゆうことよ?」
塞がれた気道に空気を送り込み呼吸の確保をしたトルカからの質問。
実際に俺だって一人で挑むなんて予想だにもしなかったが納得出来る内容だった。
今から全貌を話す。
「シルアが所持する天黒刀――物質を吸収する武器は千の敵を相手にするように想定された最強の剣なんだよ。 束になって挑んだとこで魔法も吸収され軍隊で動く敵は身動きが取れないゆえ一網打尽されるだけだとさ」
「まだ一人で挑む方が勝機はあるってことかしら?」
「つまるところそうだ。 邪魔も入らないし仲間の気遣いをしなくて一人の方が戦い易いのもあるがもう一つ訳がある」
「その訳は?」
「天黒刀は物質吸収能力だが溜め込むには限度がある。 百種類の物質を与えてやれば砕け散ると記されていた。 そんなに多くの物質を調達なんて出来っこないし、例え持ってきたとしてもシルアは戦闘離脱するなり避けたりするだろう。 そこで俺の出番って訳さ」
「サクマしか出来ない役目ってことね」
剣の道を磨き続けた強者に最強の武器が合わさった暴君に対等に並べるのは俺しかいないと断言もできる。
創造に一生を捧げた人類最強。
最強には最強にしか対応は不可。
それに相性の問題も有り、どんな強者であろうと物質を吸収する刀が残存する限りシルアには勝てないのだ。
だからこそ百種類を所持出来る俺にしか務まらない役目なのだ。




