その14
異世界に日本に似た風呂屋があるだなんて考えにくいもんな。
平行世界ならともかく、魔法に他種族にバルネギカと多すぎて言い切れないほど元世界とは異なる。
身を清める場所がないから風呂屋を建築するだなんて規格外なことする前任者だがいい仕事をするものだ。
そろそろ金のりんごさんとミカンのオレンジのお二人に話しかけますか。
「風呂上がりのお二人さん。 お疲れ様」
「あら。 サクマも入浴に来られてたのですわね」
「無性に入りたくなって浸かりにね」
「あ、あ、あ……なんでいるのよサクマ! 私……私……」
突拍子もなくワナワナと指を差して震えるトルカ。
赤面になるトルカにナゾマークしか頭に浮かばない。
ヤカンの噴出口からピーと耳穴からなりそうな勢いでこちらを睨み付けるのだから意味が分からない。
「男湯に入っちゃたじゃない! よりによってサクマだなんて……」
しゃがんで顔面を両手で覆い隠し恥ずかしくて弾けそうに見えた。
リーネが止めているから浸入しないと算段していたのだが退出後に柵に昇って冒険したらしい。
相当に俺の入った後の風呂が嫌らしく恥ずかしがっているところだ。
自業自得だこの野郎。
「……もうサクマの前になんて顔だしたらいいの」
「重く受け止めすぎだろ。 俺は怒ってもないし軽蔑もしてないから安心しろ。 何も感情は抱いてないぞ」
「……それはそれで自信なくしちゃうな」
「なにか言ったか?」
「ううん。 なにも言ってないわ」
ボソッとなにか呟いたようだが立ち直ったようでなによりだ。
先程より活気がなく落ち込んでいるのが少々心に引っ掛かる。
まあ、そのうち元気になるだろう。
「本題のアルトルスの牙とクレイコアの眼は持ち帰ってきてくれたか?」
「ええ、サクマが仰ったアルトルスの牙はここに」
「私からもクレイコアの眼を受け取ってね」
持ち帰ってないんだろうかと検査をしたが心配は無用だった。
アルトルスの牙は宝石のようにエメラルド色に輝く半透明な物質で、クレイコアの眼は橙色の小隕石で光沢が眩しい一品だ。
牙、眼とゆうより結晶の塊にしか感じないのはなぜだろう。
まさかアルトルスとクレイコアはバルネギカの一種だったのではないかと思い付く。
訪ねてみるか。
「アルトルスにクレイコアはバルネギカの一種だったのか?」
「……そうですが、知らずに私達に頼んだのですか?」
「うむ。 たまたまバルネギカに当たらなくてビックリしている」
「……トルカに続いて呆れますわ」
左手で右肘を持って右手で頬を支えるポーズはリーネに似合っている。
ただ呆れてるだけなのだが絵面がお嬢様って感じでとても良い。
「ほら牛乳でも飲んでサッパリしてこい。 この後は買い物に付き合ってもらうからな」
「ありがとうございますわ」
「気が利くね」
ほんとに気が利くのは風呂屋の店主なんだけどな。
この牛乳瓶二つは俺が購入したものではなく背後から店主がこっそりと渡してくれたのだ。
忍び足で無音だったので身体がびくついたが素晴らしい仕事をしてくれて感謝。
「んっ……うんっ……ふっ……ふくっ」
十六才の俺には刺激が強すぎる光景に目を逸らしてしまう。
いやらしく聴こえる声に口元から飲みきれず溢れた白い液体と駄目な方向に思考が行ってしまう。
トルカはもう少し周りの目を気にした方がいいと思うのだが……。
例として平気でボディータッチしたり、ベタベタとくっついてきたりと青春真っ盛りの俺には効いて仕方ない。
「癖になる濃厚な味で気に入ったわ!」
「ごちそうさまでした」
「よし飲み終わったな。 物質調達しにいくぞー」
空になった牛乳瓶は先行して店主さんに返却し帰り際にありありしたとお礼された。
いきなりくだけた物言いに前任者の息が掛かりまくってるなと呟き風呂屋を後にした。
小綺麗になり身体も汚れてなければ私服もピカピカで堂々と町を徘徊できる。
希有な格好で歩くのも視線が集まり気まずいのでついでに庶民服でも買うことにしよう。
トルカやリーネだって新しい服を交換したいだろうから買うぐらい許可はしてくれるだろう。
「……市場ってどこにあんの?」
「私が導いてあげますわ。 着いてきてください」
さすが頼りになる巨乳の持ち主だ。
大きい胸の持ち主は伊達ではないな。
内心の呟きを聞かれたら骨の五、六本は犠牲になりそうだけど心の声なんて聞かれる訳がないので安心と。
あの跳ねた癖毛の小乱がいなければの話だが……店のお留守番頼まれているだろうから登場する心配はない。
「着きましたわ。 ――ここが世界の品物。 もっとも多種族の商人が売り出す広場ですわ」
色鮮やかに装飾された店の陳列に人ではない種族がゴロゴロと町にいる風景は色鮮やかな広場だ。
武器屋、服屋、占い屋、薬屋と数えきれない多種多様な品揃えの数に開いた顎が戻らない。
予想を遥かに越えた規模で目玉が飛び出してしまいそうだ。




