その12
のれんをくぐり抜け脱衣場に着くとそこは壁一面白い世界が待っていた。
床なんて触り心地がいい丸い竹の皮のオウトツが沢山とやはり元の世界と類似している。
優一、俺の世界との文化が似ている風呂屋だと断定できる。
「衣服も臭いし洗っておくか」
異世界にやって来てから洗う機会なんてなかった。
バルネギカを退治し簡易な村を作り、湿気がじめじめの黄昏の森を抜けて町に侵入し、漆黒の剣士をしり除けて凶悪モンスターのデュアルを倒すまで長い月日を過ごした。
体臭と汗が刷り込まれた私服を洗わずまた着るなんて俺にはあり得ない。
シャワーぐらいは設置してるだろうからそこで洗濯をする。
「私服てか制服だよな。 よくこんなので戦えてたな」
そう、ヤクザに襲われる直後は制服のままだったのでブレザーにカーターシャツにネクタイと目立つ服装だった。
今思えば異世界人から視点で見れば変な服装をするのは人間しかいないと認識があるかも。
ことごとく人間だとバレるのはそうかもしれない。
本当にそうなら湯船に浸かった後は服も購入しないとな。
「お風呂ー、お風呂ー」
ステップルンルンで制服を持ったまま風呂の戸を開けて突撃すると熱気と湯気が押し寄せる。
視界が晴れるとそこは露天風呂と遜色ない石だらけの空間。
色んな形の石がバランスよく湯を囲い風呂を形成している。
堪らず風呂にダイビングしたいけど我慢。
身体の汚れと制服に付いた体臭を取ったのちに入らないとね。
マナーが悪すぎる。
「おお! シャワーもちゃんとあるじゃないか」
これには感動した。
水量を調整する蛇口も有り水が噴き出す入口も細かな穴が無数とシャワーその物だ。
ほんと似すぎてこちらの技術を直輸入したのかと錯覚させる建物だ。
「シャワーの水圧も良しと文句の一文字もでないな」
頑固に付いた汚れを落とすのを想定したような水圧の強さに温度は一肌ぐらいでこれも丁度良い。
頭皮を洗うシャンプーにポディソープもあるときて、まさに天国である。
こんなに贅沢していいのだろうかと頭脳に過るが、今まで成績を上げればご褒美として考えれば見合った対価だ。
もう湯船に浸かる前から心が満たされている。
「くぅー! この頭をごしごしと洗う快感が堪らないな」
指の腹で頭皮を丁寧に擦りながらマッサージする感覚に耐えられずオッサンみたいな発言をしてしまった。
幸い誰もいないので良かったが自重せねばな。
どこでオッサン臭い言葉を使用するか分かったもんじゃない。
念入りに五分じっくりと時間を空けてシャワーを髪の毛に通すとドロリと汚れの集合体が流れた。
髪にここまで汚れが溜まっていたとは気味が悪くなる。
……毎日身体は洗わないとな。
「タオルにボディーソープを付けて泡立たせてと」
きめ細かい泡を作るため何度もタオルを揉みほぐし生成する。
出来上がった小さな泡を首から胸にベッタリと付着させて擦る。
目には見えなかった垢がボロボロと沸き出るわ沸き出るわ。
かかとに指の隙間を擦ると大量に浮き出てくる浮き出てくる。
よし、大部分は洗ったとこでデリケートなアソコも綺麗にして終了だ。
泡まみれの身体に温水を流して汚れを全て払拭させる。
汚れを払い落としたおかげか妙に開放感に包まれている。
清々しいと言うか生まれ変わったような気分だ。
「身体は清めた。 お待ちかねのディナーを頂こうではないか」
すごい中二臭い台詞だけど一人しかいない風呂なので全開でキモくなります。
一人になることは殆ど無かったので本性をさらけ出す一隅のチャンスなのだと意気込む。
「ああ~……染み渡る~」
お湯をまんべんなく身体の隅の隅まで行き傷を癒していく感じだ。
血流が活気づいたように心臓の鼓動も早くなり疲れが温泉に流れていく。
目を瞑り肩まで浸かると首から上以外は暖かいベールに包まれて幸せだ。
邪気が洗い流されていく。
「……へえー……ここが……お風呂……」
むぅ、俺の賢者タイムを邪魔する不届き者は何奴。
柵の向こう岸から声は聞こえるとなると女湯からだ。
あー、これだったら女湯も貸しきりにすれば良かった。
勿論、女湯も使うからの理由ではない。
至福の時間を妨害されなくするためだ。
「前々から大きいなぁとは思っていたけど脱ぐと更に凶悪だわ」
「マジマジ見ないで下さいですわ!」
……どこかで聞いたことあるような言葉使いに若い女性の声。
偶然に似ているだけだよきっと。
ミラクルにお風呂屋に来るなんてないない。
……気のせいだろう。
「隙あらば胸揉みの刑」
「あひゃあ! お止めなさいトルカ!」
「触り心地最高だわ」
「ん……くぅ……隣に男性が居るのでほんとに止めてください!」
おぅ……よりによってトルカにリーネかよ。
……どうして風呂屋に来た。
天国の時間を帰せこんちくしょー!
ゆったりと出来る空間だったのにもう出るしかないか。




