その2
「むむむ。 一瞬如何わしい事を考えようとしたら悩み――」
「わああー! 店主の娘さんよ、名前教えてくれないか。 俺は村崎沙久間って名だ」
半中ばに娘さんの言葉を遮る。
そうしなければ問い責めに合う予感がしたからだ。
コミュニケーション取るの難しいかつ内心で思うことも言葉選びしなければならない。
「……サクマさんね。 私はタナ・ブライアンと申します。 タナと気軽に呼んでください」
うんうん良い名だ。
とても良い名だ。
誇り高き良い名だ。
大人らしい良い名だ。
心を読まれるなら誉めて誉めて機嫌を取りまくろう。
通用するか知らないが。
「えへへ、嬉しいなぁ」
とろける顔でご満悦。
よしよし一先ずは上手くいった。
こんなに神経をすり減らすことは滅多にないぞ。
おっとと。 タナさんには聞く用事があった。
「何していますの?」
「ひゃあっ!」
背後からの声掛けに男ながら情けない甲高く叫んでしまった。
振り替えれば女王様を漂わす胸が大きいのが特徴のリーネが腕を組んで睨んでいた。
俺が起きてから時間はほんの数分しか経っていないのに早いお目覚だ。
「ビックリしたが丁度いい。 タナさんの相手をしてくれ。 心を読まれるから気を付けろよ」
「言われなくても知ってますわ。 彼女は小乱なんですから」
小乱の説明は知能がずば抜けて特化しているだったな。
頭が良いのと心を見透かすのと何か関係があるのか?
情報が不足していて理解が出来ない。
「分かっていない顔ですわね。 サクマにも一応備わっているでしょうに」
「人間の俺にか?」
「第六感ですわ」
第六感といえば超能力みたいなものだな。
たまたまネット検索で調べたことがある。
大きくは四つの分類があったのを記憶の底から掘り出す。
超視野――予知または可視できない物を見透す。
超聴覚――聴こえない音を拾う。 簡単に言えば地獄耳。
超感覚――相手と同じ心情になり身体の具合や心も読み取る。
超認識力――過去、現在、未来の技術などを習得する。
大まかで記憶が曖昧だがこんな感じだった。
つまり心を読まれるではなく、同じ心情になっているから考えていることが分かるってことだ。
たく、カルラの野郎説明を省きまくりじゃないか。
知能が高いではなく第六感を行使できると言ってくれれば良かったのにな。
せめて事前に知っていれば精神的ダメージは和らいだものなのにチクショー。
「サクマさんを苛めるの興奮しました。 能力なしで会話しますねー」
「初めからそうしてくれ!」
スイッチのオンオフが出来るなら元からオフにしといてくれよサディストめ。
毎度やられるとこちらの身が持たない。
悪趣味だな。
「あ、そうそう。 銀髪で真紅の瞳をしたタナさんぐらいの身長の子を見ませんでしたか?」
「うーんとあの方ならサクマさん御一行が部屋に入ってから一時間も経たないうちに宿泊代を支払って出ていかれましたよ」
「……嘘だろ」
酸素がなくなったかのように喉から空気が詰まる。
夜中に山菜を取りに出掛けるや散歩してくるなどありはしない。
ただ一つ言えるのが俺達の元から離れた事実だ。 見捨てられたのか、必要とされなくなったからか、真相は闇の中だ。
「やはり離れてしまいましたわ」
「リーネ。 何か知っているのか?」
たった一日半しか同行してない間柄だろうと大切な仲間だ。
勝手に出ていったとしても事情も分からぬまま放っておく訳にはいかない。
「自分の身に命の危機が迫ることがあれば実家に帰ると契約をされていましたわ。 契約に背き帰化しない場合はどんな手段を用いても連れ戻すとカルラから聞いておりましたの」
「誰からの契約だ?」
「その様子だとカルラの素性を知らないようですわね。 身分を気にされるのが嫌いでしたから話さなかったのですわね」
素性に身分など砂漠の大地からスタートした時点からアンノウンだ。
怪しさと危険な香りしかないカルラだがやっと正体が判明する。
話の内容的にバックには大きな組織と関わっているのだけは勘で告げる。
「霊闢の種族には三つの大国がありましてその内の一つがカルラの実家になりますの。 実家は霊谷の森との名称ですわ。 つまり霊谷の森のお姫様ですの」
「姫……だと」
驚くなんてレベルではない。
海の味は塩辛いから甘いに変換するほどの衝撃だ。
あの体型で姫様らしくない身なりに言動も優雅ではない。
リーネの方がお姫様と言えるのは分かるがカルラの姫姿が想像できない。
見た目で侮るなかれってことだ。
「姫ってことは理解したがどんな手段を用いても連れ戻すって具体的になにをするんだ?」
「この一軒家が焼け野はらになり私達は死体になってることですわ」
関わった奴全てを抹消するってことか。
俺達に危害が加わらないよう自ら離れたくない居場所から出ていったわけだ。




