その8
え? 今、あなた様ってカルラのこと呼んだよ。 それも怯えた子犬のように……だ。
様と呼んだこと。 恐れていること。
二つの点から導きだす答えは二通り思いつく。
一つ目は上位種族の立場を利用して宿屋の主人を脅して宿泊代をタダにしろと卑劣なことを前回にした。
二つ目は高位な貴族の種族で気に障ることがあれば消される恐怖があるからか……。
俺は前者である。
もしも高位な貴族だとして護衛もなしに外をほっつき歩くのを許可してるとは思えないのが理由だ。
「様と呼ぶのはやめて。 人間として扱っていいから」
「で……ですが……」
「あの人のことなら気にしなくていい。 私が丸く収めてあげるから」
冷たい視線で店主を睨み少しはがり怒気が籠っていた。
霊闢として扱いを受けるのが嫌であるようだ。
あの人と名指しではない人物が何者か知りたいが忘れておこう。 雰囲気が不味くて訊けそうにない。
「……分かりました。 いつもの対応をさせて頂きます。 何泊にしますか?」
「一泊で三人同じ部屋で」
「かしこまりました。 銅9コルトになります」
腰辺りに手を回し赤色の小鼓を取り出したカルラは締まっている紐をほどき、円形の銅を9枚受け皿に置いた。
あれがコルトか。 1円玉ぐらいの大きさで持ち歩きには不便はなさそうだ。
「こちらが部屋の鍵となります。 部屋は階段を上がった先にありますので」
「お待ちかねの部屋に行くよ君達」
「私が一番乗りに行く!」
「あっ、待ってよトルカ」
ふぅ、騒がしい二人だ。 階段を上れば休めるのだから走らなくていいのにな。
さて、俺はゆったりと向かうか――うむ……店主がまじまじと見つめてくる。
歩いて移動しても目で追っかけてくる。 視線が離れない。 ……なんなんだ一体?
「……何か用ですか?」
「あなた様のお仲間はどういったご関係で?」
「ただの旅仲間ですよ」
「そうですか……ならお仲間の霊闢には注意してください。 普通の霊闢ではありませんから」
「ご忠告どうも」
警告のつもりか心配してかこの言葉を置き去りに奥の部屋に消えていった。
店主が伝えたかった真意は不明だが、俺が思っているより危険人物かもしれない。
……さてと、危険かどうかなんて忘れてちゃちゃっと部屋に向かいますか。
目的地は木の階段を上がった先だ。
ゆっくりと歩んで上っていく。
階段を踏むとギッギッと実家を思い出す音が鳴る。
上がりきったところでトルカとカルラが最奥の部屋で手を振って待っててくれている。
わざわざ待ってくれるなんて優しいな。
二人のためにも早く向かうか。
早歩きでコツコツと扉前まで来るとこれはまた――独特な色をしている。
赤一色のとこに鉄線の模様が十字に刻まれたドアだ。
魔法の扉かよと内心小さく呟く。
ワクワクが待ちきれないトルカは店主から受け取った鍵でドアを開けた。
中を覗いてみるとダブルベッドが一つ、二人は余裕で座れるソファーが一つ、壁の配色はダークブラウン。
自然色そのままだ。 期待以上に豪華で驚いている。
「わぁー、すごいすごい! 宿ってこんなに広くてベッドもあるなんて!」
「その口ぶりだと宿に泊まったことないのか」
「うん。 噂には聞いていたけど実際に見るのも初めてだわ」
見るのさえ初めて……ね。 ぬくぬくと安全に育ってきた僕には過酷な生活を想像すらできない。
ほんとトルカはハートが強いと改めて再確認する。
「やっと部屋に着いたし、びしょびしょの靴を脱がないの。 君たちは?」
「あ……感激のあまり忘れてたよカルラちゃん」
「俺もそうだったわ、カルラちゃん」
「ちゃん付けはやめようね君たち。 これでも私は十七で年上なんだからね」
えっへんと腰に手を当てて自慢気におっしゃるカルラに動揺を隠せないことが発覚した。
失笑……あの幼児体型で17だと!
しかも俺の一つ上ってことに衝撃だ。
トルカも同様に唖然とした表情。
同じ境遇のようだ。
「だからね――」
「こんな小さくて17だなんて可愛すぎるよ!」
「話を最後まで――」
「年上の小さいは最高だよ!」
「最後まで聞いてよ!」
あ、あはは。 全くもって同じ感情ではなかったようだ。
小さいから可愛いと脳内変換されているらしい。 さてと、俺は先に靴を脱いでおく。
いつの間にか裸足になっている俺に気づいた二人は同時に靴を脱いだ。
置場所は決めていないので靴を二人から受け取り、部屋の四隅に退けてあげた。
「気が利くね」
「どういたしまして」
「それじゃー、本題に入ろっか」
空気がピリッと変わる。
仲間の救出作戦についてだろう。
漆黒の剣士と石碑にも関わることだ。
こちらも真剣になる。




