その6
「ほらほら抵抗しないなら胸に当たるぞー………おっ?」
石像のように動く様子がないトルカなら気軽にタッチする予定がはずれ、腕を掴まれる始末だ。
人生初の触る機会をなくし非常に残念です。
「すみません。 悪ふざけが過ぎました。 だから離し、いうっ!? いたっ! ……冗談抜きで手首が折れるって!」
なんて握力をしてるんだ! 小柄な体型のどこに力が……っう!
んなことより、このまま握られてると手首が九十度に曲がる。 打開策を……うぉい! 間近で刻鉄の蒼を使うのか!
「焼き土下座でも、スライディング土下座でもするから刻鉄の蒼はやめてくれトルカ!」
言葉は受け付けず蒼い拳が鼻に目掛けて一直線に来る……が、あと数ミリで当たる直前で音速に腕が止まった。
止めた反動で風圧が押し寄せ、しばらく髪がなびいたが死なずになによりだ。 はぁ、命拾いした。
「あっと、ごめんなさい。 ……もしかして私に触ろうとした?」
「はい、しました」
「やっぱり。 ぼーとしてる時とか、考え事してるとか、無意識の状態だと反射的に危害を加えようとした相手に攻撃するよう仕込まれてるから、次からは気を付けてね」
どんな生活を送れば無意識でも殴る訓練を受けるのか知りたいわ。 今後は小幅二歩ほど距離を詰めないよう行動しよう。
触れただけで風穴を開けられたらたまったものではない。
「ふふ、君ってば相変わらず笑わせてくれるね」
「死にかけだったけどな」
「いかがわしいことをした罰だよ」
「未遂だからセーフだ」
「未遂でもアウトだよ!」
むぅ。 犯罪者理論は通用しなかったか。
胸を触ろうとした事実を隠蔽したいのに的確なツッコミは困る。
トルカが聞き流してくれる……はずないよな。 満足するまで一日中付きまとう性格だ。 どうしたものやら。
「いかがわしいってなんのこと?」
「それはな――胸を触るをしようとしただけだ」
「ふーん、疑って損したわ」
ぎらめく眼光が収縮していく。 疑いは晴れたようだが、カルラのジト目から伝わる感情が"コイツクズだわ"と発している。
生き残る為なら真実は隠すのは致し方ない。
それからは会話を最小限で悶々と黙りながら歩き、目的地まで永遠とジト目視線が続いた。
町に着くまで、命の危機に晒される話題が出るたびに誤魔化しては神経をすり減らす繰り返しだった。
◆
――夜が明けた。 眩しい太陽の光が射し込み、すっかり朝になっていた。
長い泥道を歩いたおかげで靴は泥まみれで、ズボンの裾も泥だらけだ。
足裏がズキズキと痛み、歩くのも限界に近いところで――遠方に建造物が見えた。
あれがカルラの仲間が捕らわれている街。 そして俺達以外の人が住んでいる街。
人が生活をしていると喜ぶ反面、仲間を監禁している事実に半分嬉しくなく、半分嬉しいと複雑な気分だ。
「やっとついたな。 ちゃっちゃと町に入ろうぜ」
「そう急がないの君は。 休みたい気持ちは分かるけど門前払いされちゃうよ」
「じゃあどうやって町に入るんだ?」
「私が先導するからその後ろに着いてくるだけで事が済むよ」
一体何をするつもりだろうか? 賄賂でも渡して通るのか、または恐喝でもするのか?
こちらに被害が来なければそれでいいが……。
町の正門付近まで来たが……あまりにも縦高すぎる入り口に絶句した。
三階建ての一軒家と劣らないスケールの門だ。 どれだけ町が発展しているかこの門だけで物語っている。
人間が滅びる運命に向かっているとは到底に思えない。 滅びる要素が見当たらないが率直の感想だ。
「そこの三人組、止まれ。 通行書を見せろ」
銀色の装備に包まれた護衛の門番に二つの槍を交差させ通行止めされた。 伝統ともいえる門番のイメージと同じなので異世界でも思考は類似していると分かる。
門番さんはなぜかランスを装備したがる傾向にあるのか訪ねたいが、目が怖いのでやめておく。
「通行書はないけど……これじゃダメかな?」
「霊闢!? 失礼しました。 どうぞお通り下さい」
「ども~」
あっさりと道を開けてくれるなんて霊闢の力は絶大だな。 通行書の必要性とはなんだろうと遠目になる。
物騒な槍を収めて門の柱となる部分に手を触れた瞬間、ガコッと凹み、正門が徐々に開いてゆく。
三人が通れる広さになったとこで門をくぐると同時に轟音を鳴らし門が閉まる。
ゆっくり閉めろよこら! ……と門番に文句を言いたいが町に入った今、怒る手段がない。
「たく門番の野郎め」
「まあまあ、怒らないの君は。 無理矢理通ってる私達にも非があるからね」
「そうか……て、さっき門番に何を見せたんだ?」
「霊闢の象徴である魂の移動をやってみせただけ。 こんな風にね」
もう一人のカルラが身体からずれて現れる。
目に見えて怪しい赤紫色に発光しているのが幻想的だ。
魂ってのはこんな色合いだと認識する。




