娘を餌にしてくれ欲しいと涙を流す母親
そんな時、突然の来客が尋ねてきた。が、ヒミコは興味がないから無視をしていたが信者の一人が対応してくれた。どうやらヒミコ教に関わらずヒミコに助けを求めたかったらしい。
目に涙をためて対応した信者に縋りついてきたのだ。しかも海外から飛んで来たらしく何かよほどの事らしい。
「ちょっと、落ち着いて!ほら、深呼吸して」と言われ
「スーハー、スーハー」と深呼吸をしてみせた。これでもまだ緊張しているのがわかるくらい震えていた。
そして彼女は口を開いた。
「ヒミコ様にうちの子を餌にしてほしいのです」と涙ながらに話す彼女を見てヒミコは驚いた表情をする。
いくらなんでも突然すぎる。というより驚きの方が大きかった。
彼女が言うには‥。
娘が交通事故にあい昏睡状態になった。しばらくの間、意識が戻らない日々が続いたが最近になってようやく意識が戻った。それだけならまだいい。だが娘が目覚めて最初に発した言葉が「私一生このままなの。このままお友達とも遊べないの?嫌だ、こんなの!こんなのだったら死んだ方がマシ」だった。どうやら植物状態から奇跡的に意識を取り戻したものの植物人間同然の生活を強いられてしまったため精神的なショックが大きいのだろう。それでもなんとか立ち直った時、今度は病気が発覚した。しかも原因不明の病気で余命1年と診断されたのだ。彼女は絶望した。だってこんなにも愛してくれている人がいるのに。こんなにも愛しているのに。なのに死ぬなんてありえない。どうしても助けたいのに助けてあげられないなんて……
そこで彼女は藁にもすがる思いでヒミコの名前を調べて訪ねてきたのだ。
ヒミコ様ならばもしかすると奇跡を起こしてくれるかもしれないと……。
「なるほどね~、それであなたの娘さんを助けてほしいと。」
「どうかお願いします。ヒミコ様の力でお救いください。この通りです」と精一杯頭を下げてくる。が、
「嫌よ!そんな食料にならないようなことなんて。男の子だったら30年もすれば油も乗っておいしく頂けそうだから助けないこともないけど」と嫌がっている。それはそうだろう。ヒミコは男の生命力を食料にしているのだから。女の人を助けるメリットが無い。
「そこをなんとかお願いできませんか?お金ならいくらでも差し上げます。何でもしますから。どうかお願いします!」と必死になって懇願してくる。それを見るにつけヒミコは深い溜息を吐く。その子がどれだけ可哀想で大変な思いをしてもヒミコが助けてやる義理もないし助ける利点もないのだ。結局、ヒミコは彼女の願いを拒絶し追い返そうとすると、
「あんたには人の心ってものがないの?こんなに頼んでるのに…鬼!悪魔!人でなし!」と、突然の逆切れ状態に。えらい言われようだ。
確かに人ではないから人でなしの部分だけはあってはいるのだが。しかし
そしてその言葉を聞きヒミコは激怒した。
「な、何ですってーー!あんた!私に向かってなんてこと言うのよ!」
「何よ!本当のことを言っただけじゃない。何が悪いのよ」と彼女も言い返す。両者一歩も譲らない展開になってきたところで割って入った人物がいた。
「ヒミコ様!落ち着いてください!」と李玲玉が仲裁に入った。
「玲玉さん!この女、本当に失礼な奴よ!私の事を侮辱してきやがったわ!」と怒り狂っていたが、李玲玉は冷静に
「まあまあ、ヒミコ様。そんな怒らないでください。彼女の話に嘘はありませんから」と言うと、ヒミコは舌打ちして「フン!」と言ってソファーに座って腕組みをした。
「まったく失礼極まりない奴ね。私のことを悪く言いやがって」
「それは私も同感です」と同意するが「でもヒミコ様。彼女には娘さんのことで相当辛い思いをしてるんですよ。それに私に言われたくないかもしれませんがヒミコ様は普段女性に対する態度があまり良くないですし、彼女も最初は勇気を振り絞ってここに来たのではないでしょうか?」
「いやいやいや、そもそも私が男共を治療するのは単に餌にするからなのよ。食べられたら死ぬのよ。解ってるの?おかしいでしょ我が子を食べてくれって」
「あら、その通りですが‥、まさかとは思いますが我が子を食料に出す親なんてそうそういないのでは?いませんよね。ましてや女の子となると……。我が子は愛玩動物以下の価値なんでしょうか?」
本当は母親もさすがに娘を餌に出すのは躊躇ったらしいが一時でも娘が元気になって飛び回りたいという思いをかなえさせるにはこれ以外思いつかなかったのだ。それにそもそもヒミコはあまり人間の親子関係の価値観というものが理解できないというのもあるが。さすがに「わが子の死も惜しまない」という意味ではないのだが、人間の親の気持ちはわかっていないのかもしれない。
「つまり、この子を一時的に健康な身体に戻してほしいと。元気な体にさえなれれば将来餌になってもいいということね」
「ええ、その通りです」
「でもいや。女はまずいから」とヒミコはイヤイヤするが、李玲玉が間に割って入ってきた。
「ちょっと、ヒミコ様もいきなりそういう事いわないの!取引という手だってあるんだから」
「聞くけど、あなたに旦那さんはいるの?」と女性に尋ねた。
すると
「はい。います」と答えた。
「ヒミコ様、その旦那さんを餌に出すのはどうかと……」と李玲玉が提案してみると
「それなら大歓迎!」と即座に手のひら返しをしてしまう。
最初からこう言えばよかったのだが。
「肝心の旦那さんはそれでいいって言ってくれるかが問題よね」と李玲玉が続けると
「大丈夫です。うちの主人も同じ考えですし、必ず説得できます」と答えた。
「だったら今すぐ連れてきてよ!早くして頂戴!」とヒミコは待ちきれないとばかりにソワソワしている。
「それではすぐにお呼びいたしますので少々お待ち下さい。ヒミコ様」と一礼し去って行った。そして、暫くすると……
「ヒミコ様、お待たせいたしました。主人を連れてきました」と声がしたのでヒミコは扉の方を見ると夫婦らしき男性と女性が立っていた。どうやらあれがそうみたいだ。凄くおいしそうだと生唾を飲み込むヒミコだった。
ヒミコは早速交渉を持ち掛けてきた。
「ではまず始めに、お前の旦那を今すぐ差し出しなさい」涎が出てきた。早く味見をしたくてたまらないらしい。
しかし、それを拒むように妻の方が言った。
「それは出来ません。旦那も了承はしていますがまずは娘の身体を元に戻してください」と言ってきた。それに対してヒミコは不満たらたらだが旦那も
「お願いします。最後に娘の元気な姿を一目見てから旅たちたいです」とお願いしてくる。
それを聞いてヒミコはしょうがないと思い承諾する事にした。妻は早速娘の病室まで案内してくれた。娘はベッドの上で横になって眠っていた。その周りには泣いている母親と悲痛な表情の父親の姿があった。
ヒミコは娘に手をかざし光を放った。すると、みるみるうちに顔色が良くなり全身のケガが治っていくではないか!病気の方も完治したらしい。なんともあっけない。
そして……「うう……あっ……パパ?ママ?」
「良かったぁ~」と両親が抱き合って喜ぶ様子を見せる。
その一方でヒミコは冷酷な目で二人を見下ろしていた。
「約束だ。旦那を貰い受ける」と淡々と言った。
「はい……、わかりました……」と父親が静かに答えると「じゃあ行くわよ」と父親の肩に触れ、そのまま連れていこうとしたのだが、その時母親が走ってきて父親にしがみついたのだ。すると母親は泣きながら訴えてきた。
「お願いです!せめて今日一日だけでも一緒に居させて下さい!」と号泣しながら懇願してきたのだ。が「もうダメ!我慢できない」と容赦なしに母親から父親を奪い取る。
そして、そのまま精気を食べようとすると
「待ってください!ヒミコ様!」と止める声がする。振り向くと李玲玉がいた。




