67.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
一年生たちによるエキシビションも終わり、ついに始まったアゴーナス一回戦。しかし、運営本部からリーダーの元へ送られてきたメールには、何か違和感があって……。
「——ラファお兄ちゃんと牡丹って、付き合ってるのかな」
何気なく言ったつもりだったのだが、皓然は勢いよくせき込んだ。
「アリス! 皓然がいる所でお姉さんたちの恋愛事情探ったらダメだよ! 皓然は救いようのない、重度のシスコンなんだから!」
「違います! 怒りますよ!」
すでにアダンに怒っているような気はするが、アリスは素直に「ごめん……」と皓然に謝った。まさか、そんな反応をされるとは思っていなかった。
「なんか、あの二人、仲が良さそうだったから、つい……」
「仲が良いだけです」
アダンには違うと言っていたが、皓然はなんだか不機嫌そうだ。腕まで組んで、唇を尖らせている。
「えっと、皓然はラファお兄ちゃんが牡丹の相手だと嫌?」
「そういう訳じゃないです。ラファ先輩のことは尊敬していますよ。ただ、牡丹姉さんには、小さい頃から良く面倒を見てもらったし……。こっちじゃ親代わりだし。だから、ちゃんと姉さんを幸せに出来る人じゃないと、ぼくは嫌なだけです。……それだけ」
どんどん小さくなっていくその言葉は、確かに牡丹を大切に想っているらしかった。照れ隠しか、「もう、この話はやめましょう」と強制的にシャッターを下ろされたけれど。
「アゴーナスについて考えましょうよ」
「それもそうだな」
パウラは皓然に頷いて見せた。
あのヘレナは偽物なのか、ルイーズは本当に黒魔術を使っていないのか、等。先生たちがそれらを調べている間、アリスたちは休憩を取るように言われていた。
だが、数分前にあのヘレナは偽物で、ルイーズも黒魔術を使っていないことが分かった。そこで、今日の種目が一斉にリーダー宛てにメールで発表された。
競技種目は、迷路。
まるで子供のお遊びのようだが、これが第一種目で間違いなかった。
お昼休憩をはさんですぐ、アリスたちはメールに書かれていた集合場所、中庭にやってきた。すでにたくさんのチームが集まっていて、会場はざわついていた。
というのも、中庭まで決められたルートで来るように指示されていたからだ。アリスたちはメールの指示に従い、南口から中庭に入ってきている。
「……」
人の多さに圧倒されているアリスとアダンとは違い、パウラは周りを見回して考え事をしているらしかった。
「パウラ、どうしたんだよ」
「いや、何か違和感があるんだ。道順を決められていたことも含めて」
レオに答えながら、パウラは改めて周りを見た。
アエラスだけではなく、他の国の魔術師たちもいる。階級だって、上は上級見習いから、アリスたちと同じ新人の一年生、つまり初級まで。今の所、他の違和感の正体が掴めない。
「いつもはない石塀があるから、おかしく感じるのでは?」
「確かにそれも慣れないけど……。そうじゃなくて……」
パウラが考え込んだところで、上空にダリアが映し出された。
『それでは、アゴーナス第一回戦について説明いたします。今、みなさんの前に迷路がありますね。あなた方がすることは、ただ一つ。この迷路からチームメイト全員が揃った状態で、脱出してください。法に触れない限り、どんな魔術を使っても構いません。ただし、魔術が使えるのは一人一回まで。エキシビション同様、再起不能のけがを負わせること、相手を殺すこと、黒魔術を使うことなど、法に触れる行為はすべて禁止とします』
それに合わせるようにして、アリスたちの前にあのイヤホンが現れた。レオたちは慣れた様子でそれを耳に付けたから、毎年のアゴーナスで使われているのだろう。
『ポイント付与について、説明します。一着で脱出したチームは、それぞれ二千ポイント。二着は千五百ポイント、三着は千ポイント、四着は五百ポイント』
その瞬間、周りからブーイングが飛び出した。これでは、五着以降のチームはポイントをもらえない計算になってしまう。
それも予想の範囲内のダリアは、ブーイングなど物ともせず『五着以降のチームは』と、説明を再開させた。
『五百ポイントから、五十ポイントずつ減らしていきます。十五着までに脱出が出来たら、最低でも五十ポイントまでは確実に取れます。さらに、個人で素晴らしい行動、判断をした場合、一から五十ポイントを差し上げます。公平を保つため、ジャッジするのは別の国の上級魔術師です。例えば、我がアエラスの魔術師が優れた判断能力を見せたとします。その場合、アエラス以外のネロ、フォティア、ガイアの上級魔術師がジャッジします。上級魔術師一人につき、五回しかポイント付与が出来ません。つまり、チームに目立つ魔術師や、上級見習いがいたとしても、我々を納得させるような行動、判断が出来なければポイントは入らないのです。無論、階級が上に行くにつれ、我々のジャッジも厳しいものとなります』
つまり、上級見習いがいるからと言って、有利に物事を進められるわけではない、というわけだ。チームに上級見習いがいれば、ゴールしやすい。その代わり、先生たちからの評価は厳しいし、もしかしたら霞んで見てもらえないかもしれない。
逆に、初級や中級しかいない、新人がいる、というチームでも、優れた行動をすれば十五位以内に到着できなくてもポイントはもらえる。
しかし、上級魔術師一人につき、五回までしかポイント付与が出来ないという制限がある。
ということは——。
『質問も不満も消えたようなので、早速始めましょうか』
開始を知らせるゴンドラの音が鳴り響いた瞬間、アリスたちの体は一斉に地面に縫い付けられた。動きたいのに、動けない。まるで、重力が強くなったような……。
「魔術に制限回数がなくても、一回で十分だ」
そう言って、這いつくばる魔術師たちの間を歩いて行くのは、金髪の青年だった。緑の瞳、赤いケープコート、星形の階級章……。
恐らく、フォティアの王族。
アリスたちの親戚だ。しかも、恐ろしいほどルイスに似ている。
青年は一瞬だけ足を止め、アリスたちを見おろしてから迷路の中に消えていった。
それから間もなく、アリスたちの体を地面に縫い付けていた力が消えた。まだ痛みの残る手首をさすりながら、アリスはゆっくりと起き上がった。
魔術は一度しか使えない。しかし、こんな大人数を、しかも上級見習いまで地面に縫い付けることができる魔力があるのなら、最初に足止めに使うだろう。戦略など一つも知らないアリスでも、真っ先に思い付いた。「始まってすぐ、私が爆発でも起こせばいいんじゃない?」と。
もし、それを実行しても、失敗していただろうけれど。あの親戚(仮)の魔術に、アリスは対抗することが出来なかった。アリスが爆発を起こしたとして、彼に抑えられて終わっていただろう。
体の自由を取り戻した他の魔術師たちは、一斉に迷路の入り口に向かって走って行った。入口付近で戦っているのか、発砲音や爆発音、刃物がぶつかり合う音なんかが聞こえてくる。アリスの代わりに、爆発騒ぎを起こしている人も。
立ち上がったアリスは、呑気に土を払うパウラに「どうするの?」という目を向けた。今、アリスたちはスタートダッシュに失敗したうえ、そのスタートすら切れずにいる。
「そんな不安そうな顔をしなくても、大丈夫だよ」
パウラはアリスに微笑みかけ、チームメイトの顔を見た。
「分かったよ、さっきの違和感の正体。人数だ」
「何の人数ですか?」
「全体の人数。四カ国併せて、最低でも三百人の魔術師がいるはずだ。でも、ここにはその全員がいない。八十人ちょっとくらいかな。その証拠に、ルカ兄さんたちや、ヒューたちもいない」
その言葉に、アリスはハッとした。確かに、ここに来てから知り合いを見ていない。
それに、石塀があるせいで圧迫感があり、いつもより中庭の入り口が狭く感じる。そのせいで、八十人しかいないのに、多くの人間がいるように錯覚してしまったのだろう。
「——つまり、入口は複数あるんですね?」
皓然はパウラを見つめた。
「人数的に、恐らく入口は四つ。そして、全ての入口に強い魔術師を最低でも一人、配置しておく。そうすれば、ジャン王子がなさっていたように、他を抑えて最初に迷路に入る魔術師が現れる」
「ポイント付与には人数制限がある。確実にポイントがもらえるよう、みんなこぞって入口に殺到する。上級の先生たちにポイントをもらえるとはいえ、それは確実じゃないからね」
二人の推理に、アリスとアダンは拍手を送った。本当、先輩たちが頼もしくて嬉しい限りだ。
しかし、次の疑問が浮かび上がる。
「具体的に、俺らはどう動く?」
レオはパウラを見つめた。
「入口のこと、簡単な心理学は分かった。ゴールの場所は分からないけど、入口があれじゃ、俺らも中に入れない。あそこで貴重な魔術一回分を消費したくはない」
すると、パウラはレオにニヤリと笑って見せた。
「迷路で迷うのって、何度曲がっても同じような景色ばかりで、自分の現在地が分からなくなるせいなんだ。だから、紙に書いた迷路はすぐに解ける。スタートとゴールの位置が分かっているから。そこまで複雑じゃないものに限るけどね」
「なるほど!」レオはパッと顔を輝かせた。「じゃあ、ゴール位置が分かるように、クロエに上から見てもらえばいいんだ! そしたら、魔術じゃないから制限も関係ない!」
「まあ、そうだね。でも、もっと簡単に勝つ方法がある」
今度は、一年生二人は一緒に首を傾げた。正直、アリスには「壁を壊しながら進む」しか、他のゴール方法が浮かばない。
「ダリア先生からのお題は、『迷路から脱出すること』。ゴールを目指すことじゃない」
「……ああ、なるほど! しかしですよ、パウラ」
腰に手を当て、皓然はリーダーを見つめた。
「ぼくがたどり着いた答えが君と同じなら、とんでもなく性格の悪い競技ですよ」
「なら、ボクと考えていることは同じだ」
「——あ、俺も分かったわ。これ絶対、エスコおじっ……、先生が考えただろ」
先輩たちはそういうが、アリスたちにはさっぱりだ。
「ねえ、ぼくらにも分かるように説明してよ!」
アダンの言葉に、パウラは笑って答えた。
「ボクらはもう、ゴールを見つけてるってこと」
……まだ、分からない。
アリスとアダンが顔を見合わせている中、パウラは「皓然」と補佐役を呼んだ。
「君の一回分、使わせてもらうよ」
「どうぞ。パウラがやったら、魔力不足で倒れちゃいますもん」
クロエをアダンに預け、皓然は腕まくりをしながら入口に向かって歩き始めた。
でも、何かがいつもと違う。彼が一歩一歩、歩く度に、何か肌がひりつくような……。
「レオは、念のため麻酔銃を用意しておいてくれ。アイツが暴走したら、遠慮なく撃ち込め。——さて、アリス、アダン。いいか、ボクらがすべきことはたった一つだ」
アリスとアダンの肩を叩き、パウラは笑った。さっきまでとは違って、どこか引きつった笑顔だった。
「全力で、あそこで団子になってる人たちを皓然から守るぞ」
「え?」
アリスとアダンがパウラに聞き返した時、皓然は「ちょっとだけ、ちょっとだけ……」と呟きながら歩いていた。
少しでも加減を間違えれば、皓然はアゴーナス強制退場どころか、牢獄に囚われることになる。それだけは、何としてでも避けなければならない。
入口から三メートルほど離れた場所で止まった皓然は、大きく深呼吸してから右の拳を固く握って振りかざした。これが、パウラたちへの合図。
「アリス、アダン! 団子のやつらに防御魔術!」
「『背水の陣』、五パーセント」
パウラの指示に驚きながらも防御魔術を展開した直後、皓然の拳が当たった地面が、一気にへこんだ。入口に固まっていた魔術師たちは一斉に空へと舞い上げられる。防御魔術が無かったら、掠り傷では済まなかっただろう。
団子になっていた魔術師たちは驚いているまま、シルフの風によって迷路の中にゆっくりと着地させてもらった。さっきまで入口に入るために争っていたのに、気が付けば念願の迷路の中だ。
「さっきの、アエラスの黄……」
ネロの魔術師が呟いた瞬間、背後から悲鳴が上がった。
振り向いて、彼女も悲鳴をあげたくなった。そこには、ハルピュイアやレッド・キャップなど、ありとあらゆる魔物たちがいたからだ。
襲い掛かってきた魔物たちの攻撃をよけながら、みんなハッとした。
魔術はもう、使えない。さっき、入口を通る時に使ってしまった。これでは、防御も出来ない。
それに、なんだか眠くなってきた。甘い匂いがして、頭がボーッとしてくる。
危ないのに、寝たら殺されるの、に……。
その場に倒れこんだ魔術師たち、それに、彼女たちを襲おうとしていた魔物たちの体に、太い蔦が巻き付いた。蔦の持ち主は、どんどん大きくなっていき、派手な色の花弁を持つ、肉食植物になった。柱頭部分には、鋭い牙が並ぶ大きな口。
久方ぶりの食事に胸を踊らせていた肉食植物だったが、あと少しという所で人間たちの姿が消えて、怒りの声をあげた。
お読みいただきありがとうございました!




