60.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
無事にローズの件を解決したアリスたちだが、次に立ちはだかるのは、魔術師の祭典「アゴーナス」と期末テスト。鬼のようなハードスケジュールに、アリスは疲れ切っていた。
ついに、アゴーナスの前日までやって来てしまった。
この日、授業が終わった後にアドワが明日の流れを簡単に説明してくれた。「一年生全員参加の、エキシビションが最初にあるから」と最初に爆弾を投下してから。
「エキシビションは一年生のお披露目でもある。もちろん、このエキシビションでも結果を残せばポイントがもらえる。その後休憩をはさんで、前半戦の試合。翌日には後半戦、表彰の順に進んでいく。その二週間後には学期末テスト。それも終われば期末のパーティーと、君たちが待ちに待っていた夏休みだ」
ちなみに、競技内容は当日になるまで分からないらしい。情報開示が少ないのは、ありとあらゆる状況に置かれても行動できるようにする、一種の訓練であるから、らしい。
昨日、パウラがそう言っていた。
だから、アリスたちは流れしか知る事が出来ず、具体的にエキシビションでは何をするのか、アゴーナスの競技内容について、全く情報がないまま臨まなければならなかった。
おまけに、学期末のテスト勉強までしなければならない。
初めてのことだらけの一年生と、まだ慣れていない二年生は疲れ切っているが、三年生になれば慣れてくるのか、それ以上の学年はケロッとしている人が大半だった。
薄っぺらい説明だけされて帰されたアリスは、桃子、セレナ、アダン、ユーゴ、俊宇の仲良しメンバーで昼食をとった。最近は、この六人で一緒にいることがほとんどだ。授業の席はもちろん、休み時間やお昼ご飯、それに休みの日には一緒に遊ぶ仲だ。
「アゴーナスだけで手一杯なのに、テストまであるなんてぇ……」
オレンジジュースを飲み、桃子は遠い目をした。
「私、テストまじで危ないんだよ……。セレナちゃん、教えてぇ。助けてぇ」
「もちろん。みっちりしごくからね」
桃子に笑いかけたセレナの笑顔が、なんだか怖かった。
セレナは、成績優秀ということで推薦をもらって魔術師になったのだという。魔術界版の全国統一模試の様なものがあり、セレナはそのトップ争いの常連だった。確かに成績は良いが、魔術師家系でもないセレナだけが魔術師の推薦をもらえた理由は、不明なのだという。他のトップ争いの子たちには、推薦の「す」の字も無かったのだという。
それに、ユーゴも頭が良かった。元々、魔術師マニアである彼は、幼い頃から魔術師たちに勉強を見てもらったり、どんな勉強をしているのか教えてもらったりしていた。ある意味の英才教育を受けていた彼は、魔術師家系でないことを埋め合わせるためにも毎日の勉強を欠かしていないのだという。
俊宇と桃子の成績は中の上あたり。二人とも文系の科目はとても成績が良かったが、理系科目が苦手らしかった。
特に、物理系。別世界にもあるような、滑車問題などが出てくる度、俊宇は「……滑車使うのやめれば、解決」と問題に悪態をつき、桃子は「理系科目の問題は、大体、一か、ゼロか、二分の一が正解だから!」と当てずっぽうで答えていた。
そして、アリスとアダンの二人の成績は、褒められるようなものではなかった。小テストなんかも、点数を見てあの皓然が黙って顔を覆ってしまうほど。彼が静かに息を吐く音は、聞いているだけでとても怖かった。まるでテスト返却後のアンのようで、本人には言えないが、全く生きた心地がしない。
アリスは俊宇と違って、理系科目は得意で、文系科目が苦手だった。作者の心情だとか、登場人物の気持ちだとか、そんなことを言われたってアリスに分かるわけがない。その人の考えを勝手に考えて決めつけるだなんて、失礼ではないか。
それに、魔術界の歴史だなんて全く分からない。全部が初めてなのだから、みんなも知っている常識問題でさえ、アリスは全く聞いたことがない。さすがに、猿人の進化の過程とかは知っているけれど……。
そして、アダンは全科目が赤点すれすれだった。この世界の補講は、依頼などで受けられなかった授業の代わり、という意味合いが大きいのだが、彼の場合は単純に成績が振るわないので先生に呼び出されていた。
勉強するように言ったパウラに、「だって、今という瞬間は今しかないんだよ? 今を楽しまないで、いつ楽しむっていうのさ」と真っ直ぐな目で言ってのけ、メアリーとパウラを心底悩ませていた。アダンの言葉にどこか納得してしまったのが二人の敗因だと、話しを聞いていた皓然が呟いていた。チームの統率者であるパウラと補佐の皓然は、全員の成績や魔力レベルなどを把握しているから。
どうやら、テストが返されると保護者に怒られるのは、全世界共通のようだ。
「……そんなことより、……アゴーナス」
勉強が嫌いな俊宇は、話の内容を変えてきた。勉強が嫌いだからこそ、補講で勉強させられないよう普段からコツコツと勉強しているらしい。アリスには全く理解できない理屈だ。
「……個人なのか団体なのかすら、……謎」
「確かに。あ、でもアゴーナスって中継されるんでしょ?」
桃子はパッと顔を輝かせた。
「だったら、これまで何してたのか分かるじゃん! 対策出来るよ!」
「エキシビションも毎年内容が変わるから、正直参考にはできないよ」
ユーゴは肩をすくめた。
「去年は指定された人とチームを組んで、指定された魔物を倒す、だったかな。そう言えば、去年はとにかくチームメンバーをバラバラにしてきたんだよな。おかげで、アエラスはボロ負け」
「どういうこと?」
アリスが首をかしげると、セレナが「アエラスの強みはチームワークだからね」と教えてくれた。
「他の三か国に比べて、チームワークがしっかりしているイメージ。アリスの所みたいに、誰が切り込み隊長で、誰がサポートで、っていうのがハッキリしてる。でも、他国の魔術師たちは、かなり自由。『今日は魔術の気分だから、切り込み隊長したくない!』みたいな。良く言えば柔軟な行動が出来るかな。急に、レオ先輩が最前線で、皓然先輩が魔術サポートで、パウラ先輩が後方支援になったら、戸惑うでしょ?」
「うん。タイミングが合わせられないかも」
「そういう事。しかも、メンバーは初めましての人ばっかり。持ち味のチームワークを活かせず、去年のアエラスは総合得点で最下位になっちゃったの。おかげで、去年は犯罪が多かったのよね。『アエラスが一番、魔術師たちが弱いぞ!』ってイメージを持たれちゃって。まあ、実際はそんなことないから、今はかなり犯罪件数も減ったけど」
「……俺たちの成績、……国の平和に直結」
アリスと桃子が音を立てて唾を飲み込むと、ユーゴが空気を切り替えるように、明るい声で話し始めた。
「でも、うちの国には上級見習いが三人もいるんだから、心配ないよ! 歴史的に見ても珍しいんだぜ、チームメイト全員が上級見習いなんて!」
「へえ、そうなんだ」
「他人事みたいに言っているけど、アリスのお兄ちゃんの話よ?」
テーブルに肘をつき、セレナは肩をすくめてアリスを見つめた。
「ラファエル先輩のチーム。全員が上級見習いよ。念のためだけど、メンバーは分かる?」
「ラファお兄ちゃんと、牡丹と、ローガン?」
「正解。ちなみに、ローガン先輩は国王陛下の付き人もしてらっしゃるのよ」
「へえ」
そんな人に狙われそうだなんて、考えただけでも恐ろしい。自分のためにも、パウラたちのためにも、何とかしてそのローガンから逃れなければ……。
「あれ?」
ふと、アリスはあることに気が付いた。
「ラファお兄ちゃんのチーム、全員が上級見習いなのに優勝してないの?」
去年はことごとくチームをバラバラにされたとは聞いているが、シオンが所属しているチームが団体戦の優勝チームだと聞いている。恐らくだが、前半か後半のどちらかは本来のチームで動いているはずだ。
アリスの問いに、アダンが「仕方ないよ」と天井を仰いだ。
「去年、後半戦が本当のチームでの団体戦だったんだけどさ、ローガンたちはフォティアのヴィトゥスのチームと鉢合わせて、そこでドンパチしちゃったんだ。ライバルチームだからね。あ、フォティアにも上級見習いだけで構成されたチームがあるんだ。あっちも三人組。昔から、とにかくローガンとヴィトゥスの馬が合わないのなんの。顔見た瞬間に戦いだすんだから。それで引き分けるし、優勝はお預けってわけ」
「そう言えば、胡蝶家の蝶ちゃんがヴィトゥスチームだよね?」
桃子の問いに、俊宇は頷いた。
「……ネロの澄玲先輩と、……瑾萱先輩、……ガイアのホア先輩、……兄貴もそう」
「あ、そっか。俊宇のお兄ちゃんも上級見習いだもんね」
「……この前彼女に振られて、……今めちゃくちゃ機嫌悪い」
「いいよ、梓睿くんのプライベートは話さなくても……。相変わらず仲が良いなとは思うけど」
「……桃子の所も仲良し」
「うちの柚希は良い子だからね!」
「……うん。……良いシスコン」
「ちょっと!?」
どうやら、千夜族についてはこの二人に聞けば情報は手に入りそうだ。
それにしても、改めてメンバーを聞くと、上級見習いがいるチームのほとんどに千夜族が入っていた。しかも、決まって少数精鋭。二人から四人で行動しているチームが多いように思える。
そして、運が悪ければローガンたち以外の実力者に捕まる、と。
一般魔術は粗削り、家系特性は名前しか知らない。そんなアリスに不安が付きまとうのは、当然のことだった。
お読みいただきありがとうございました!




