59.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
魔術師の大会アゴーナスに、期末テスト、人間に戻れないローズ……。様々な問題を抱えて疲れ切っているアリスたちの前に、驚くべき人物が姿を現した。
その後、部屋に帰るまでの間はいつも通りだった。
「…………え?」
部屋のドアを開けた皓然が黙ってドアを閉めたので、アリスたちは一斉に首を傾げた。彼がこんな風に戸惑うなんて、珍しいこともあるものだ。
「何してんだよ。早く開けてくれよ」
「……えっと、パウラとアリスで確認してもらえます?」
なぜか頬を赤らめる皓然は、女性陣にドアを指さして見せた。
「ぼくは、その、……一瞬しか見てませんから!」
「はあ? 君、疲れてるのか?」
呆れながらもパウラはアリスに手招きし、ドアノブに手をかけた。なぜか、皓然はレオとアダンの二人と一緒に、部屋に背を向けた。
恐る恐る、パウラが代表して薄くドアを開けて、アリスはその隙間を覗き込んだ。そして、そこにいた人を見て、思わず二人でドアを大きく開けてしまった。「えーっ!?」と大きな声まで上げて。
ドアの前に、銀髪の少女がいたからだ。美しい顔立ちをしているのに、床に座り込んでいる。何より、彼女の小さな頭には狼の耳、それに腰にはしっぽがついていた。
それも、素っ裸で。
「ちょっ、パウラ! ドア閉めて!」
「え、あ、そっ、そうだな! ボクらが許可するまで、部屋に入って来るなよ! いいな!」
男子三人に慌てて指示して、二人は部屋に入ってドアを閉めた。
目の前にいるのは、波打つ銀髪と、琥珀色の瞳を持つ、一糸まとわぬ姿の美少女。しっぽを元気よく左右に振り、ニコニコしながら驚いている二人を見上げていた。
「ロ、ローズ?」
パウラのその問いに、少女は元気よく返事した。ただ、人の言葉は話せないのか「あう、あう!」と意味を持たない単語を並べているだけだった。
「パ、パウラ、どうしよう……」
素っ裸なのだから、彼女が何か武器の類を持っていることは無いだろう。だが、身元不明の人がいる。これは大事件だ。
何より、少女の特徴がローズ・マルタンのものと一致していること。これが二人の思考を邪魔していた。ローズには人間の血が流れているので、そもそも人間に変身する能力を持っているのだから、ありえない話ではない。ありえなくはないのだが……。
とりあえず、パウラは少女に服を着せ、アリスはダリアにローズと思われる少女がいたことを報告した。
駆け付けたダリアと一緒に部屋に入ったレオは、パウラとアリスに挟まれてきょとん、としている少女を見て、息をのんでいた。
アリスにもしたように、少女からも血を数滴失敬したダリアが下したのは、この少女は、やはりローズ・マルタンで間違いない、ということだった。
「魔力や血の成分、過去に記録していたグレースとアンリとの遺伝子情報とも合致します。間違いなく、この子はローズ・マルタンです」
ダリアを警戒するローズを見つめ、アリスたちは開いた口がふさがらなかった。
彼女を人間の姿に戻すことが目的で一緒にいたのだから、これは喜ばしいニュースだ。
ただ、心の準備が出来ていないというか……。
駆け付けたフェリクスも、この少女はローズで間違いないと断言した。ローズにじゃれつかれて、それをかわしながら。
「無意識に人間になったんだと思います。耳としっぽはそのままだし、まだ四足歩行しようとしているし……。言葉も、ありませんしね」
そこで、アリスは部屋から手鏡を持ってきて、それにローズを写した。これで今の自分を見れば、芋づる式に色々と思い出してくれるかもしれない。
「……?」
ローズは手鏡に触れ、その後ろを覗き込んで誰もいないことを確認して、まるっきり自分と同じ動きをする鏡に写った自分に威嚇して、と忙しそうにウロウロしていた。フェリクスも言っていたように、四つん這いになって。
だが、ふと。急に歩き回るのをやめ、ジッと手鏡を見つめ始めた。
そろそろアリスの腕が疲れてきた時。急にローズの身に変化が起こった。
ローズの耳が、しっぽが、どんどん小さくしぼんでいった。ずっと床を掴んでいた手は膝に、代わりにお尻は床にペタンと、ついた。
「あ、あ……」
ローズは顔をあげ、手鏡を持っているアリスを見つめて口をパクパク動かした。
「あ、ぅ……、あ、ぃ、あ、りす」
「ローズ!」
アリスの隣に、レオが涙を浮かべてやってきた。彼女の肩を掴んで、「ローズ!」ともう一度名前を呼ぶ。
すると、ローズも涙を浮かべながらレオに微笑んだ。
「え、ぇ、お、……れ、お」
「そう、そうだよ、ローズ。レオだよ。良かった……!」
そう言うなり、レオは勢いよくローズの体を抱きしめた。アリスたちに見られていようが、お構いなく。涙を流しながら「良かった」と繰り返し、ローズの銀髪を撫でた。
「れ、お……、れお……!」
レオに抱きしめられながら、ローズは涙を流しながら笑っていた。
***
「れお、おにぃ、あーり、す、……あう、ら、……あ、あ、だん、……あ、あ、あお、ら!」
レオ、フェリクス、アリス、パウラ、アダン、皓然に順番に握られた手を向け、ローズは名前を呼んでくれた。ダリアは、まださっきのことがあるので、レオの陰に隠れて「えんえ」と威嚇しながら。
どうやら、毎日声をかけていて正解だったらしい。ローズはその後も、「おんいちあ」、「おあうみ」など、拙いながらも話をしてくれた。フェリクス曰く、ローズが舌足らずなのは、狼と人間とで舌と喉の使い方が違うかららしい。こちらも慣らす必要があり、少しずつ改善していくだろう、とのことだった。
「それにしても、こんなに早く人間になるとは」
相変わらず床に座るローズの頭を撫でて、フェリクスはポツリとこぼした。少なくとも、半年はかかるだろうと睨んでいたから。
それなのに、たったの一か月ほどで人間になったのだから、それほどローズが強く人間の姿になりたいと思ったのだろう。それに、アリスたちがローズと真剣に向き合っていたことの証明でもあった。
感動の最中にあるアリスたちを現実に戻したのは、ダリアの手を叩く音だった。確かに、おめでたいことではある。しかし、それと同じくらい大事なことが山ほどあるのだ。
「これで、マルタン兄妹はアエラス国民としての権利を回復させました。これからは王宮が責任をもって、あなた方を親として守ります。そこで質問ですが、あなた方はこれから何をしたいと思っていますか?」
「魔術師にしてください」
ダリアの問いに、フェリクスは間髪入れずに答えた。ローズも兄の言葉に何度もうなずいている。
「兄妹そろって、魔法使いにならないままの頭の作りですが」
「そうでしょうか。少なくとも、魔術師レベルの知識を持っていると思いますよ」
兄妹二人だけでこれまで生き残ってきたのだ。野草や森などのサバイバル知識、勘の鋭さ、それにカプロスに二匹だけで立ち向かった勇敢さから、二人はすでに国王から魔術師になるための権利を得ていた。
それに、二人の両親と同年代の国王は、兄妹の知識量について何の心配もしていなかった。
「では、あなた方を魔術師として迎え入れましょう。ただし、夏休み明けからです。パウラ・ツヴィングリたちはアゴーナスと期末テストもありますし、あなた方の勉強を見ている暇はないでしょう。マルタン兄妹は、今日からしばらくの間、私の部屋に来なさい。生活時間を整え、詰込みになりますが勉強しましょう。年齢で言えば、あなた方は五年生と三年生になりますが、テストの結果によっては一年生からスタートするかもしれません。それでも、魔術師の編入試験を受けますか?」
それに力強くうなずいた兄妹は、今からダリアの元へ行くことになった。
元々、荷物などなかったので二人は手ぶらのまま立ちあがった。だが、おもむろにローズは再びレオに抱きついた。
「おかえ、い、れお」
「……ただいま。おかえり、ローズ」
ローズを抱きしめ返してから、レオはその手を外した。
ドアが完全に閉じられて、パウラと皓然は脱力しきり、アダンは「なんか寂しいや」と、ローズがいた柵を覗き込み、レオはジッとドアを見つめていた。
まだ、レオの手にはローズの温かさがが残っている。
ずっと、ローズたちを残して別世界に行ってしまったと思っていたレオにとって、ローズに「おかえり」と言われたのは予想外の出来事だった。
アリスはそっと兄の顔を覗き込み、「良かったね」と笑いかけた。レオが誰よりもローズのことを心配していたことを知っているから。
「今度は、私にも小さい頃のお話聞かせてね」
「うん。……うん?」
レオはまじまじとアリスを見つめた。
「私『にも』?」
「あ、やば」
レオの顔がどんどん赤くなっていくのを見て、アリスは一目散に逃げだした。すぐにレオもアリスの後を追って走り出す。みんなには内緒でローズに昔の話をしていたのが、アリスにバレていると気付いたから。
「……ランフォード兄妹って、いつも元気だよな」
「ですねぇ。……今日の夕飯、食堂でいいですか? もう、作る気力が無くて……」
「じゃあ、ぼくがテイクアウトしてこようか?」
立ち上がったアダンに、パウラと皓然はソファに深く座り込んだまま「よろしく」と手を振った。「そう言えば、この子もいつも元気だな」と思いながら。
結局、アダンが夕飯を持って帰ってきてくれるまで、ランフォード兄妹は部屋の中を走り回っていた。
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