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56.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。

 ——勇者ナターリアは言いました。


 私の剣を、村の中心に刺しなさい。結界となってこの村を助けるでしょう。


 私の鎧を売りなさい。支払われた代金で、子どもたちに温かい服と食事を。


 私の髪を切りなさい。故郷の母に渡して欲しい。母はきっと喜ぶでしょう。


 私の首を、()ねなさい。もう、どうせ長くは生きられない。それなら、その薬は助かる人に使うことができるから。


 そうして、勇者ナターリアは、村長に首を切られて死にました。


 たくさんの人が涙を流しました。


 村人たちは勇者ナターリアのために、立派なお墓を作りました。


 そして、勇者ナターリアに言われた通りにしました。


 剣は村を守る結界の心臓となり、村の子供たちは温かい服を着て、たくさんの食べ物を食べて、厳しい冬を乗り越えました。


 ナターリアの美しい銀色の髪は、彼女の故郷に送りました。彼女の母は、娘が帰ってきて涙を流したことでしょう。


 平和な時代がやってきました。


 みんな、みんな、幸せに暮らしました。


 今でも、その村には勇者ナターリアの剣が残っています。自分が真の勇者と言う者は、この剣を抜きに行きなさい。


 この剣を引き抜くことができた者が、次の勇者となるでしょう。


 ***


「——ぼく、このお話嫌い」


 膝を抱えてそう言うと、幼馴染の銀髪の少女は首を傾げた。


「なんで? みんな幸せになったよ?」


「ナターリアが、幸せになってない」


 ナターリアが可哀相で、絵本の挿絵をそっとなでた。丁度、勇者ナターリアが村人たちにお願い事をしているシーン。


 レオの一番嫌いなシーンだ。


「なんで? ナターリアはお願いを叶えてもらったんだよ?」


「でも、ナターリアが幸せになれるためのお願いじゃないよ。みんな、ナターリアじゃない人が幸せになるためのお願いだよ」


 泣いてはいけないのに、ポロリと涙がこぼれ落ちた。


「これじゃあ、ナターリアが可哀そうだよ……」


 ポロポロ、ポロポロ。


 青い瞳から降ってきた大粒の雨で、ナターリアたちは凸凹になってしまった。


「泣かないで。レオ、泣かないで」


 しゃくりあげて泣く自分の頭を撫でてくれるローズの手は、不器用だけれど、優しかった。


 絵本やアニメを見て感情移入して泣くたびに、母は「レオは、とても優しい子なのね」と言った。「人の立場になって泣けるのは、素敵なことよ」と。


『でもね、あまり人のことばかり考えていたら、疲れちゃうから。自分のことも考えられるようになれたらいいね』


 自分以外のことなら、ちゃんと考えている。


「レオ、泣かないで。大丈夫だよ」


「ローズも、こんな風になっちゃうの?」


 その、考えている人の琥珀色の瞳をジッと見つめた。


「女の子は、みんな魔術師になって、戦っちゃう。ローズも魔術師になったら、ナターリアみたいに死んじゃうの? 嫌だよ。そんなの、嫌だよぉ……!」


「死なないよ」


 ローズは、レオのことをぎゅっと抱きしめた。


「ロジーのパパは、狼人間だもん。銀の武器で攻撃されない限り、死なないよ」


「じゃあ、銀の武器はぼくがやっつける」


 魔術師になるのが、ローズの夢ならば。


 レオの夢は、ローズとずっと一緒にいることだから。


「ママが言ってたよ。魔術師は、みんなで助け合ってるんだって。だから、ぼくたちも助け合えば、きっとローズも死なないよ」


「レオも魔術師になるの?」


「うん。ローズを守るために、魔術師になる」


「約束だよ?」


「うん、約束」


 ***


 ——約束を破ってしまった。


 ローズのためになった魔術師のはずなのに、ローズを見つけ出すのに十年もかけた。


 怒るかな。


 ローズのことだから、人の言葉が話せたら「仕方ないよ」と笑うかもしれない。


 でも、そうじゃないんだよ。怒って欲しいんだよ。


「私のこと、守ってくれるんじゃなかったの?」って。


 そうじゃなきゃ、約束を破った自分のことを責めに責めきれないから。


 ——ああ、嫌になる。


 俺って本当に、自分のことしか考えてない。

お読みいただきありがとうございました!

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