55.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
ついに依頼の日を向けたアリスたち。
すると早速、パウラと皓然が何かを見つけたようで……?
「——見てくださいよ、魔術師様! これも全部、狼にやられちまったんです!」
依頼人の男性が言う通り、畑はかなり荒らされていた。野菜を食べたというよりも、掘り返されているように見える。いや、ほとんどに口を付けていなかったが、いくつかには齧った後が残っていた。
「……」
齧られたニンジンを観察するパウラに代わり、「これは確かに、酷いですね」と皓然は顔をしかめて見せた。
「それで、狼はどのような行動を?」
「畑の中をあちこち走り回っては、急に止まるんです! これを繰り返すんですよ!」
「なるほど……」
メモを取る皓然は、あることに気が付いてしゃがみこんだ。
「……すみません。質問なのですが、家畜などはいますか?」
「いいえ、いやせんよ」
「そうですか……。ちなみに、どうして狼が荒らしていると分かったのですか?」
「そりゃ、遠吠えですよ! 夜中だってのに、大きな声で鳴くんですから! それにね、窓から覗いてやったんですよ。犬よりでかくて、鼻がシュッとしてた。あれは狼で間違いねぇですよ!」
「それは確かに、困りますね」
立ち上がってからも、皓然はしばらく地面を見つめていた。
狼は夜に来るとのことで、アリスたちは畑が見える納屋小屋を借りて、狼が来るのを、息を殺して待った。
「ねー、小然。暇ぁ。ご本読んでー!」
「姉さん、依頼中ですよ」
「桜花ちゃん、こっちで私とキラキラ見よっか」
「見るー! サラ、好きぃ!」
桜花は宝石があればうっとりとして静かになるので、静かにさせるためにサラが桜花の前に宝石箱を出した。ちなみに、全て食玩の玩具だ。
「キラキラ、きれーい……」
「そうだねぇ」
そんな桜花を見て肩をすくめてから、皓然は何やら考え込んでしまった。それに、パウラも。チームでも切れ者の二人がこんなに考えているなんて、珍しいこともあるものだ。
「二人とも、何か気付いたことがあるんだろう」
ポラリスから聞こえてきたルーカスの声に、パウラは小さな声で答えた。
「野菜についてたあの歯形、狼のものとは違う気がするんだ。何かで見たんだけど、何だったか思い出せないんだ。それに、依頼人が言っていた狼の行動も気になる。走っては立ち止まる、走っては立ち止まる……」
「皓然は?」
「畑に、二種類の足跡がありました。だから、家畜とか他の動物がいないか確認したんです。この近くにも家畜小屋はないみたいだし、家畜が逃げてた、っていうのは考えにくいかと」
「二種類の足跡?」
パウラがパッと顔をあげた。
「皓然。その足跡、何の足跡か分かるか?」
「一つは、恐らく狼で間違いないと思います。犬っぽいけど、細かったので。もう一つは、偶蹄目の動物だと思います。蹄の痕がありました。結構大きくて……、六十センチくらい?」
三人の会話を聞いて、アリスは驚いていた。パウラと皓然が気付いた歯形や足跡のことに気付いていなかったし、狼の行動に疑問も持たなかった。
それに、二人の意見を述べる機会まで作ったルーカス。彼が二人に意見を言わせなければ、アリスは見落として終わっていただろう。
すると、今度はレオも手をあげた。
「それを聞いて、俺も疑問に思ったんだ。どうして依頼人は、窓から覗き見ただけなのに、犬より大きいとか、鼻がシュッとしてるとか分かったんだろう? 多少の明かりがあったとしても、そこまで詳しく見えるもんなのかな。体毛が明るい色なら、分かるけど……」
その意見を聞いて、パウラがハッとしたように顔をあげた。
「もしかしたら、狼は畑を荒らしていたんじゃないのかもしれない!」
「そうか! もう一つの足跡の動物を、追い払おうとしてたんですね!」
皓然は指を鳴らした。
「それなら、狼の行動にも納得がいきます! 走っては立ち止まる、それに遠吠え。威嚇していたのかもしれません! それに、体毛が明るいのは狼人間、野生の狼ではないです!」
「じゃあ、答え合わせと行こうか」
むくりと起き上がったポラリスの紫色の瞳は、窓の外に向けられていた。
アリスたちも、そっと窓の外を覗き見て、声が出そうになるのを何とか抑え込んだ。
窓の外には、銀色の狼が二匹いたのだ。どちらも、こちらに背を向けて森を警戒している。
それだけでも驚きなのに、さらに驚くべきものが登場した。森の奥から巨大なイノシシが現れたのだ。狼たちより三倍の大きさがありそうだ。鋭い牙が四本も生えていて、赤い目で狼たちを睨みつけている。
「ああ、あれはカプロスの足跡だったのか」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、皓然……」
憑き物が落ちたような顔をする皓然に、アダンは首をすくめた。普段はしっかりしているくせに、変なところで抜けているのがこの先輩だった。
そうこうしている内に、イノシシは猛スピードで狼たちに向かって突進していった。突進が外れて苛立っているのか、畑に入れたというのに野菜を食べようとしない。
地面を蹴り上げたイノシシは、まず小さな狼に向かって突進していった。しかし、狼にかわされてしまい、ものすごい勢いで森に突っ込んで行った。何本もの木々が倒され、ズズンと大きな音と衝撃が伝わってきた。
「なんだぁ!? うわぁ!」
「あっ! あのおじさん!」
レオが頭を抱え、依頼人の男性を睨んだ。しかし、こちらは納屋にいるので、男性は気付いていないようだ。
依頼人の男性とその家族には、危険だから絶対に家から出るなと言っていたのに。
「桜花! サラ! 依頼人を守れ!」
ルーカスの声に、二人の元気な「りょーかい!」が聞こえてきた。
イノシシは大きな声に驚いたのか、依頼人の男を新しい標的にしたらしい。狼たちではなく、依頼人に向かって勢いよく走ってきた。
「はい、ストーップ!」
五歳とは思えない足の速さで依頼人とイノシシの間に割り込んだ桜花は、イノシシを一人で抑え込んでしまった。
土煙が晴れると、桜花が牙の一本を抑えているのが見えた。それから、サラは依頼人の男の前に水の膜を作っていて、それで飛んできた石や土を防いでくれていた。
「おじさま、お怪我はない?」
「な、ない……」
「じゃあ、最初にお話ししたようにお家に入っててくださいね」
依頼人の男が家に入っていくのを見送って、サラは改めてイノシシと向かい合った。桜花が抑えているとはいえ、イノシシはなおも突進しようとその場で足を動かしていた。
狼たちは驚いた様子でその様子を見ていたのだが、納屋からアリスたちが姿を現すと更に驚いたようだ。二匹は合流し、アリスたちをまじまじと見つめている。
「ねー! ルカか、パウラ、早くイノシシさんのこと、おねんねさせてよー!」
「わかってるよ」
その言葉を最後に、ルーカスの言葉は途切れた。代わりに、美しい笛の音色が聞こえてきた。ゆっくりとした曲調がイノシシを囲み、ものの数秒でイノシシは眠りについてしまった。さっきまでせわしなく動いて足も静かになり、イノシシは力を失ってその場に倒れこんだ。
「これが、『楽団』の『伴奏者』です。ね、威力半端ないでしょう?」
耳打ちしてきた皓然に、アリスは黙ってうなずいた。綺麗な曲だと思っている内に、暴れていたイノシシを寝かせてしまうとは。
みんなでイノシシの足を縛り、麻酔も打ち込んで更に深い眠りに誘い込んでから、警備隊にイノシシを引き渡した。依頼人に事の流れを説明し、依頼人はおずおずと頷いてくれたのだが、疑問点があったようだ。
「あの狼たちは、どうなるんですかい?」
「それは、……今から調べます」
パウラが依頼人に答えている間に、レオはそっと狼たちに近寄った。狼たちはあのまま、動かずにこちらを見ていたから。
銀色の、二匹の狼。二匹の体の大きさは、一回りほど違っているようだ。
レオには、見覚えがありすぎた。
「——あの」
「その魔力、レオか?」
大きい方の狼が、若い男の声でそう尋ねてきたから、狼たちの正体が確定した。
マルタン兄妹だ。十年も行方不明だった、レオの幼馴染。
レオは音を立てて唾を飲み込んだ。
「そうだよ」
「明日の、月が上る時間。湖で待っている」
そう言い残し、狼たちは森の中へ走り去って行ってしまった。
アリスたちはまず、依頼が完了したことと、マルタン兄妹が見つかったことをメアリーに報告した。それから、フェリクスとレオが明日会う約束をしたことも。
メアリーはマルタン兄妹が見つかったことを喜んだが、まだ分からないことも多いため、大々的に発表はしない、と言ってくれた。その代わり、ダリアと国王には報告するらしい。
桜花が捕まえたイノシシは、カプロスという有名な個体だった。普段は標高の高い山にいるらしいのだが、時々麓まで降りてきて畑を荒らしたり、人を食べたりするらしい。
しかし、ここは空中都市キュクノスだ。森こそあれ、山は無い。
つまり、カプロスがここにいる訳がない。
その調査には、アリスたちが就くことは無かった。メアリー曰く「ここからは、私たちの仕事だから」らしい。
お読みいただきありがとうございました!




