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54.

〈注意事項〉


※15歳以上推奨作品です。

※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。


〈あらすじ〉

 次の依頼にある暴れ狼とは、もしかしたらレオの幼馴染兄妹、フェリクスとローズかもしれない。

 それが分かってから、レオの様子がどこかおかしくて……。

 その日の晩。


 アリスは魔術界に来て初めて、レオの部屋を尋ねた。もう寝るつもりなのでパジャマだが、何となくレオにローズのことを聞いておきたかった。


 レオは驚いていたが、嫌な顔一つせず部屋に入れてくれた。相変わらず、少し散らかった部屋だ。制服はハンガーにかけているが、パーカーやスエットは無造作に椅子に掛けられている。それに、ベッドの下には漫画が平積みされていた。大方、寝る前に読んでそのままなのだろう。


「……お前、人の部屋を覗きに来たの?」


「違いますぅ。あのさ、お兄ちゃんってローズと幼馴染なんでしょ? 本当に狼がローズだったとして、捕まえたら牢に繋いでいいの?」


「……」


 ルーカスと確認した事項の中には、捕まえた狼をどうするか、というものがあった。野生の狼であれば何故このキュクノスに狼がいるのか調べて自然に返すが、狼人間なのであれば、牢に繋ぐことになった。


 狼人間は、人と同じ頭脳を持っているから、外国人扱いされる。もちろん、法に触れる行為をすれば捕まる。もしも、自我が残っている狼人間が犯人ならば、逮捕せざるを得ない。


 本当に狼がローズとフェリクスなのか、二人に理性が残っているのか、まだ何も分からない。なので全てが仮定の話になってしまうのだが、アリスはなんだか嫌な予感がしてならなかった。


 レオは黙って机の上をしばらく見つめていたが、「よくない」と小さな声で答えた。


「ローズは、……友達だから」


「……」


 その「友達」には色々と意味が含まれていそうだ。レオの妹歴十三年のアリスは、直感的にそれを悟った。


「じゃあ、ローズのことはいつから知ってるの?」


 勝手にベッドに腰かけたアリスに顔をしかめつつも、「生まれた時から」と教えてくれた。


「母さんと、グレース先生とアンリ先生は同学年だったのもあって、すごく仲が良かった。それで、ローズとは生まれた時からずっと一緒。物心ついた時には、毎日のようにローズと遊んでた。あと、すごく優しくて……」


 ハッとしたレオの顔は真っ赤だった。


 相変わらず、分かりやすい。


「じゃあ、もし狼がローズたちなら、逮捕でも捕獲でもなくて『保護』しないとね」


 おもむろに立ち上がったアリスは、レオの前でドアを開いた。ドアの向こうには、チームメイト三人組。


「お前ら……。ってか、ドア閉まってたんだから聞こえるわけ……」


「閉まってたらね」


 アリスは床に置かれていたドアストッパーを拾い上げ、レオに振って見せた。実は、四人でレオとローズのことを色々と聞きたいと話をしていたのだ。


「いつの間に……」


 レオは赤い顔を隠すためなのか、両手で顔を覆いつくした。


「なんでアリスはこんな悪知恵ばかり働くように……」


「今それじゃないでしょ!」


 昼間の言葉を返せて、少しだけスッキリしたが、それはそれ、これはこれだ。


「悪かったよ、盗み聞きして」


 立ち上がったパウラは、代表してレオに声をかけた。


「でも君、ボクらにはローズとのこと話す気が無かっただろ。そんなに大切な子なら、教えてもらえないと困る」


「だって、依頼に私情は持ち込めないだろ」


 レオは真っ直ぐにパウラを見つめた。


「俺らは『魔術師』として、依頼人の利益を守るために行くんだ。そこに俺の意思は持ち込めない」


「そうだな。でも、本当にその狼がマルタン兄妹なのなら、アリスが言ったように『保護』する対象になるぞ。だって、二人は魔術師の子供だぞ? 国は、マルタン兄妹を『保護』する義務がある。グレース先生とアンリ先生が行方不明になったのは、国が任せた仕事が原因なんだから、お二人の代わりにならないと」


「そうだけど……」


 兄が何とも煮え切らない返事をする理由が、何となくアリスにはわかった。


 怖いのだろう。マルタン兄妹は貴族によって国の外に捨てられそうになった。王宮の人間、そもそも人間に恨みを持っていてもおかしくない。


 それに、いくら生まれた時から一緒の幼馴染とはいえ、今の肩書は王宮魔術師と行方不明の少女だ。立場が違いすぎる。


「レオ。逮捕すべき人をわざと逃がして助けることは、確かに私情です」


 皓然はレオを見つめ、微笑みかけた。


「でも、ただ困っている人を助けるのは、魔術師の仕事じゃないですか? もし狼がマルタンさんでも、そうじゃなかったとしても、君は魔術師として当然のことをしただけです。決して、悪いことではないです」


「そうだよ! その狼の正体が何であれ、困ってるから畑を荒らしてるわけだろ? だってさ、これまでにキュクノスに狼が出たことは無かったんだよ。つまり、その狼は畑を荒らさないといけない状況にあるってことにならない? ご飯がないとかさ!」


「アダンが珍しくまともなことを言っていますが、全く持ってその通りです」


「皓然、今日は酷くない?」


 言い争う二人を黙らせて、パウラもレオに笑顔を見せた。


「ほら、みんなこう言ってる。そもそも、狼がマルタン兄妹だって決まったわけじゃない。野生の狼なのか、不法入国の狼人間なのか、行方不明のマルタン兄妹なのか。それはまだ誰にも分からない。だからこそ、どんな事態にも対応できるように備えておこうよ。狼をどうするのかは、その時のボクらに任せよう。きっと、一番良い選択をするに決まってる」


 黙ってみんなを見つめるレオを、アルが小突いた。いつの間にか来ていたこの使い魔は、主人の気分が沈んでいることを察知してきたらしい。


「——うん、そうだな。ありがとう、みんな」


 やっとレオも笑顔になって、いつもの雰囲気に戻った。


 こうやって笑い合っている方が、よっぽどアリスたちらしい。

お読みいただきありがとうございました!


※誠に勝手ながら、7月からは毎週日曜日のみ投稿とさせていただきます。

 これからも「人間不信なくらいが、たぶん丁度いい」を宜しくお願い致します。

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