43.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
急な環境変化についていけないアリス。そんなアリスを、仲間たちは優しく受け入れてくれた。
そのことに感謝しているアリスに、今度は先輩たちが魔物退治のお手本を見せてくれることになって……。
「じゃあ、授業に戻りましょうか。二人とも、次はこの先輩三人がお手本を見せてくれる。三人がどうやって立ち回っているのか、よく見ておいてね」
メアリーの言葉にアリスたちが頷くと、今度はメアリーが本を開いた。
パウラは呪文のようなものを唱えていたが、メアリーは本の丁度真ん中あたりを開いて右の指を鳴らした。たったこれだけの動作で、先輩三人の前にさっきとは違う生き物が姿を現した。
人間の上半身を持っているが、その下半身は猛禽類のようだった。茶色の背中からは大きな翼まで生えている。顔はとても美しいのだが、とにかく汚かった。逞しい足や長い髪の先についているのは、糞だろうか。匂いもキツイ。
雄たけびを上げるその怪物を目に、再びポカンと口を開いたまま動けなくなったアリスたちに、メアリーは再び「ハルピュイアよ」とこの怪物について教えてくれた。
「昔は拷問用に各国の地下牢にもいたんだけど、あまりにも危険だから地下牢に置いておくのをやめたの。風を操る力を持っていて、毎年ハルピュイアが起こした突風による被害が出てる」
メアリーの言葉に合わせるように、飛び上がったハルピュイアはレオ達に向かって突風を巻き起こした。汚い羽根を忙しく動かすと、それに合わせて風が巻き起こる。
アリスたちはメアリーの魔法陣に守られているが、先輩たちは直撃を受けてしまった。
——と、思ったのだが。
ハルピュイアが翼を動かすのをやめた時、そこにも魔法陣が浮かび上がっていた。だが、そこにいるのはレオと、魔法陣を浮かべているパウラの二人だけだった。
いつの間にか、皓然がいない。
そう思ったのもつかの間、彼の居場所は地面にたたき落されたハルピュイアが教えてくれた。
どうやら、いつの間にか皓然はクロエと一緒にハルピュイアの背後に回り、空中にいたハルピュイアを空からたたき落としたらしいのだ。
刀を握った皓然は音もなく着地すると、立ち上がろうとするハルピュイアに向かって走り出した。
しかし、今度は流石に皓然の存在に気付いているハルピュイアは、この人間を吹き飛ばそうともう一度飛び立とうとした。
その瞬間、ハルピュイアの立派な二枚の羽に穴が開いた。
悲鳴が上がったのもお構いなしに、レオはもう一度引き金を引いた。今度は、羽の付け根に。こちらの方がダメージは大きいらしく、ハルピュイアは地面に倒れ込もうとした。
完全に地面に倒れる前に、皓然はその首を斬り落としてしまった。
あまりにも残酷な映像にアリスは思わず顔をそむけたが、アダンは「すっげぇ!」と大変興奮している様子だった。
先ほどのレッド・キャップ同様、ハルピュイアの体は砂になってメアリーが持つ本の中に吸い込まれていった。
南京錠がかけられたその本の題名は、『世界の魔物図鑑』だった。
「アリスは、こういうの苦手?」
メアリーのその問いに迷うことなくうなずいたアリスは、魔物の説明を受けた時のことを思いだした。確か、魔物に命はない。魔力で体もできていると説明されていた。だが、実際はちゃんと生き物ではないか。悲鳴をあげたり、痛みを感じていたり。
正直、魔物にも痛覚がある事を知りたくはなかった。
だが、他の生き物と決定的に違う部分は分かった。魔物は血を流さない。怪我をした部分からは血ではなく、黒い粒子の様なものがあふれ出ていた。それは話に聞いていた通り、空に昇って空気に溶けて行った。魔力で体が出来ているのは本当らしい。
メアリーはやってきたレオたちを労うと、新人二人に「まずは魔術について、お話するからね」と微笑んだ。
「一言に『魔術』とは言っても、実は三種類あるの。一般魔術、家系特性、使い魔特性の三つ。先輩たちはちゃんと、全部の魔術を使ってくれてたね。それぞれの魔術がどれに一致するか分かる?」
「はい!」
アダンが元気よく手をあげた。
「まず、パウラがハルピュイアの突風を防いだのが一般魔術! あれは防御魔術でしょ?」
「正解! 一般魔術は、平たく言えば誰でも使える魔術。パウラの防御魔術もそうだし、私たちがレッド・キャップやハルピュイアを呼びだした召喚魔術も一般魔術。最初に誰でも使えるって言ったけど、一般魔術もちゃんと練習しないと使えないからね。それに、中途半端な術だと脆くなる。パウラがハルピュイアの攻撃を防ぎ切ったのは、魔術の完成度が高かったことの証明になるわね。あとは?」
メアリーの言葉に、アリスは目を細めた。確か、皓然の近くにクロエがいた気がするから、恐らく皓然が使っていた魔術というのは……。
「使い魔の魔術が、皓然が使ってたやつ、かなぁ……」
「おお、正解!」
アリスの回答に、皓然は目を丸くした。
「よく分かりましたね」
「確か、クロエが近くにいたから」
「よく見てたね」
メアリーはアリスに笑いかけた。
「素晴らしい観察力だわ! 使い魔特性っていうのは、文字通り使い魔の特性を引き出す魔術。アリス、使い魔がどんな存在なのかは知ってる?」
「えーっと、何となく?」
「説明することは?」
「できないです」
素直にそのことを認めても、誰も責めてくることは無かった。
「分かった。それじゃあ、使い魔についても説明しましょう。でも、その前に魔術の説明と家系特性について説明させてね。さて、レオが使っていた魔術が、家系特性。これは、文字通りその家系の人にしか使えない魔術よ」
アダンはそのことに大きくうなずいたが、アリスは首を傾げた。するとレオが「家系特性は、ゲームの専用技みたいなもんだよ」と分かりやすく教えてくれた。
「基本、両親から受け継ぐ形になる。でも、隔世遺伝でばあちゃん、じいちゃんの特性を引き継ぐ場合もあるし、両親の特性が混ざったミックス型になることもある。この世界では家を継ぐ時にも関係してくるから、覚えとけよ」
「じゃあ、お兄ちゃんと私の家系特性は一緒ってこと?」
「さあ? お前の家系特性は分かんないな。兄妹でも家系特性が違うことって結構あるんだ。皓然の所はまさにそう。皓然の家系特性と牡丹の家系特性は全くの別物だよ」
驚きの目を皓然に向けると、彼はアリスに大きくうなずいて見せた。
「ぼくは父さんから受け継いだ特性ですが、牡丹姉さんの家系特性は母さんから受け継いだものです」
「ね? だから、お前がの家系特性と俺の家系特性が一緒だって、言い切れないんだ。ちなみに、俺の家系特性はランフォード家の家系特性で、父さんと同じ。逆に、兄ちゃんは母さんから受け継いだ家系特性。ポポフ家のものだから、じいちゃん、母さんと一緒」
メモにペンを走らせながらアリスが頷いていると、アダンが「ってことはさ」とメアリーを見つめた。
「アリスの家系特性は、ヘレナ先生のものか、カイル先生のものか、そのミックス型ってことになるよね? ヘレナ先生と同じだったら、アリスも『百発百中』だ!」
「『百発百中』?」
再びアリスが首をかしげると、メアリーが説明してくれた。
「ランフォード家の家系特性のこと。術者が攻撃とみなしたものは、必ず狙った場所に、狙った威力で当たる。術を使っている間、レオの攻撃は絶対に当たるの。ルイス先輩もそうよ。まあ、ルイス先輩もレオも、特性が無くても腕の良い狙撃手だけどね。でも、ヘレナ先輩の家系特性は『百発百中』じゃないのよ」
「そうなんですか?」アリスは目を丸くした。「じゃあ、ヘレナおばさんの家系特性って何なんですか?」
その問いに返ってきたのは、アリスが全く予想していなかったものだった。
「分からないの」
「『分からない』?」
さらに首を傾げたアリスと、素っ頓狂な声をあげたアダンに、メアリーは困ったように息を吐きだした。
「ヘレナ先輩は、一度も私たちの前で家系特性を使ったことがない。今思えば、身元が割れることを抑えていたのね。ルイス先生も、あの一件まで一度も家系特性を使っていなかった」
「『あの一件』って?」
「……現代魔術界の根幹を揺るがす、大事件よ。当時の学生魔術師の半分が死に、世界大戦にまで発展したの。そのうち、授業で習うと思うけど」
その暗すぎる内容にアリスは音を立てて唾を飲み込んだ。謁見式で、国王は「魔術師は国と国民を守る存在」だと言っていた。
もしかして、戦争になったらアリスたちは——。
「話を元に戻すけど、君の家系特性はまだ分からない」
脱線した話を元に戻し、パウラは肩にアーベルが乗っているのに構わず、肩をすくめた。
「でも、近いうちに家系特性がわかる簡単なテストがあると思うから、その時に分かると思うよ。で、先生。使い魔について説明してもいいですか?」
「もー、パウラがいてくれて先生めちゃくちゃ助かっちゃう! ありがとう!」
パウラに笑いかけ、メアリーはその白い手にアーベルを乗せた。
「使い魔は、アーベルたちのように、魔術師と契約を結んだ聖獣のこと。契約を結ぶことで、魔術師は自分の魔力を使い魔に与えることになる。代わりに、魔術師は使い魔の特性を使うことができるようになる。まさに一心同体の存在ね。魔術師が死ねば使い魔も死に、使い魔が死ねば魔術師にもそれ相応の痛みが襲い掛かってくる。その代わり、魔術のレパートリーが増えるから、使い魔を持つ魔術師は多いの」
「じゃあ、私も使い魔を持つんですか?」
かっこいいから、アリスも使い魔を持ちたいと常々思っていた。
なのに、メアリーは難しい顔をする。
「それも分からないの。魔術師が使い魔を選ぶのではなくて、使い魔が魔術師を選ぶから。それに、使い魔の特性も実際に契約を結ばないと内容が決まらないの。契約のテーブルに出すものによっては、魔術師にばかり負荷がかかることもあるし」
「え? 魔力の供給と特性だけじゃないんですか?」
「違うのよ、それが。聖獣というのは、自然界の魔力だけで生きている存在。それが魔術師の魔力と置き換わるの。もちろん、それには魔術師の個性がある。使い魔は魔術師の色に染まっていくってわけ。でも、何もかも同じだとお互いに疲れちゃうでしょ? だから、共有するものに制限をかける。魔力と特性の契約は前提として、何を共有するのか。その共有するものによって、特性が変わる。……見た方が早いわね。皓然、見せてあげて」
アリスが頭から煙を出しているのを見たメアリーの指示に従い、皓然はクロエの特性を使って見せてくれた。
わざわざ距離をとって、皓然とクロエの瞳が不思議な光を発し始めた。二人の影が急に濃くなって、ついには真っ黒になった。
すると、急にクロエが自身の真っ黒になった影に飛び込み、皓然の陰から飛び出してきた。
「……へ?」
「これが、さっき皓然がハルピュイアの後ろに移動した理由」
皓然とクロエにお礼を言って、メアリーはニヤリと笑った。
「難しいわね。聖獣だった時のクロエは、魔力を操ることはできたけど、『魔術』は使えないでいた。でも、皓然と契約することで、主人を得たクロエは特性っていう魔術が使えるようになる。それじゃあ、どんな魔術を使うのか。それを決めるのが、主人と使い魔の共有。この二人は『影』を共有することにした。すると、クロエの特性が『影を境界にする』って内容に定まった。恐らくだけど、元々クロエは境界に関する魔力を持っていたのかも」
「えーっと、つまり……。使い魔特性はランダムってことですか?」
「まあ、シンプルに言えばそう。ちなみに、アーベルは『五感の交換』、アルは『すべての能力を底上げする』特性。リーダーのパウラは、みんなの一般魔術の精度、家系特性、使い魔特性、性格、得意武器を見て、依頼の時に指揮を執ってくれるの。だから、魔術に関する情報はみんなで共有するようにしてね」
会ってすぐの時は「覚えることが一杯で大変だよね」と寄り添ってくれたのに、メアリーの授業は最初からフルスロットルだ。
「じゃあ、一区切りついたところで、アリスとアダンに一番大事なことを教えるわ」
そう言って、メアリーは大まじめな顔で二人にこういった。
「『人間不信なくらいが、丁度いい』が、うちのスタンスよ」
「『人間不信』、ですか?」
あまり良いイメージではない言葉だ。
アリスが首をかしげて見せても、メアリーは「そのうちわかるわ」としか教えてくれなかった。いや、言ってくれなかった。
今日は魔術の種類とその特徴だけ覚えてくれればいいということで、これ以上アリスがメモを取ることは無かった。だが、まずは感覚を掴むのが大事だということで、メアリーが召喚した魔物たちと戦って……、アリスは逃げ回って、今日は終わった。
お読みいただきありがとうございました!




