39.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。暴力表現、流血表現、荒い言葉遣い等を含みます。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
※手違いで、「40.」と前後してしまっています。申し訳ございません。
物語の順番は、タイトルの数字通りになります。
〈あらすじ〉
謁見式で無事、魔術師の階級章を受け取ることができたアリス。チーム分けでも、パウラたち「あまりもの組」に入ることになり、歓迎してもらえた。
「じゃあ、チーム登録しに行こうか。それから、割り振りも一緒に教えるよ」
パウラはそう言ってチームの先頭を歩き、申請書をひらつかせた。いつの間に書いていたのか、既に五人分の名前がそこに書かれていた。
「リーダーはボク、パウラ・ツヴィングリ。補佐は黄皓然。会計担当はレオ・ランフォード。とはいっても、レオは今までほとんど別世界にいたから、ほとんど皓然がやってくれてた。これで、皓然の仕事が一つ減ったな。さて、新人たちには何をしてもらおうかな」
申請の機械は、なんだかファストフード店にある注文機械のようだった。大きな画面の下から申請書を入れると、画面にメンバーの名前が表示された。名前に間違いがなければ、次は魔力の登録だ。
とても簡単だった。支払いの時のように、画面に現れた手のイラストに触れるだけ。また血を取られると思っていたアリスは、驚きながらも自分の魔力を登録してもらった。
これで、新人二人は無事、『あまりもの組』のメンバーになった。
「それじゃあ、教室に行っておいで。君たちの担当は、三人で考えておくよ」
「パウラ、ちゃんと自習しないとダメなんじゃないの?」
笑いながらアダンが言うと、パウラはニヤリと笑った。
「自習だろ、魔術実技の。大事なことなんだからな、これは。なにせ、ボクらみんなの命がかかっているんだから」
「い、命?」
アリスが顔を引きつらせると、皓然が「パウラ」と軽くリーダーを睨んだ。変にアリスを怖がらせたからだ。
「アリス、そんな気負うことは無いですよ。備品の調達とか、そういうことだけです。まずは魔術師の生活に慣れてもらわないといけませんから、そんな難しいことも、重要なことも任せる予定はありませんよ」
「何言ってるんだよ。備品の調達だって重要な仕事だろ。でも、皓然の言った通り、君たちにはまだ難しい仕事を任せるつもりはないよ。ごめんな、脅かして」
ジャケットと帽子を脱ぎながら肩をすくめたパウラは、アリスたちを教室まで送ってからレオたちと一緒に自分の教室へと歩いて行った。
「そうだ、アリス。さっきはごめんね」
教室に入る直前、アダンは本当に申し訳なさそうにアリスを見つめた。
「緊張してたみたいだから、解れるかなって思ったんだけど」
「いいよ、もう。大丈夫だから!」
確かに、あれには心底驚いたけれど。
だがアダンが本当に悪い人……、いや、エルフではないということは、もう分かっている。
「それより、これからよろしくね」
「うん、こちらこそ!」
アリスの手を握り、アダンは勢いよく手をブンブン振ってきた。とても嬉しそうに。
「えっへへ! ぼくさ、ぼくさ! 君とお話してみたかったんだ!」
「そ、そう……」
昨日、たくさんお話を聞いた覚えがあるのだが……。
「だって、あの『英雄ランフォード』の娘だもん! ラファエルとレオからもたくさん話を聞いてたけど、君からも話を聞きたかったんだ! それに、同じ英雄の子供同士仲間だしね! ぼくの母さんもヘレナ先生のチームメイトだったんだけど、知ってた?」
「えーっと……」
「——そこ、退いてくれる?」
冷ややかな声に二人そろって飛び上がると、声の主は鼻を小さく鳴らした。
綺麗な女の子だ。艶やかな赤毛にはウェーブがかかっていて、鼻筋もスッと通っている。しかし、大きな茶色の瞳はアリスたちを睨みつけている。
「邪魔なんだけど」
「あ、ごめんなさい……」
アリスは謝りながらドアの前を譲ったが、その子はもう一度鼻を鳴らした。
「金髪だからって、調子に乗りすぎよ。この平民風情が」
驚きのあまり言い返せずにいるアリスの前で、その子はポニーテールの子にドアを開けてもらって教室に入って行った。
「……ひぇー、怖かったぁ」
アリスの手を離して、アダンは冷や汗を拭うように前髪をかき上げた。
「やっぱ、侯爵令嬢は威厳が違うなぁ」
「えっと、今の誰と誰?」
「ルイーズ・ド・フレースと、セレナ・リラ・コルデーロだよ。昨日、教えてあげなかったっけ? 怒ってたのがルイーズで、ドアを開けたのがセレナ。セレナは推薦枠で入学してきたってことしかデータがないなぁ。ルイーズはこの国の侯爵の娘で、質の高い魔力を持ってる。同じ令嬢なのに、パウラとは全然違うよね」
「うん……」
アダンに返事をしながら、アリスはあることに気が付いた。
今さっき、自分はそのルイーズに罵倒されなかっただろうか? こっちの世界に来てから、そう言ったことが全くなかったので完全に油断していた。
「私、別に調子に乗ってないし!」
「でも、ルイーズにぼくらは逆らえないよ。ランフォード家もトゥータン家も、平民身分だ。あ、平民とか公爵とか、身分制度って知ってた?」
「知ってる。別世界にもあった」
今頃になって沸々と怒りが湧いてきたアリスだったが、何とかその怒りを飲み込んだ。
初日から、これ以上面倒ごとを起こすべきではないだろう。それに、何かあってもアリスには頼れる友達が四人もいるではないか。
「ルイーズはきっと、自分が推薦をもらえなかったのが悔しいんだよ。普通、推薦って貴族に与えられてる特権だから。推薦がもらえなかったら、元々王宮に仕えていたとしても入学試験を受けないといけないしね」
「へえ」
「困ったなぁ。うちのクラスで一番爵位が高いのはルイーズなんだ。ルイーズの取り巻きはセレナ以外みんな貴族だし、ぼくら含めて、クラスメイトのほとんどが平民身分だし。誰もルイーズに逆らえないや」
「同じ学生なんだから、そういうの関係ないんじゃないの?」
少なくとも、アリスが通っていた別世界の学校はそうだった。貴族の子と平民の子で仲良くしているのを見たことがあるし、先生も「身分は関係ありません」と言っていたし。
だが、アダンは首を左右に振った。
「この世界では、魔力と身分で秩序が成り立っているんだよ。基本、上の身分の人には逆らえないんだ」
「何それ!」
魔術界の嫌なところを発見してしまった。
だが、いつまでもここで立ち話をしているわけにもいかず、二人はやっと教室に入った。
二十七人分の机が並ぶ教室には、もうほとんどが集まっていた。桃子たちは随分前に来ていたらしかったが、アリスたちが入ってきてそうそう小走りで近づいてきた。
その後ろからも大勢のクラスメイトたちが駆け寄ってきた。十五人はいるだろう。みんな口々に「君、凄いね!」とアリスに話しかけてきた。階級章の授与式前の一件を言っているらしい。
「君と同じクラスになれて嬉しいよ!」
「凄く強い魔力を持っているんだね!」
「ねえねえ、ランフォード先生の娘さんなんでしょ?」
「ポポフ隊長って、お家でも厳しいの?」
「ねえ、先生たちに魔術を教わってたの?」
クラスメイトたちが次々と話しかけてくるから、アリスは戸惑ってばかりだ。こんなに風にもみくちゃになったのは、生まれて初めてだ。
だが、その人込みの間からルイーズがこちらを睨んでいるのが見えた。
しばらくすると、最後の一人と一緒にアドワがやってきた。
「席は決まってないから、各自好きな席に着きなさい。これからの流れを説明するから」
生徒たちが席に着くと、アドワは「今から王宮を案内するから」と言いながら教壇に立った。
「これまで王宮魔法使いとして仕えていた子が多数だろうけど、今年からの子もいるから。街の地図同様、王宮の地図は無いから自分たちの足で歩いて覚えなさい。それから、場所の説明もする。分からないことがあったら私たち上級か、チームメイトにでも聞いて。早速だけど、行こうか。並ばなくていいから、廊下に出て」
ぞろぞろと廊下に出た生徒たちの先頭を歩くアドワは、最初に長い廊下を歩き始めた。
「ここは教室棟。隣は魔術師養成課程二年生のクラス。それから順に、三年、四年、と続いている。魔術師の教室はこの並びにある」
事前にパウラが簡単に施設の説明をしてくれていて助かった。一度聞くだけではきっと、アリスは半分も覚えられていなかっただろう。図書館とラファエルの研究室、談話室だけはちゃんと使い方も分かっていたけれど。
それから、医務室、先生たちの執務室、寮棟……。色々と説明を受けながら歩いていたら、急にアリスは足をとられて派手に転んでしまった。
「アリスちゃん、大丈夫?」
「あ、うん。ありがとう」
心配そうに手を貸してくれた桃子にお礼を言いながら立ちあがったアリスの耳に、クスクス笑う声が聞こえてきた。
チラッと視線を向けてみると、やはりルイーズがバカにしたように笑っていた。
「おい、そこ。どうした」
「……すみません、足がもつれたみたいで」
アドワにヘラッと笑って見せてから、思わずアリスはルイーズに視線を向けた。「あんたがやったことは、分かってるんだからね!」と。
アドワは肩をすくめて「気を付けなさい」と注意しただけで、説明に戻ってしまった。
それからも説明は続いたが、イライラしていたアリスは説明が全然頭に入っていなかった。何とかしてルイーズにやり返してやりたいが、その方法は一つも思い浮かばなかった。おまけに、左足首がジンジンと痛んでいるから、歩くのも一苦労だ。
結局、仕返しの方法は思いつかないまま、アリスは部屋に帰ってきた。ルイーズのせいで、本当に何も頭に入ってこなかった。その証拠に、道に迷って部屋に戻るのにかなり時間がかかった。
お読みいただきありがとうございました!




