37.
〈注意事項〉
※15歳以上推奨作品です。
※敬語表現に間違いがあるかもしれません。あまり気にしないでいただけると幸いです。
〈あらすじ〉
部屋には、アリスの制服が届いていた。
新しい制服にそでを通したアリスは、いよいよ謁見式に臨むのだが……。
「——ねえ、お兄ちゃん! 早くしてよー!」
「分かってるって! ってか、お前がちゃんとネクタイを結べていれば、こんな慌てることは無かったんだよ!」
「曲がってないもん! お兄ちゃんが細かいだけだもん!」
「曲がってるってば! 襟元もちゃんと正せよ!」
「だからしてるってば! お兄ちゃんがネクタイを結び直すからおかしくなったの!」
朝から、リビングにはそんな兄妹の言い合う声が響いていた。
いつもは大雑把なくせに、兄は変なところで細かい。今日はそれが特に出ていた。着替えてきたアリスを見て、やれネクタイが曲がっているだの、襟元が乱れているだの、髪が乱れているだの、昨日よりスカート丈が短いだの……。
結局、アリスは降ろしていた髪を一つにまとめられ、ネクタイもレオに綺麗に結び直されて不貞腐れていた。いつまでも兄が子ども扱いしてくるからだ。
ちょっとした抵抗で、レオが結い上げてくれた長いしっぽは、三つ編みにしてやった。何か言いたそうな兄には、「こっちの方が髪が邪魔にならないから」と舌を出して見せたら、何も言われることもなかった。
「朝から元気なもんだ」
テーブルに頬杖をつくパウラは言い争う兄妹を見てため息をつき、皓然は乾いた笑いを漏らしていた。
今日はパウラたち三人も正装だった。レオは燕尾服のような制服ではなかったし、皓然はブーツでなく革靴を履いていた。
パウラはアリスと違って、やはりパンツスタイルだった。ただし、珍しくジャケット姿だ。何でも、動きにくいから普段はジャケットを着ないらしい。
レオの手が入った正装姿のアリスは不貞腐れながらも謁見の間に着いたが、そのとたん機嫌など直ってしまった。
まるでアニメのような美しい空間だった。高い天井にはめ込まれたステンドグラスから差し込む美しい光が大理石の床を照らし、汚れ一つない白い壁には金細工。部屋の奥には、国王が座るための豪華なイスが階段の上に備え付けられていた。二脚あるので、国王と王妃の椅子なのだろう。
その光景に思わず息をのんだアリスの元に、桃子たちがやってきた。アリスたちに挨拶をした彼女は、「集合場所まで一緒に行こ!」とアリスに言ってくれた。
「ありがとう、桃子。ほら、行ってこい」
「あ、うん。じゃあね、みんな。あとでね」
レオに背を押され、アリスは天井を見上げながら桃子に手を引かれて歩き出した。
「アリスちゃん、ちゃんと前見ないと危ないよ。綺麗なのは分かるけど!」
「あ、うん。ごめん」
ハッとしたアリスは、やっと前を見て歩き出した。
そして、気が付いた。
周りにいた人たちが、何やら自分のことをジッと見ていることに。
それに気づいた瞬間、アリスの心臓が大きく飛び上がった。緊張で喉がカラカラに乾いて、急激に体が強張っていくのを感じる。
だって、みんなアリスを品定めするように見てくるから。
アリスの手が冷や汗をかいていることに気付いたのか、桃子は何も言わずにアリスの手を握り直してくれた。
「あ、やっと来た!」
「……二人とも遅い」
そんな中、いつも通りに接してくれるユーゴと俊宇にアリスは少し安心できた。
「遅刻してないから大丈夫だって」
桃子は胸を張って答えた。
「集合時間の十分も前だしね!」
「何言ってるんだよ。最低でも十五分前には着いてないと。魔術師は十五分前行動。アドワ先生も言ってただろ?」
「人が多いからしょうがないよね」
開き直った桃子に、ユーゴはわざとらしく大きなため息をついて見せた。とはいえ、これで桃子が反省してくれればユーゴだって苦労しないのだ。
「それよりさ! 前から思ってたけどすごく綺麗だよね、このお城!」
「……『それより』じゃないけど、……確かにそう。……あと、ここは王宮」
桃子に答え、俊宇も改めて謁見の間を見回した。
「……ステンドグラスが多い」
「言われてみれば」
アリスも改めて天井を仰ぎ見た。そこにはやはり、金色に輝く髪と空のように澄んだ青い瞳を持つ、美しい女性が描かれている。
この世界の創造主だと、皓然は言っていた。
そして、その人が自分たちのご先祖様なのだと。
それらを踏まえると、周りがアリスをジロジロと見ていたのもうなずける。それに、この世界には本当に自分たち以外に金髪を持っている人がいなかった。レオのような青い瞳を持っている人も。
「なーにしてんの?」
突然後ろから勢いよく誰かがぶつかって来て、思わずアリスは悲鳴を上げてしまった。それに、大きな音を立てた静電気まで。
周りの人たちが思わずその場にしゃがみこむほどの静電気だった。バチバチと音を立てる静電気は、散々「綺麗だ」と言っていたステンドグラス近くまで弾けて行った。
このことに周りはもちろん驚いていたが、それよりも驚いているのがアリスだった。親元にいた時、確かにこういう珍現象は幾度となく起こってきた。だが、こうやってその力が目に見えたのは初めてだったし、こんなにも威力の大きなものとは思ってもみなかった。
「すっげ……」
そんなことを言いながらも、ユーゴは頭を抱えたまま呆然とアリスを見上げていた。
まだ静電気をまとって、呆然としながらバチバチと音を立てているアリスを。
「何これ……。私がやったの?」
「……こっちが聞きたいし、……ランフォードにしか出来ない」
ノロノロと起き上がった俊宇は、まだ目をチカチカさせているらしい桃子が立ちあがるのに手を貸した。
それから、アリスに突然ぶつかってきた人物にも。
「……大丈夫?」
「し、しびれてる」
桃子同様、目を回しているエルフは俊宇の手を借りながら立ち上がったが、フラフラしていた。
そこに駆けつけてくれたのが、パウラたちだった。
「おい、アリス! 何だよ、今の!」
駆け付けたレオは呆然としているアリスの肩を掴み、軽く揺さぶった。
「何かあったのか!?」
「わ、私……。その、ビックリして……」
「ビックリ?」
その言葉を聞き、レオはエルフの少年を睨みつけた。パウラと皓然の二人に絶賛怒られ中の、エルフを。
「アダン! お前、アリスに何したんだよ!」
「こ、声をかけただけだよ!」
アダンはそう言うが、皓然は「それだけじゃないでしょう」と睨んだ。
「こっちに来てから、アリスはずっと魔力を暴走させてなかったんです。君のことだから、アリスのことを驚かせたんじゃないんですか?」
「それは……、うん」
「やっぱり」
皓然が大きなため息をついた時、他の人たちもゆっくりと立ち上がり始めていた。アリスの周りで弾けていた静電気が消えつつあったからだ。レオたちが来てくれたから、アリスは落ち着きを取り戻しつつあった。
パウラはその間、「お騒がせして申し訳ございません」と周りの人たちに謝って回っていた。アリスもアダンも、彼女のチームに入る予定だからだ。
だが、誰も非難の声をあげることは無かった。むしろ、アリスの力を「素晴らしい!」とほめてくれる。そのことにアリスはホッとしたが、レオたちは何だか浮かない表情だった。
「やはり、あの子は素晴らしい力を持っているんだ」
「こっちに帰ってきて正解よね。別世界で腐らせるには惜しいもの」
「全く、あの子を別世界で育てようだなんて! ランフォード夫妻は一体何を考えているのかしら!」
「これでこの世界も安泰ですわ」
「ああ。やっと、ヘレナをどうにかできるよ」
「この国はもう一度、英雄を生み出せるのね」
そんな声が聞こえて来て、アリスはギクッと体を再びこわばらせた。
両親から聞いていたではないか。この世界の人々は、アリスがヘレナを殺すことを望んでいるのだと。今の事故を誰も責めないのは、アリスの能力が彼らの合格ラインを超えたからだ。
だから、レオたちは浮かない表情をしていたのだ。
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